
愛おしき傷あと①
平成半ばのある年の9月、わたしは大学4年生だった。
7月に受けた教員採用試験は不合格。
就活なんてしていない。
来年また教員採用試験を受けるとして、とりあえず、卒業だけはなんとかしなければならない。
これまで受験だの試験だの、全部なんとかなってきたわたしの、初めての挫折。
もうヤケになって、不良になってやる!と、タバコをくわえ(吸えはしない)、友達と飲み歩いた。
…ずっとムカムカする。
さすがに二日酔いじゃないくらい、長いことムカムカしてる。
まさか、ね?
わたしには、二年間付き合ってる恋人がいた。
ふたつ年下の、愛想がよくて、口がうまくて、車の運転もお料理もあれやこれや全部上手なイケメンで、呼吸をするように嘘をつく、どうしようもない男だった。
彼は、わたしのいないところでさんざん他の女の子と遊んでいたが、わたしやわたしの家族の前では、優しくて、わたしのことをお姫様みたいに大切に扱ってくれる、礼儀正しい好青年だった。
どうしようもない男なのはわかっていたが、それでもわたしは、彼のことがどうしようもないくらい好きだった。
彼と付き合い始めて、わたしは彼の家に入り浸るようになった。
わたしの両親は、彼が自宅によく遊びに来て、笑顔で話し、料理上手な母の手料理を実に美味しそうにもりもり食べ、常に礼儀正しいので、彼のことを非常に氣に入っていて、わたしが彼の家に入り浸ることを許し、なんなら家で採れた野菜やお米を持たせてくれるくらいだった。
まさか、妊娠してる?
心当たりはないこともない。
でも、もし妊娠していたら、わたしはタバコをくわえ、友達と飲み歩いたから、悪影響があるハズ。
いずれにせよ、産むことはできない。
氣のせい、よね?
それから数日経っても、ムカムカはおさまらない。
わたしは、意を決して、いつもは行かないドラッグストアで妊娠検査薬を買った。