
父の形見「サビキ」で釣りしたら、矛盾した気持ちが釣れた
先日友人と海辺にドライブに行ったとき、堤防で釣り人を見かけた。
晴れた空の下、真っ青な海に釣り糸を垂らす人達。
釣りやりたい!!!
自分の欲望なのに失念していたけど、日記を遡ると6年前にやりたいと書いていた。早すぎる時の流れには何回でも驚かされる。
といっても今は優先することがある。釣りなんてやってる場合じゃない。第一道具がない。やり方もわからない。やっぱりいつかにしようと思った。……確かに思ったのだ。
数日後、突然母が「その辺の海でサンマが釣れるみたい!」と言ってきた。
サンマ?!となったけど、YouTubeに動画が上がっていた。それよりも釣りやりたいなんて一言も言ってないのに、タイミングが引き寄せとしか思えない。
話している内に気づけばやるべやるべとすっかりやる気になり、「お父さんの釣り道具が残ってるかも」と物置きになっている部屋を捜索し始める。
そういえば、釣りは父の趣味だった。
ゴルフやキャンプ、読書、日曜大工にマンドリンとやたら多趣味だったのでこちらも失念していた。こんな身近なところにとっかかりがあったなんて。
漫画も好きで、「銀牙-流れ星 銀-」の横にあった大きな袋から未開封の大量のサビキが出てきた。
サビキは擬似餌がついた針が複数連なった仕掛けのこと。
昔、「サビキは餌をつけなくても釣れるから初心者向きだ」と教えてもらったことがあったっけ…?
灯台下暗しだけど、父は5年前に他界している。
結婚する前、母はよく父と2人でチカ釣りに出かけたらしいが、糸もエサも全部父がやってくれていたからよく知らないと言う。でももう父に教わることはできない。
しかし2人ともやる気だけはあるので、ひたすらネットで釣りの知識を蓄え、ダイソーで千円の釣竿と海水を汲む用の折りたたみバケツを購入。
潮見表なるものをチェックしながら、満潮から2時間くらいが釣れやすいと知り、日時を決め、あっという間にいつかを迎えた。

結論から言うと、ボウズだった。
時間帯も間違ってないし、クリンチノットなる糸の結び方もバッチリだったのになあ。(何回か糸が絡まったけど)
帰宅して釣れない理由を検索したけど、エサのアミエビをケチってエサなしでやったことくらいしか思い当たらない。
そこでサビキカゴ(エサを入れるカゴ)を新たに購入した。市販のアミエビは量が多かったので、我が家の猫が食べなかったキャットフードをパン粉と混ぜた自家製のエサで再チャレンジすることに決定。
ここで母がもう一つの原因を突き止めた。
我々は潮見表の満潮の時間帯にしか注目してなかったが、横に小さく「長潮」と書かれていることに気づいたのだ。
な、長潮…?
月と太陽の位置関係によって潮の流れは5つに分類されるらしく、なんとこの長潮というのは魚が最も釣れにくい日だった。

後日、今度は「中潮」の日に同じ場所に行き、サビキカゴに猫の餌(?)を詰めて海に放つ。
すると、なんということでしょう!!!


小さいからリリースしようと初めての針外し。冷たい海水で泳ぐ魚を人間の手で触ると火傷のような状態になり、リリースしても死んでしまうケースがある。
トングと手袋、ペンチを駆使して針を外そうとするも大苦戦。「ごめんねごめんね痛いよね」と謝りながらやっとこさで外し、リリース。
どっと疲れた。人間の都合で釣っておいて、「ありがとねー」と放すさまがあまりにも勝手すぎる。
そんな気持ちをよそに、その後もサバが釣れる釣れる!!
ところが4匹目をリリースしたところで、さかなネットワークでバレたのか急に釣れなくなり、残念なようなホッとしたような気分で帰路に着く。
サンマは釣れなかったけど、単純に釣りが楽しかった。先延ばしにしなくて良かったし、釣りをしながらぼーっとする時間も好きだった。
…と言いつつぼーっとするのはあまり得意じゃない。
日頃から、魚が広い海を泳ぐように人間だってただ生きてるだけでいいと思っている。
それなのにバケツの中を泳ぐサバを見ていたら、今の自分は命をいただくのに見合うくらい、胸を張って生きてるのかな?とも思った。
最近は勉強に職探しにと働き方を模索している最中。それなのに推し活に勤しんだり、新しく釣りも始めて趣味まで開拓している。
親から受けた命、何事も一生懸命でいたいし、努力したい、掴み取りたい。
でもその反面、何もしなくていいじゃん。そのままで、生きてるだけで価値があるとも思っている。
それでいて何もない自分でいるのも結構苦しくて。何者じゃなくてもいいはずなのに、何者かになりたくて、もがいてる。
矛盾した気持ちが、潮の流れに揉まれるみたいにせめぎ合っていた。
だからって今すぐどうもこうもならない。
命に感謝して、矛盾した気持ちを抱えながら自分なりに答えを探していくしかないよね。
その日はサバの代わりに、焼いた豚肉に南蛮味噌をつけて食べた。
仏壇に向かってお鈴をチーンと鳴らし「お父さんの1個250円のサビキ、5個くらい無駄にしました。」と報告した。