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『13歳のハローワーク』が始まりだった、村上龍さんの訃報に寄せて

      幻冬舎社長の見城さんに提案いただき、 『13歳のハローワーク』を、当時担当していた番組で取り上げることを決めた。

     20年以上前のことである。

     編集チームは、石原正康さんを筆頭に 活気ある優秀な人たちが集まっていた。 そこには、今は水鈴社の社長である篠原一朗さんもいた。
     
     初対面の時、「龍さんの本の中で一番好きな作品です」 と言って、篠原さんに『五分後の世界』 をプレゼントされたことを覚えている。

     「みんなが好きなことを仕事にすれば、この国はもっと元気になる」

     失われた10年に突入していたあの頃、『13歳のハローワーク』のメッセージは、 心に響いた。

     どんなVTRを作ろうか? 何しろ村上龍さんだ。

     中学生の時、『限りなく透明に近いブルー』を 読んで以来、大ファンだった。
     アメリカ同時多発テロの前に 『希望の国のエクソダス』を書いていたように、 鋭い先見性で時代を切りとる龍さんの才能に 尊敬の念を抱いていた。

     龍さんに納得していただけるVTRにしたい。

     どんな企画にしようか。

     考えに考えた末、 色々な職業の方に、
     「本当に成りたかった職業はなんですか?」 という質問を投げかけ、
     「この本があったら、今の自分は変わっていたと  思いますか?」
     というインタビューを撮る、 そして、そのVTRを龍さんに見てもらう、 という企画にした。

    龍さんは、そのVTRをとても興味を持って見てくれた。

     忘れられないのは、 VTRで「これから理髪師になりたい」と語っていた 若い男性について 「いい理髪師になると思いますよ」 とおっしゃったこと。 数十秒ほどのインタビューにもかかわらず、 龍さんの人を見る力、 そして優しさを感じた瞬間だった。

     その数年後、あの名作『半島を出よ』が出版される。 ワクワクしながら読み進めると 登場人物に、イシハラもシノハラも、 その他、幻冬舎のスタッフの名前が次々に出てきた。

     実はその頃、私は会社を変わっていた。 

     本当にやりたいことを突き詰めるために。

     すると、同じタイミングで、その会社で龍さんが司会を務める番組が始まった。

     『カンブリア宮殿』である。

     そして私は、新しい会社で、かねてからやりたかった番組を実現させた。当時メジャーリーグで活躍していた松井秀喜さんのドキュメンタリー番組を制作することができたのだ。

     龍さんの訃報を知った日、松井秀喜さんが巨人軍の新監督になるという発表があった。

     こんな偶然もあるのか。

     龍さんにお会いしたことは 数えるほどしかない。

     でも、なぜかとても親近感を覚える作家さんだった。

     龍さんの新作が出ると聞いて、 発売日までワクワクしながら待つ。
     何度も繰り返した そんな体験が、もう出来ないと思うと とても残念だ。

     ただ、今は 素晴らしい多くの作品を届けていただいたことに 心から感謝したい。
     
     龍さん、長い間、ありがとうございました。


     
    *Xに投稿した文章を一部加筆しました。

     
     
    テレビ東京 制作局 統括プロデューサー/BS「あの本、読みました?」を立ち上げるなど、これまでの主な担当番組は「アド街」「新美の巨人たち」「ポチたま」「いまからサイエンス」など。読書量は小説を中心に、ひと月約十冊/https://www.txhd.co.jp/sns_policy

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