
あの子に嫌われているわたしはどうでしょう?【哲学対話書簡】
また変なタイトルをつけてしまった。
普段は、あまり読まれないように見つかりづらい、なんだかよくわからないタイトルを好んでつけるのだが、哲学対話書簡のときは、ちゃんとテーマが分かるようにしていた……のに……なのに……このタイトルをつけたい衝動を抑えられなかった。
なんの話かと思われるでしょうか。
「かわいいってなんでしょう?」というテーマです。
おはぎさんとけいこさんの哲学対話書簡に参加させてもらっています。
こちら、おはぎさんとけいこさんの「かわいいってなんでしょう?」なかわいいお話。
***
30歳のとき、今のパート先に入った。
入社から1ヶ月過ぎた頃だろうか。
突然、
「文具さんのあだな文具っペになったから!」
と、同期入社のSちゃんに言われた。
私には、同期入社が2人いた。
たまたま平日休みが被った2人が、ランチをしたらしい。
そこで、苗字に「さん」づけだと堅苦しいよね、となったらしい。
「私のことはSちゃん、あの子(8歳年上の同期)は、Eリン、文具さんは文具っペ昨日そう決めたから!よろしくー!」
と、報告された。
ぺ、ってなんだろう。
Sちゃん、Eりん、文具っぺ。
ぺ?
田舎っぺのぺしか浮かびませんけど。
異論ありませんけど。
なにゆえ?
なにゆえ、ぺ?
と、戸惑いつつも受け入れた。
私は文具ッペ。
実際あだ名はうれしい。
今でこそこんなに図々しい私だが、
本来とても人と打ち解けるのが下手くそ。
つねに、うっすい壁を作って遠慮してしまう。
苗字呼びは一生苗字呼び。
距離も一生縮まらない。
このSちゃんという子は、そんな私とは正反対。
人の壁など、なんのその「飲みに行こ!」「いつ空いてる?」「なにそのジーンズ」「ダサい」「捨てな」清々しいほどの本音でズカズカこちらに乗り込んでくる。迷惑。ありがたい。めんどくさい。好き。その全部をひっくるめてSちゃん。
セカンドストリートで吟味に吟味を重ね、安くオシャレな服を選んでくれたSちゃん。
Sちゃんが、自分用にと選んだ金持ちの家のカーテンみたいな柄のロングコートを見たときは「え?それ選ぶ人いるの?」と、思ったがしっかり着こなしていた。
Sちゃんといた間、私はちょっとオシャレになった。
おしゃれが好きだから、毎日バッチリメイク、おしゃれな服、素敵な髪型でやってくるSちゃん。
目立つ。
仕事もテキパキこなす、意見もハキハキ言う、腹が減ると不機嫌になる、楽しいとデカい声で笑う、暑い日はクーラーを自分に直撃させて涼む。
目立つ。
マダムばかりの職場。
よれよれのマダムか、小綺麗なマダムしかいない職場。
汚い作業着の社員がいる職場。
ピカピカキラキラ、金持ちの家のカーテンも着こなすSちゃん。
目立つ。
否が応でも目立つSちゃん。
ある日、小綺麗マダムに嫌味を言われた。
プライドの高いSちゃん。
売られたケンカは買う!
やられたのとおなじめにあわせてやる!
と、意気込むSちゃん。
そうなるよね~。
と、思う。
まっすぐ素直なSちゃん。
頭の良い解決策ではないけど、Sちゃんの感情の行き場を考えるとそうなるよね~。
気がすまないよね〜。
だけどなぁ。
と、ちょっと考えてこう言った。
「それは嫌だったねぇ。
同じ目に合わせてやりたいかい?
でもねぇ、同じことをしたら、Sちゃんも小綺麗マダムと同じところに落ちちゃうよぉ。
嫌いな人と同じことをすれば、自分もその人と変わらなくなっちゃうと思うんだよねぇ。
もったいないなぁ。
同じことをやり返すことはできるけど、やらないことを選ぶこともできるよ。
同じところに落ちないために。
Sちゃんは、どっちがいい?
やり返して、気は済むけど嫌いな人と同レベルな自分になるのと、腹は立つけどやり返さない、あなたとは違いますから、って言える自分でいるのと。
どっちの自分の方が好きでいれそう?」
たぶん、嫌いな人と同族にされるのはおプライドが許さないであろうSちゃんが、やり返す、という短絡的な手段を選ぶのに抵抗感が出るよう言葉を選んだ。
ちょっと詐欺師っぽい。
と、自分でも思う。
「……」
と、黙っていたSちゃん。
「……腹立つ。めちゃくちゃやり返したい。でも、同じになるのは絶対いや。」
「うんうん」
「私はやり返すこともできる」
「うんうん」
「でも、やらない!あの人と同じになりたくないから!」
「だね!」
「でも、腹立つーーー!!」
「腹立つねーーー!!」
と、一緒に叫んだ。
腹が立つものは、腹が立つのだ。
叫んだっていい。
そこで終わらせられるSちゃん偉いぞ!
と、めちゃくちゃ褒めた。
Sちゃんは、少しスッキリした顔で「へへっ」と笑った。
かわいいと思った。
素直だと思った。
素直すぎないか、と思った。
思い通りになってるけど、大丈夫かと思った。
これは、こう言えば私がこうするだろうと思って言ってるな、むむむ、なんて1mmも考えてない。
小綺麗マダムの嫌味も、私の問いかけも、真っ直ぐ真っ直ぐ受け止める。
かわいい。
なんて素直なんだ。
かわいい。
結局、Sちゃんは小綺麗マダムにやり返すことはなかった。
その後の飲み会で、小綺麗マダムに嫌味を言われた話をしては、「私はあの人とは違うからやり返さなかった!だから、私はあの人とは同族じゃない!」と、声高に言っていた。
最初からそう思ってましたと言うように。
たぶん、私に言われたことなどもう覚えてないんだろうな、と思うくらい堂々と、「だけど、私はやり返さなかった!」というSちゃんを最高にかわいいと思いながらニヤニヤ眺めた。
***
全くの余談なのだけれども、
タイトルの「あの子に嫌われてるわたしはどうでしょう?」には、この前に「あなたの嫌いな」が入る。
「あなたの嫌いなあの子に嫌われてるわたしはどうでしょう?」
Sちゃんは、この通りなかなか激しい子だった。笑
食べ物でも人でも好き嫌いがハッキリしていた。
「高校生の頃に文具っペと出会ってたら友達になってなかった」
と、よく言っていた。
Sちゃん曰く、私の話は小難しく、急に壮大になったり、暗くなったりする。全然分からない。学生時代なら友達に選んでない、ということだった。
「文具っペって死にたいの?」
と、聞かれたのはなんの話をしててそう思われたのか。笑
「死にたくもないし、生きたくもないのですよ」
と、答えたことは覚えてる。
こういうところだろうな。
友達に選ばれないのは。笑
このSちゃんに、好かれるとしたら、
とふと思った。
「Sちゃんの好きな人に好かれている私」?
それとも、
「Sちゃんの嫌いな人に嫌われてる私」?
前者は、なんかややこしいことになりそう。
妬まれそうな気配がある。
好かれるなら、後者だろう。
あの真っ直ぐでめんどくさいくらいの正義感で、「あの人に嫌われてるの?かわいそうに、私のところにおいで!」とか言ってくれそう。
そんなどうでもいいことを空想して面白くなって、
「あなたの嫌いなあの子に嫌われてる私はどうでしょう?」という自由律俳句を作った。
だから、Sちゃんを思い出すと、自然とこの自由律俳句もくっついてくる。
と、ただそれだけのはなし。
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#かわいいってなんでしょう
#文具っペってマジメだよね ~と言われてた
#最終的にまじっぺと呼ばれてた
#ぺしか残ってない