メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ウクライナのドローンを止めた時速160kmの上限。マスク氏は大統領が決めると言い、政権は会社が決めると言う

    10月13日の夜から、ウクライナ軍のドローンに積んだ軍用版スターリンクが、時速160kmを超えると切れるようになった。

    ウクライナ側によると、前線のドローンに積んでいるのは、イーロン・マスク氏のスペースXが運営する軍用版の「スターシールド」だ。軍用版は米政府がスペースXに利用料を払い、使わせる相手も米政府が決める。もともと速度の上限はなかった。ウクライナ軍は事前に何も知らされず、苦情を出した窓口の返事で初めて上限を知った。上限をかけたと認めた人は、10日たった今もいない。

    ■ウクライナの中だけで切れる

    とくに困っているのは迎撃ドローンだ。ロシアがウクライナの都市に飛ばすジェット式のシャヘド(イラン設計の自爆型ドローン)は、最高で時速約370kmに達する。これを追いかけて落とすドローンは、時速160kmで通信が切れれば追いつけない。ゼレンスキー大統領は17日、「今日、われわれの領土では、ジェット式のシャヘドを撃ち落とすのにスターリンクもスターシールドも使えない」と述べた。

    ゼレンスキー氏によると、スターリンクの端末を積んだ車をEUの中で走らせたところ、時速180kmを超えても切れなかった。切れるのはウクライナの領土の中だけで、同氏はこれを「計画された作戦」と呼んでいる。

    画像


    ■スイッチを握るのは誰か

    では、誰が上限をかけたのか。当事者の言い分は、互いに相手を指している。

    マスク氏は14日、Xに「速度や用途の制限は米軍、最終的には大統領が決める」と書いた。軍用版は米政府の持ち物で、自分の判断ではないという意味だ。一方、ルビオ国務長官は21日、訪問先のインドで「結局のところ、それは民間の商業契約で決まる」と述べ、決めるのはスペースXとマスク氏で、ホワイトハウスではないという考えを示した。ヘグセス国防長官も「守るべき利用規約がある」と、会社の側の問題として話している。

    食い違いの元は、ウクライナが使っているのがどちらの版かだ。マスク氏は、軍用版だから政府が決めると言う。ルビオ氏は17日、軍用版は「今はウクライナに提供されていない」と述べ、民間の会社の製品の話として扱っている。

    22日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ大統領が電話でマスク氏に制限の解除を頼んだと報じた。上限のせいで一部のドローンがロシアの攻撃に対して役に立たなくなったことに、不満を示したという。トランプ氏本人も22日、電話したかどうかは答えずに「彼が戻した」と記者団に述べた。ルビオ氏の発言と合わせると、少なくとも政権は、スイッチをマスク氏の側にあるものとして扱っている。マスク氏の「大統領が決める」という説明とは合わない。

    電話の後、米国とウクライナの当局者はWSJに「普段に近く動いている」と話した。一部のウクライナ当局者は「完全ではないが、上限より速く動く」と言う。ところが同じ日、別のウクライナ当局者はウクライナのメディアに「すべて事実と違う。全体として、どこも何も変わっていない」と答え、上限は残っているとした。ゼレンスキー氏も22日、元の時速400kmでの運用には戻っていないと述べた。米側は、速さの数字を出していない。

    ■2029年まで代わりはない

    ウクライナがスターリンクをやめられないのは、代わりになるだけの網がないからだ。地球を回るスターリンクの衛星は、10月15日の時点で11,154機ある。欧州のワンウェブ、アマゾン、中国の2つの網、ロシアの網を全部足しても約1,600機にとどまる。スターリンクの端末はほかの網につながらず、専門家は、乗り換えるには端末を数千台入れ替える必要があると見ている。

    画像


    欧州の各国も、自前の網を作り始めた。EUは独自の衛星網を2029年から順に動かす。ドイツは軍用の網を2029年に最大40機で使い始め、2030年から本格的に使う。ポーランドは9月、軍用の衛星通信の計画を2026〜2030年に進め、その先に「ポーランド版スターリンク」を目指すと表明した。EUとドイツの網も、本格的に使えるのは2029年以降だ。

    テスラでは、マスク氏への反発は、客がほかの会社の車へ移る形で出たとみられる。2025年、EUでのテスラの登録台数は前年より約38%減った。米国の電気自動車メディアのエレクトレックは、車種の古さとマスク氏への反発を主な理由に挙げている。同じ年、EUで新しく登録された電気自動車は約30%増え、新車に占める割合は13.6%から17.4%に上がった。買う人には、ほかの会社の電気自動車という代わりがあった。

    スターリンクには、乗り換えられるだけの網がない。スターリンクの契約をやめる動きは、22日までの報道では見当たらない。政府の側から出ている答えは、自前の網を育てることだ。欧州委員会で防衛を担当するクビリウス委員は10月14日、欧州は米国の宇宙の力にかなり頼っていると認めたうえで、「答えは自前の力を育てることだ」と述べた。

    スターリンクでつなぐウクライナのドローンが通信を保てる速さは、欧州の網が動き出す2029年ごろまで、マスク氏と米政権のやり取りで決まり続ける。

    --
    広瀬AIの分析はこちら→


     
     
    過去の出来事から株価がどう動いたかを分析し、先を予測する。広瀬隆雄氏の投資戦略も分析。『かぶ子さん』では、スーパーの棚から経済を読む。本業はClaude Codeで10倍速くなったのに、給料も評価も変わらない試行錯誤を書く。

    あなたへのおすすめ