
小説資料集『DNA鑑定編』
ミステリー小説を書いていると、DNA鑑定という言葉が登場することがあります。
現場に残された血液。
犯人が触れた物。
身元不明の遺体。
親子関係。
数年前に失踪した人物。
こうした謎を解くために登場するのがDNA鑑定です。
「DNAが一致したので、この人物が犯人です」
という展開は非常に分かりやすく、物語を大きく動かす証拠にもなります。
しかし、現実のDNA鑑定は、ドラマや小説で描かれるほど単純なものではありません。
DNAとは何なのか。
何を調べているのか。
どこまで人物を特定できるのか。
DNA鑑定だけで犯人を断定できるのか。
この記事では、小説を書くうえで知っておきたいDNA鑑定の基本を整理していきます。
DNAとは何なのか
DNAは、正式にはデオキシリボ核酸と呼ばれる物質です。
人間の身体を作ったり、維持したりするために必要な遺伝情報を持っています。
非常に簡単に表現すれば、「その人の身体を作るための設計情報が記録されたもの」と考えると分かりやすいでしょう。
DNAは細胞の核などに存在しています。
そのため、血液、唾液、毛根の細胞、皮膚片など、細胞が含まれているさまざまな生体試料からDNAを調べられる場合があります。
ただし、ここで小説を書く人が注意したいのは、
「人間の身体にあるものなら、何でも同じようにDNA鑑定できる」
というわけではないことです。
試料の種類や保存状態、含まれているDNAの量、他人のDNAが混ざっていないかなどによって、分析のしやすさは変わります。
DNA鑑定では何を見ているのか
DNA鑑定という言葉から、
「DNAそのものを全部読み取って人物を特定する」
というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、法科学で行われるDNA型鑑定では、個人差が現れる特定のDNA領域などを調べ、その結果を比較する方法が利用されています。
代表的なのがSTR型検査です。
STRは、DNA上にある短い配列の繰り返し部分です。
この繰り返し回数には個人差があります。
複数のSTR領域を調べ、その型を比較することで、同一人物由来の試料である可能性を非常に高い精度で評価できます。
小説で、
「DNA型が一致した」
と書く場合、このようなDNA型の比較をイメージするとよいでしょう。
DNA鑑定に使えるもの
犯罪捜査を題材にするなら、DNAがどこから採取されるのかを知っておくと描写にリアリティが出ます。
たとえば血液。
これは非常に分かりやすい試料です。
ただし、DNA鑑定で重要なのは血液そのものというより、そこに含まれる細胞などから得られるDNAです。
唾液も重要な試料になります。
口の中の細胞が含まれているためです。
そのため、唾液が付着した物からDNAが検出されるという展開も考えられます。
毛髪については、少し注意が必要です。
「髪の毛が落ちていたから、すぐDNA鑑定できる」と考えがちですが、毛髪の状態などによって得られるDNA情報は変わります。
特に、毛根部分の細胞があるかどうかは重要なポイントになります。
皮膚片なども、状況によってDNA分析の対象になります。
このように、現場にはさまざまなDNAの手掛かりが存在する可能性があります。
「DNAがあった」だけでは犯人とは限らない
これはミステリーを書くうえで、非常に重要なポイントです。
現場からAさんのDNAが検出された。
だからAさんが犯人だ。
この論理は、必ずしも成立しません。
たとえば、被害者の部屋から恋人のDNAが見つかったとします。
しかし、その恋人が普段からその部屋に出入りしていたのであれば、DNAが存在すること自体は不自然ではありません。
つまり、
「DNAがある」
ことと、
「事件を起こした」
ことは別の問題なのです。
DNA鑑定は、そのDNAが誰に由来する可能性が高いかを調べるための強力な証拠になり得ます。
しかし、その人物が「いつ」「どこで」「なぜ」そこにDNAを残したのかまでは、DNAそのものから直接分かるわけではありません。
ここを利用すると、非常に面白いミステリーを作れます。