
理容室で出会った隠れカリスマ美容師、その手に宿る年月
「今日もカットのみでよろしいですね?」
もちろん、返事は「はい」だ。
今日は、いつも通っている理容室へ行ってきた。受付でいつものカードを渡し、案内された散髪台に腰を下ろす。
担当してくれたのは、普段あまり見かけない初老の男性だった。
最初は不安だったが腕は確かだった
手際よく髪を切っていく。ときどき鏡をのぞき込み、手のひらで髪の流れを確かめる。ふんわりと頭髪に触れ、わずかに飛び出している一本を見つけると、はさみを入れる。
そんなに凝った髪型をお願いしているわけではない。それでも、最後の仕上げにはずいぶん時間をかけてくれる。
失礼ながら、少しおぼつかない足取りに、最初は不安を感じていた。しかし、どうやら腕は確かなようだ。
いったいこれまで、何人のお客さんの髪を切ってきたのだろう。
美容師という仕事は、大したものだと思う。
お客さんの要望を聞き、顔立ちや頭の形とのバランスを考える。そして、まだ目の前には存在しない髪型の完成形を、頭の中に思い描く。それを頼りに、一本一本、はさみを入れていく。
そこには、カットの技術だけでなく、人の話を聞く力や、全体の仕上がりをイメージする力も必要なのだろう。
もしかしたら、この人は何十年もの間、そうした技術を磨き続けてきたのかもしれない。
そう考えると、目の前で動いているはさみの一本一本に、長い年月が積み重なっているように見えてくる。
きっと、自分の仕事に誇りを持っているのだろう。
いわゆるカリスマ美容師というわけではない。テレビに出ることもなければ、雑誌で紹介されることもないだろう。
けれども、私にとっては、隠れカリスマ美容師だ。
こういう仕事ぶりを見ると、少し憧れてしまう。
目の前の隠れカリスマ美容師と自分を比較してみた
翻って、自分はどうだろう。
少なくとも、社内の限られた部署の中では、インフルエンサーもどきの役割を担っているように思う。誰かに何かを伝えたり、考え方に影響を与えたりすることもある。
けれど、それだけで満足してはいけないのかもしれない。
自分にしかできない仕事、自分だからこそ生み出せる価値。そういうものを、もっと大切にしていきたい。
何十年もはさみを握り続けてきた人の手を見ながら、そんなことを考えた。
仕事に誇りを持つというのは、声高に自分の能力を語ることではないのだろう。
目の前のお客さんの髪に、最後の一本まで丁寧にはさみを入れる。
その姿にこそ、仕事への誇りが表れているのかもしれない。
そんなことを思う、休日の昼下がりであった。