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人材の再配置を経営課題として扱う5つの論点

     企業が中期経営計画を策定する際、どの事業を伸ばし、どこに投資し、どの程度の収益を目指すのかについては、詳細な議論が行われます。ところが、「その戦略を誰が実行するのか」「必要な人材は現在の組織にいるのか」「限られた人材を、どの事業へ優先的に配置するのか」という議論は、必ずしも同じ解像度で行われていません。

    「人材データは集めるだけでは価値にならない――人的資本経営を動かす人材ポートフォリオのつくり方」の記事では、事業戦略の実現に必要な人材の構成を明らかにする「人材ポートフォリオ」の考え方を紹介しました。しかし、人材の現状と将来像を可視化しただけでは、企業は変わりません。そこから一歩踏み込み、事業の優先順位に応じて人材を動かし、採用、育成、配置、登用、場合によっては外部人材の活用まで決断する必要があります。

    事業ポートフォリオと人材ポートフォリオの見直しは、本来一体で行うべきものです。本稿では、人材を一つの経営資源として捉え、事業変革や企業価値向上へ結びつけるための実践的な論点を考えます。

    M&Aでは、財務、法務、事業面の検討に比べ、人材や組織に関する検討が後回しになることがあります。しかし、買収後に誰が経営を担うのか、重要人材をどのように引き留めるのか、両社の人材をどこに配置するのかが決まらなければ、期待した企業価値の向上は実現しません。

    特にPMIでは、制度の統合を急ぐあまり、対象会社の強みを支えてきた人材や組織文化を損なう可能性があります。反対に、摩擦を避けることを優先して何も変えなければ、買収による相乗効果が生まれません。

    買収前から重要ポジションとキーパーソンを把握し、買収後の事業計画に必要な組織体制を描いておくことが重要です。処遇や制度の統合だけでなく、経営人材の配置、次世代人材の選抜、両社を横断するプロジェクトへの登用まで計画する必要があります。

    人材ポートフォリオは、平時の人材管理だけでなく、M&A後の企業価値の向上を実現するための共通言語にもなります。

    人材は、資金や設備と同じように経営資源として扱えます。ただし、人材には意思があります。

    会社が成長事業の責任者として期待していても、本人が同じ将来を望んでいるとは限りません。海外事業での活躍を期待されていても、家庭の事情によって海外勤務が難しい場合もあります。

    経営上の必要性だけで配置を決めれば、本人の意欲低下や離職につながる可能性があります。一方、本人の希望だけを優先すれば、全社最適の配置は実現できません。

    そこで会社の期待と本人のキャリア意向をすり合わせる対話が必要になります。
    1on1やキャリア面談を、本人の希望を聞くだけの場ではなく、会社が期待する役割や今後の事業方針を伝える機会として活用します。両者が完全に一致しなくても、対話を重ねることで、受け入れ可能な選択肢を見つけられます。
    人材配置の実効性を高めるうえで、データと対話はどちらも欠かせません。

    人材ポートフォリオの整備は、人事部門が中心となって進められます。しかし、事業間で人材を移し、重要なポジションの責任者を替え、将来の事業へ人材を先行投資する判断は、人事部門だけではできません。

    そこには、どの事業を優先し、どの事業の規模を見直すのか、さらに短期的な業績低下をどこまで許容するのかといった経営判断が伴うからです。

    人材の再配置を進めれば、部門間の利害対立や現場の抵抗も生じます。それでも経営者が方針を示し、必要な判断を行わなければ、組織は従来の配置を維持し続けます。

    人材ポートフォリオに示されるのは、社員の人数や能力だけではありません。会社がどの事業に将来を託し、限られた経営資源をどこへ振り分けるのかという経営の意思です。

    事業戦略を実行に変えるためには、予算や設備への投資と同じように、人材の配分を経営会議で議論する必要があります。

    事業を変えるには、組織を変える。組織を変えるには、人材の役割と配置を変える。この一連の取り組みを継続することが、企業価値を高める経営支援の重要なテーマになるのです。

     
     
    人事コンサルティング会社、セレブレイン代表。仕事ではデータ、AIなど活用した次世代の人事コンサルティングに加えて、従来からの人事課題解決支援を行っております。 日本酒・大学院の講義など。関連したマガジンも発行中。 HPは https://www.celebrain.com/

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