
机の上の謎。迷探偵は今日も深読み|拝啓文芸部「残されたメモ」
今日も挑戦状が届いていた。受けて立とう。
理系名探偵のプライドにかけて。情報収集能力、論理力、考察力には自信がある。
届くのは不定期。予告はない。
気づくと、リビングの机の上に、1枚のメモが置かれている。
🎩 🎩 🎩 🎩 🎩
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机に置かれた1枚のメモ。
今日だけではない。これまでにも、何度か置かれている。
犯人は、もちろん、この家の住人に限られる。
筆跡はひらがなが中心。字の大きさは不揃いである。
問題は動機である。いったい何のために。
季節は秋。夜長に謎解きを楽しむには、おあつらえ向きだ。
名探偵の出番である。今夜も、机の上に残された証拠を並べてみよう。
挑戦状メモ①「ぶんしん の じゅつ」
白い紙に描かれていたのは、「ぶんしん の じゅつ」
棒人間がふたりと双方向の矢印。
右側には怪しげな「ドロン」の煙と、二人の忍者。
なるほど、忍者修行か。

ちょっと待てぃ!
二人いるのは分かった。
ただ、右側のドロンと変身する二人と、左側の反復横跳びみたいな棒人間。関係性が全く分からん。同一人物なのか、別なのか。
難問すぎる。これは、いきなり解けない。置いておこう。
さて、自分がもう一人いたら、犯人にとってどんなメリットがあるのか考えてみよう。
例えば、宿題をする自分に任せておけば、YouTubeを見る自分でいられる。理想的な役割分担だ。
……いや、待て。
本当にそうか。僕が思う犯人の性格だと
「なんで私が宿題なの!」
「私だってYouTube見たい!」
分身した瞬間から、自分同士の骨肉の争いが始まるではないか。
おやつのお煎餅が残り1枚なら、もはや戦争である。二人とも自分なのだから、譲る理由がどこにもない。
分身の術は、便利そうに見えて、我が家では平和を乱す禁断の術なのかもしれない。
もっとも、宿題をするのが二人になれば、こちらとしては大歓迎だ。
……いや、宿題を押しつけ合うのが二人になるだけか。
話は戻るが、あの双方向の矢印が気になっている。
「分身」というより「入れ替わり」なのではないか。だとすれば、押しつけ合いはすでに術の仕様に組み込まれている可能性が高い。
挑戦状メモ②「あきがきた こうよう」
別の日。
今回残されたメモは、細長い紙に縦書き。
「あき が きた
こうよう・・・」
忍術から一転、ずいぶん風流である。

ちょっと待てぃ!
これは俳句だ。せめて、あと3文字書けなかったのか。
普通なら、五・七・五を目指して、途中で力尽きたのだろうと推測する。
僕が思う犯人なら、絶対、途中でお腹が空いたか、ご飯が完成したかだと思う。圧倒的に、食べ物に弱い。
まあよい。
どこかで秋を探したのだろうか。紅葉を見つけて、きれいだなと思ったのかもしれない。
「あ・き・が・き・た」で5音。「こ・う・よ・う」で4音。
たった9音なのに、色づいた景色まで浮かんでくる。
……待て。それ以前に、重大な問題に気づいてしまった。
「秋」と「紅葉」。季語がふたつある。
俳句でいう「季重なり」である。初心者が避けるべきことを、堂々とやってのけた。しかも9音で。
そのことを教えたら、きっと怒ってくる。それは避けたい。
まあ、ただ思いついたことを書いただけかもしれないということにしておこう。これは、自主的に迷宮入りさせておく。
まあ、犯人の頭の中では、僕が思う以上にいろんなものがつながっているのだろう。それはそれで嬉しいものである。
挑戦状メモ③「イラストレーター おとな」
迷宮入りが続く中、今度は。
ピンクの付箋に書かれていたのは、ふたつの言葉。
「イラストレーター」
「おとな」
忍術、俳句からの大転換である。

ちょっと待てぃ!
ヒントが少なすぎないか。今回の事件で、最も手ごわい謎だ。
理系パパの頭をフル回転させ、仮説を立てた。
仮説1
大人になったらイラストレーターになりたい。
将来の夢を、こっそり打ち明けてくれたのかもしれない。それなら、僕は静かに泣く。
仮説2
「イラストレーター」という言葉を最近知って、大人との関係が気になった。大人になると、絵を描く仕事ができるのか。
仮説3
大人のイラストレーターに、何か伝えたいことがある。クレームか、ファンレターか。
……待て。自分。考えすぎだろう。
そもそも、なぜこのふたつを並べたのか。しかも、間に何も書かれていない。助詞がない。矢印もない。解釈の自由度が高すぎる。
聞けばすぐにわかるのかもしれない。
でも、今はまだ聞かずにおこう。答えがわからないから面白い。
名探偵の推理は、今日も迷宮入りだ。
事件はいつも迷宮入り
分身の術にツッコミを入れ、俳句の可能性を疑い、イラストレーターの謎に完敗した。
メモは、僕が帰るころには机の上に置かれている。犯人は、どんな気持ちで書いているのだろう。
「お父さん、これ見たらどう思うかな?」
そんなことを考えているのか。それは嬉しくて泣いてしまう。
それとも、書いたことさえ忘れて、今日の遊びに夢中なのか。その可能性は高い。
真相は、まだわからない。ふと時計を見ると、もう夜も遅い。容疑者は、ふとんの中ですやすや眠っている。
次のメモは何だろう。分身の術の続編か。俳句の続きか。それとも、名探偵も思いつかない新たな暗号か。
未来のイラストレーター(仮)の寝顔に免じて、今夜も事件は迷宮入りにしておく。
秋の夜長の余白。娘が残していく小さな謎。いつかきっと机の上で僕を待っている。
🎩 🎩 🎩 🎩 🎩
【エピローグ】事件は現場で起きている
そして、まさに今、事件が起きた。
白昼堂々、リビングではなく、僕の机に直接。
今回は、バラバラになった、パズル。

ちょっと待てぃ!
犯人が横にやってきて、とっておきの笑顔で「これは真ん中だよ」と言って、去っていった。
やはり、犯人は現場に戻るものだ。
(もう少しでパズルが完成)
こ、これは、
完成したのは、僕の顔だった。
可愛いプレゼントじゃないか。
よしっ!
「待てー、逮捕する」
僕は逃げた犯人を追いかけた。

📝今回参加させていただいた企画📝
今回は、拝啓文芸部さんの「残されたメモ」に初挑戦させていただきました。お陰様で、楽しい記事が作れたと思います。ありがとうございます。
📖チャレンジさせていただいた企画
今回は、これまでと違い写真をたくさん使い、何よりも自分が一番楽しみながら書いたエッセイになります。こちらの記事もたまごまる杯に挑戦させていただきたいです。
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