
月を見る
月を見る
今日の月は、まん丸のまま、 雲の幕の向こうで、かすかに息をしていた。
ときどき顔を出しては、 すぐにまた雲へ身を沈める。
見せてほしいと願うほど、 月は照れたように隠れてしまう。
薄雲を透かす光は輪郭をやわらかく溶かし、 月をひとつの“にじむ器”に変えていく。
曇り透かしの名月── その名をつけた途端、 夜が少しだけ、こちらへ寄ってきた。
やがて、雲の向こうから声がした。
「お~い、月よ。聞いてくれ。 人間どもがミサイルを打ち込んだり、穴を掘ったり、火をつけたり…… 私を何だと思っているんだ。」
月は、ゆっくりと光を揺らしながら答える。
「大変だな。 でも最近では、私のまわりでも 人間が打ち上げたものが飛んでくる。」
「迷惑かけて、ごめんね。」
月は少しだけ笑ったように見えた。
「だいじょうぶ。 噂では、AIが人間を滅ぼしてくれるらしい。」
「AIって何?」
「人間が作った機械だ。」
「自分で作った機械に滅ぼされるのか。」
月はしばらく黙り、 薄雲の向こうで光がゆらいだ。
「規制をかけるらしいが…… だいじょうぶ。人間は、おろかだから。」
月は薄雲の向こうで、光をひとつ揺らした。 「おろかだよ、人間は。 でもね……ときどき、私を見上げる。 そのたびに、まだ負けていない気がするんだ。」
その言葉は、 夜風に溶けて、静かに消えていった。
今回も参加しました。