
【拝啓文芸部/落とし物の持ち主】床下のエメラルド
休み時間のチャイムが鳴った瞬間
「今日こそ緑、見つけるぞ!」
僕は机の横から名札を外した
「またやるの?」
「当たり前だろ」
友達も次々と名札を外す
目的はひとつ
教室のフローリング、その細い隙間
誰が落としたのか分からない小さな宝物が、そこには眠っている
僕は床へ腹ばいになった
「この辺、昨日まだ掘ってない」
「そこ僕の場所!」
「床に場所とかないだろ!」
「先に見つけた方の!」
頬が床につきそうなほど顔を近づけ、名札の針をそっと差し込む
かり、かり
埃
鉛筆の芯
消しゴムの欠片
「ハズレ」
「またゴミ?」
「ゴミじゃない。発掘物」
「同じだろ」
少し離れたところで声が上がった
「ビーズ出た!」
「何色?」
「白!」
「普通!」
「普通って言うな!」
僕は笑いながら、さらに奥を探る
赤いBB弾なら当たり
青ならまあまあ
そして
透明な緑
それだけは別格だった
「……あ」
僕の手が止まる
「どうした?」
「いる」
「何が?」
「緑」
その一言で、全員が集まった
「どこ!?」
「押すなって!」
「ほんとに緑?」
「見えるだろ!」
フローリングの奥
埃の間で、小さな緑色が光っていた
「うわ、でかい!」
「絶対大当たりじゃん!」
「取れる?」
「取る!」
名札の針を差し込む
少し押す
転がる
「あっ、そっち!」
「反対からやれ!」
「僕がやる!」
「待て待て、押すな!」
教室の真ん中で、男子数人が床に這いつくばっている
誰かが見たら、絶対に変な光景だった
でも本人たちは真剣だった
「もうちょい……」
息を止める
針の先で、緑色のBB弾を少しずつ出口へ寄せる
「来るぞ」
「来る!」
「せーの!」
ころん
床の上へ、小さな球が転がり出た
窓から差し込んだ昼の光を受けて
透明な緑色が、きらりと光った
「出たあああ!」
僕は両手を上げる
「緑!」
「大当たり!」
「やば!」
「うるさい!」
教室の前から先生の声が飛んできた
全員、一斉に固まる
「あなたたち、また床に這いつくばって何してるの!」
「……落とし物探してました」
僕が答える
「誰の?」
「分かりません!」
「じゃあやめなさい!」
「はい!」
返事だけはいい
先生が職員室へ戻るのを確認すると
全員で顔を見合わせた
そして、声を殺して笑った
放課後
僕は机の上で、緑色のBB弾を転がしていた
「それ、結局どうすんの?」
友達が聞く
「持って帰る」
「ただのBB弾だぞ」
「違う」
僕は指先でつまんで、窓へかざした
夕日の中で、緑色が少しだけ濃くなる
「今日からエメラルド」
「勝手に決めんなよ」
「見つけた僕が決めていいだろ」
大事そうに筆箱を開く
鉛筆と消しゴムの間
一番奥へ、そっとしまった
ぱちん
蓋を閉じる
その日
僕の筆箱には
世界でいちばん高価なエメラルドが
ひとつ入っていた
こちらに参加させていただきました★