余白が、いちばん難しい。
字だけ見ていると、線の形をなぞれば書けそうに見える。実際に紙へ置くと、線と線のあいだ、字と字のあいだ、紙の端までの距離が先に気になる。そこが詰まると、黒が正しくても息ができない。空きすぎると、今度は字がバラバラに浮く。
お手本は、その空き方まで含めてできている。一画の角度だけでなく、どこで紙を休ませるかが決まっている。簡単そうに見えるのは、余白が計算されたあとの顔だからだ。デザインと言ってしまっていい。文字を並べたのではなく、黒い線で余白の形を作っている。
書いてみると、すぐわかる。真似したつもりの行が、お手本より窮屈だったり、間延びしていたりする。線は近づいても、空間が別物になっている。墨の濃さも、紙の吸い方も、結局はこの余白を生かすためにある。
だから磨っているあいだ、お手本の黒より、黒の周りを見ていることがある。どこが空いているか。その空きが、次の線の入りを決めている。余白は何も書いていない場所なのに、お手本のなかでいちばんよく考えられている部分だ。