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爪痕。

    たてた爪が肩に朱色の痕になった

    明方の歩道は水溜りを孕んで
    帰郷した燕が低く飛んでいる

    浴室の鏡は昨夜の余韻に曇り
    外した枷はもう排水口に消えていた

    同じ気持ちで同じ眼差しで見れるのか

    薄衣を纏い眠る姿と罪の萌芽
    不必要に広いベットルームの真ん中で
    それはわたしを俯瞰して見ている

    弱さを否定しきれず
    優しさを疎ましく思えず
    ただ唾液の重なる味に委ねた

    超えてしまった冬に
    遅すぎた春が少しだけ
    湿度と露光を与える

    またひとつ静寂に
    一滴の因果を作ってしまった

    白い雪に朱色の爪痕を残して






     
     

    楓

     
     
    作家。1999/ プロテスタント。オールドリベラリスト。希哲学者。玄語研究家。虚構と事物の架け橋になりたい羊です。