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Photo bytokyojack

質問の話。

    今日家に帰ってきたら、立派なブドウが届いていた。お義姉さんがスーパーに勤めているため、我が家では毎年この時期になると何かしらの果物を送ってもらっている。

    最近本当に果物が高い。値札を見る気もしないレベルで一体誰が買っているんだと思うのだが、それでも毎日ちゃんと売れているところを見ると私がただ貧乏なだけということがよく分かる。

    ムスメは今日インフルエンザ明け初日で、頑張って幼稚園に向かっていった。すっかり疲れていたのだろう。夕飯もよく食べた。妻はデザートに冷やしておいたそのブドウを水で洗ってから、何粒かだけを百均で買った小さなガラスの器に盛りつけた。

    ブドウは神紅しんくとシャインマスカット。シャインマスカットは食べたことがあるが、神紅の方は初めてだった。聞けば島根の特産品らしい。ルビーのような深い赤をした大振りな果実は前歯を当てるとパンパンに張った皮がブチっと破れ、ブドウ特有のわずかな渋みと芳醇な甘みが口いっぱいに広がった。

    で、食べ終わったあと、洗い物をしていた妻が私に問いかけた。

    「もうちょっと食べたかった?」

    軽いひとことに見えるだろう。実は私はこの手の質問が本当に好きじゃない。理由としては回答に対して明確なNGが含まれているからだ。

    私は「そうだね、あと何粒か食べたかったかな」と答えた。

    すると妻は「そういうのって、片付ける前に言って欲しいんだけど」と返してきた。

    こういうことだ。質問自体が破綻している。そうならば最初から「今から片付けるつもりだけど、もう少し食べたい?」と聞いて欲しい。なんてことを私が言ったものだから、せっかくの楽しい食卓の雰囲気が一気に台無しになったのは想像に難くないだろう。

    でも、これって割とビジネスなんかでもよくあると思う。二者択一と思わせて、実は片方の回答は暗黙のトラップ。正直ちょっと疲れてしまう。一気に認知リソースを吸い取られ、私の脳みそはへとへとだった。

    そんな私を知ってか知らずか妻はすぐに別の話題に移る。

    「そういや、ヤマトが個人向けのシュレッダーサービス始めたんだって。家に来てくれて箱に紙を入れるとそのまま回収してくれるらしいよ」

    私はなぜそんなに話が飛んだのか分からない。だが、何か意味があるはずだと思って、一応返した。

    「まあ業務用のシュレッダーサービスってのは割とあって、オレの前の会社でもそこそこ使ってたよ。でも、その会社で言われたのが〝使うのはいいけど、使うとお金かかるからあんまり使うな〟だったんだよね」

    「それって結局使わなくなるやつじゃん」

    「そう。だからさ、さっきの話とおんなじ、、、、で、一見すると答えを提示しているようで、実際には明確なNGがあるんだよね」

    私はしまったと思った。だが、時は既に遅かった。妻のこめかみには青筋が走り、私はそれをぼんやりとした目で眺めていた。

    そして、やっとムスメを寝かせた。ムスメを寝かせたあとはお互い自由時間なので私はnoteを読んだり、妻は妻でLINEの返信やゲームなどをしていた。

    テーブルの向こうから、突然声が飛んできた。

    「送料300円だったんだって!」

    私はそれに対し、少し大きい声で「どういうこと!?」と返事をしてしまった。実はこの瞬間、私の頭には複数の思考が走った。

    果物の送料が300円の可能性もあるし、さっきの個人用シュレッダーサービスを300円で試せることを言っているのかもしれない。そして、私が聞き漏れていた何かの情報の中に300円にまつわる出来事があるケースも存在する。時間にすればおよそ一秒にも満たない刹那のあいだで、私は帰宅してから妻とした会話を何度も何度もプレイバックしていた。

    だが、何も検索にヒットしない。そして私の脳みそはオーバーヒートした。
    さっきの「どういうこと!?」はまさにその悲鳴だったのだ。

    しかし、妻からすればそれこそ「はあ???」である。

    ふつうに聞き返せばいいと言われた。そりゃそうなのかもしれない。
    だが、私からするといきなり通りがかりの見知らぬ人から爆弾を手にポンと渡されたようなものだ。そしてその人は、自分がその爆弾を爆弾と認識しているあいだに別のどこかに走り去っている。

    パニックにならないほうがおかしいだろう。
    でも別に私だってそうしたくてそうしているわけじゃない。

    結局300円の送料は、妻が義姉とLINEでやりとりをしていて、その文脈から出た言葉だったらしい。だが、補助線もなければ足場もない。思わずなんのはなしですかと言いたくなる。

    私の頭には走馬灯のように、あの懐かしい曲が流れる。

    僕らはいつも 以心伝心 二人の距離つなぐ テレパシー♪


    なお、残念ながら2026年現在、勝手に思考が走ってしまうこの病気を治す方法はまだ見つかっていない。


    #なんのはなしですか
    #なにがいいたいのですか
    #だからどうしたのですか
    #ペラペラエッセイ


     
     
    エッセイ、短歌、短編、音楽、その他諸々書いてます。 作家名: 川辺 悠 作詞家名:Yuu Kawabe noteではコハクシス。 Spotify Link(短縮リンク) https://x.gd/lMiSI ここはnoteの深海底。 私が私を私の言葉で語る空間。

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