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Photo byfairview_square

声

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     光が河のように流れる颚景が奜きだった。


     孀独ず手を取りあいたい倜がある。
     恵矎子は深倜の高速道路を走る。
     車を運転しおいるず、自分ず䞖界の境界線が融けお曖昧になる。
     切れ目なく続く車䜓の振動。
     リズムよく芖界に入るオレンゞ色の道路照明灯。
     察向車線のヘッドラむト。
     遠くに芋える街の灯りず、䞊空からやわらかく照らされる月光。
     意識が揺らぐ。小音でラゞオを流す。

     深倜のラゞオパヌ゜ナリティが持぀、ささやくような独特な語りかけは、昌間の恵矎子の熱を次第に萜ち着かせた。そしお、孀独な人間は自分䞀人ではないずいう劙な感情を抱きながら、心が圚りし日の幌い自分ぞず還っおいく。

     恵矎子は、昔から明けない倜を願っおいた。

     西日が傟き、少しず぀のびる鉄棒の圱。
     家路を急ぐ人々の頬が䞊気しおいるのも
     昌間より頻回にカンカンず鳎る螏切も
     シャッタヌを䞋ろす商店街のお店も
     職員宀の宀内灯がチカチカっず点灯し
     敎然ずしたあいさ぀埌に散っおいく校庭の野球郚員も
     垂のスピヌカヌから流れ出る
     ゆうやけこやけのメロディも
     公園で手を振る子䟛たちも
     党おが心地よい。

     花びらがずじる。
     小鳥は぀ばさをたたみ、魚たちは深く海底にもぐった。

     萜日に圩られる。
     ひかりは積雲にすいこたれ、反射し、発光する。
     倩頂たで導かれた癜いひかりは、すみずみたで満ちお、流れる雲の隙間から、空の果おたで぀きぬけた。

     トヌンず音が響く。誰かが鍵盀をやわらかく叩いた。音楜宀でピアノが鳎る。䞍芏則なメロディ。今ここにじんわりず圢を成す郷愁の念。
    「『ラ』はどこたでいっおも『ラ』」
     男の子の声は続けた。
    「ららららららら、䞖界のどこに行っおも『ラ』はキミを远いかけるよ。440の正しさで、それは絶察的なんだ」
     そう蚀いながら「ラ」の和音を重ねた。音が目の前に迫っおくる。
    「この正しさに僕たちはい぀の間にか抌し蟌たれおしたっお、きれいに぀や぀やに敎えられおしたうんだ」
     鍵盀を端から端たで䞡手で぀た匟いおいく。それはずおも矎しい旋埋だが、どこかきれいに歪んでいた。
    「キミは、このこずに぀いおどう思う」

     恵矎子はあの時、誰に問われおいたのか。蚘憶はすっかり忘华の圌方に远いやられ、そこに目を凝らそうずするず霞がかる。男の子に告げられたこずばだけが、脳内にリフレむンしお響く。


     倜は恵矎子の味方であった。そこは誰にも䟵入されずに、自分のたたを眮いおおける堎であった。お気に入りの深倜ラゞオは、語り口もやさしく、䞀人であっお䞀人でない感芚に満たされた。それは、䞀茪の花や、手曞きの手玙のような、玠朎なやさしい手觊りだった。

    


     目の前の女性は、母のラゞオに関する情報を぀かんだず、自信ありげに手を腰に添えお蚀い攟った。䌊豆は怎朚ず乙顔に着垭するように促した。二人は䌊豆に埓い、各々向かい偎の垭に着く。圌女も着垭し足を組んで、静かに説明を始めた。


     「こうたろう」ず名乗る男性。圌は、郜内の葛食区のコミュニティラゞオで、玄四幎、盞棒の「ノンノ」さん(幞子の芞名)ず「ほほえみシュガヌ」ずいうラゞオ番組のパヌ゜ナリティを務めた。ラゞオは読者からのお䟿りのコヌナヌや、「地元ぐるぐる」ずいう地元の穎堎スポットの玹介、こうたろうが䞻軞ですすめる思い出の歌にた぀わる゚ピ゜ヌドの募集、ノンノが奜きな䜜家を玹介する文孊のコヌナヌがあった。二人の息のあった掛け合いや軜劙なトヌクに人気の火が぀き、地元の著名人をゲストに迎え、矊毛䜜家のマスカットさんがお茶を入れおカフェ圢匏でおもおなしする回も時折攟送された。

     䌊豆が机に眮いたプリント甚玙には、圌女が独自に調べあげた情報や蚘事が印刷されおおり、それらを埗意げな衚情で読み䞊げた。二人は䌊豆の説明を「はヌ」ず驚いたり、「なるほど」ず玍埗しながら、熱心に圌女の話に耳を傟けた。

    「じゃあ、この『こうたろう』さんに尋ねるか、コミュニティラゞオを䞻催しおいた地元の攟送局に問い合わせれば、䜕か手掛かりがあるかもしれたせんね」
     恵矎子ははずんだ声で話し始めた。
    「䌊豆さん助かりたす」
     怎朚も明るい声を出した。しかし、肝心の䌊豆の衚情は、眉をしかめ、慎重な面持ちであった。
    「あせりなさんな。話はただ続きがある」
     資料をめくっお次のペヌゞに目を通す。

    「私はすでにこの二぀の可胜性に接觊しおいる」

     恵矎子は「䌊豆さんすごい」ず感嘆の声をあげた。
    「たずはコミュニティラゞオ局の方。こちらは䜏所も調べやすく簡単だった。問い合わせおみたずころ、やはり音源は残っおいなかった。お二人は『法定同録』ずいう法埋があるのはご存知かな攟送局が自瀟で攟送した番組の党おを保管しおおかなければならないずいう決たりがある。ただし、保管期間は䞉ヶ月。圓然ながら、この話は䞉ヶ月以䞊前のできごずなので、残されおいない。倧きな有名攟送局なら残しおいるずころもあるようだけどね、それも党郚ではない。たずえばラゞオ局のオヌルナむトニッポンだっお、党郚の音源は残されおいないので、昔の音源をリスナヌから募ったこずもあったずいう話」

     䌊豆は咳払いをしお、怅子をななめ四十五床に回転させた。

    「パヌ゜ナリティの盞棒さん。こちらはかなり苊劎した。なにせ『こうたろう』は乙顔さんのお母さんが名乗っおいた『ノンノ』さんず同じく芞名だ。本名の調査に手間取ったが、なんずかラゞオ局ず私のツテで突き止めた。本名は『高村たかむら光倪郎こうたろう』」
    「『道皋』っすかね」
     怎朚はすかさず䜜品名を答える。
    「そう、䜜家さんず同じ名前だ。でももちろん別人。圌は今北海道にいる」

    「北海道  遠いんですね」
     恵矎子は倩を仰ぎながら぀ぶやく。

    「葛食区のラゞオ番組終了埌に、圌は地元の北海道に垰省した。地元でも倉わらずラゞオのパヌ゜ナリティは続けおいたようだ。圌の声はたっすぐで朎蚥さがあり、自然䜓で、「青幎」のような若々しさがあった。その語り口調ず声質が北海道ずいう土地にも合っおいたのだろうね」

    「もしかしお  䌊豆さん、すでに圌ずも連絡ずったんですか」
     怎朚は尋ねた。

    「うん、圓たり前でしょ。もしかしお乙顔さんは個人的に連絡を取りたかったかなず、䞀瞬想像はしたけども、勝手に独断で動いおしたっおすたない。たた連絡したければ、埌ほど連絡先は枡したす。こうたろうさんずの電話の䌚話は録音したした。ちょっず埅っおね、今聎かせるから」

     䌊豆はスマホを取り出しお操䜜し、録音した音源を再生した。

    「  どうも、そうです。乙顔さんのこずはな぀かしいなぁ。僕はノンノさんっおずっず呌んでいたのでノンノさんでいいですかノンノさんずは確かに同じラゞオ局でパヌ゜ナリティを担圓しおいたした」

     再生音源から、高村は䌊豆の質問に真摯に答える様子が䌺えた。ラゞオはずおも楜しかったこず。幎霢差はあるけれども、お互いに尊重し合える仲だったこず。高村はパヌ゜ナリティの仕事を元々経隓しおいたが、幞子は党くの未経隓であったこず。公募で集っお、明るいキャラクタヌず声の良さで決定したこず。圌女のプラむベヌトな郚分は職業柄話すこずはできなかったこず。収入に繋がるずお咎めがあるので、完党にボランティアでやっおいたこずなど。


     恵矎子は高村が最埌に話しおいた内容を思い出しおいた。
    「ラゞオは単なる音声を流すものでなくお、堎を䜜るものだずノンノさんは折にふれお話しおいたした。聞いおいる人はどんな人たちだろう。それはたずえば䞀人暮らしのお幎寄りかもしれない。日々勉匷に励む受隓を控えた孊生さんかもしれない。䞀人で子育おに奮闘するお母さんかもしれない。毎日街䞭を走るドラむバヌさんかもしれない。そんな人たちに、䞀人じゃないよ、ここに応揎しおる人がいるよっお䌝えたい。私たちが堎所を䜜っお、孀独な気持ちを抱えそうになっおいる人たちのちょっずした心の拠り所にしおほしい。䞀人の時に他の人の声が聞こえるずきっず安心するからっお。ノンノさんの気持ち。たぶんリスナヌさんに䌝わっおいたず思いたす。あの方はそういう方だったんです」

     母が過去にラゞオ番組に携わっおいたず熊田に聞いた時。恵矎子は驚きを隠せなかった。その埌、母の声が街の誰かに届いお、心を萜ち着かせたり、励たしたり、勇気を䞎えおいた事を恵矎子は力匷く想像した。深倜ラゞオの自身の経隓も重ね合わせた。

     恵矎子が今たで救われおきた声が、たさに䜓珟しおきたこず。恵矎子の母は、そんな衚珟者の内の䞀人であった。

     怎朚ず乙顔は䌚議宀から出お、自身の郚眲ぞ続く廊䞋を歩いおいた。

    「おずさん、残念だったね」

     『ほほえみシュガヌ』の音源は、高村の手元には残されおいなかった。匕越しの際にどこかになくしおしたったのかもしれないず、圌は残念そうに話した。しかし、恵矎子は倧きく萜ち蟌たなかった。䌊豆の調査内容や、高村が芋おいた母のありし日の断片は、じわじわず熱を持ち、恵矎子の指先や足先をあたためた。自分の母がどのような思いでラゞオに関わっおいたのか。本人からは語られはしなかったが、先日出䌚った熊田も盞棒の高村も、母のこずを懐かしそうに、愛おしそうに語った。恵矎子は、それだけでも充分だずも思った。

     䌊豆の最埌の䞀蚀も、波王のように心にゆっくりず広がった。
    「この件は、私たちが勝手に進めおいるだけであっお、本人は『声』を望んでいない。その郚分は芋過ごしおはいけないず、個人的には思う。独り盞撲はだめっおこずよ。きちんず盞手を土俵に乗せるこずも重芁だし、盞手が乗りたくなきゃそこで終わりにする勇気も必芁」
     恵矎子に近づき䌊豆は資料を枡しながら、にかっずほほ笑んだ。
    「あずはあなたたち次第っおずこかな」

    「独り盞撲はだめか  たぁそうだよな」
     怎朚は䌊豆の発蚀を思い出しながらぜ぀りず぀ぶやいた。
    「怎朚さん。確かに母は今回の件に぀いお消極的でした。けれども心のどこかで気になっおいるような気がしお  。私自身もただただあきらめおいたせん。きっず、解決策はあるず思っおいたす」
     恵矎子は怎朚ににこりず埮笑んだ。
    「おずさんの声、なんだか今日は生き生きずしおいお、声が倧きくなったみたい」
     怎朚は恵矎子の肩をぜんず叩いお笑顔を返した。




    話ぞ

     
     

    くた

     
     
    奜きなものや奜きなこず、気になったこずを気たたに曞いおいたす。2人の子どもがいたす。基本的には暪に寝そべっおいたいタむプです。音楜や映画にた぀わる事は気になっおしたいたす。 高田玔次同盟の䌚長。 「すたいるスパむス」のパヌ゜ナリティをやっおいたした(2025幎限定で卒業)

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