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Photo byyadokari5hiki1

『妖怪』というセーフティ

    読書をしていて気づいたことがある。

    きっかけとなった著書は、民俗学者である島村恭則氏の『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)である。

    その著書の中では、彼が勤務する大学の学生たちが提出したレポートの一部が紹介されている。

    学生たちの幼い頃の体験で、家庭内において親が子どもを躾けるために召喚する「妖怪(鬼など)」の話だ。

    「言うことを聞かないと〇〇が来るよ」「これから〇〇を呼ぶからね」などと、親から子ども時代に言われた人は少なくないようだ。

    そこで私が育った家庭環境との違いに気づいたのだ。

    家庭内で幼い子どもが言うことを聞かない時には「妖怪」を召喚する親もいるのだと。

    ……思い返せば、ウチの両親はすぐにキレる方だったから、「妖怪」の召喚呪文を知らなかったのかもなぁ(笑)

    1.親がしつけの一環で「妖怪」を召喚するメリット

    ①「妖怪」に恐怖を外注

    ・子どもに対して、直接激しい怒りをぶつけないで済む
    ・すぐキレる親のように子どもにとって親が恐怖の対象にならない

    ②フィクションを通じたしつけ(社会化)

    ・「妖怪」を介することで得体の知れない恐怖心を覚える
    ・そのため親が強く言っても聞こうとしない子どもが守るべきルールを、子ども自身が反発せずに受け入れる

    ③子どもに家庭内と親を安全地帯として認識させる

    ・親が「妖怪を召喚する」と言っても、実際にはほぼ現れない(※なまはげなど例外あり)
    ・「妖怪」に怯えて恐ろしくなる子どもをなだめる親は、子どもにとって味方で安全地帯にもなる

    とはいえ、中には「知り合いの妖怪」に携帯電話をかけるふりをする父親もおり、タイミングを見計らって母親が「知り合いの妖怪」のフリをしてインターホンを押すのだとか(先述の著書参考)。

    ・この場合、子どもにとって親は「妖怪」との仲介者となる
    ・親に「見えない権威」との繋がりがあることを子ども自身に想像させるため、子どもを無理なく心理的に牽制させる効果が高い

    ……これ、祖先崇拝と同じ構図だよな。

    ……何にしてもこの親にとっては「妖怪」が、幼い我が子にだけ使える期限付きで最強の切り札なんだろうなぁ。

    他にも読んでいて感じたこととして、『民俗』というと「発展が遅れた田舎に残っているもの」というイメージが強いせいだろうか?

    都市化や工業化が進んだ後の、自然豊かな田舎の古臭い建物が残る地域の方が「まだまだ妖怪が生き残っている場所」と子どもに認識されやすいようだ。

    ……妖怪が出没する場所に都会も田舎も無いはずだけど、大人になった私たちでさえ無意識にそう認識しているところがあるよな。

    ……実際、現代の家庭では携帯電話で「妖怪」を召喚する親だっているのに(笑)

    これにはメディアの影響や現代と昔の家屋の造りの違いなどがあるだろう。

    2.妖怪がいそうな場所のイメージ

    ①メディアの影響

    ・「ゲゲゲの鬼太郎」「となりのトトロ」など、アニメ作品の中の妖怪が出る風景は昭和の自然豊かな田舎

    ②建物が演出する陰影

    ・現代家屋の中は大きなガラス窓から入る日光や白い壁紙、夜はLED照明などでとにかく明るい
    ・対して昔ながらの木造建築は陰影が多く、建具が軋む音がしたり、風が通り抜ける音がする(現に私の自宅も古い家屋で日常的に音が鳴る)

    ③無意識に都会と田舎を二項対立

    ・都会=合理主義・科学・最新技術=妖怪が消滅する場所
    ↕
    ・田舎=伝承・神秘・古い習慣=妖怪が残存する場所(民俗が持つノスタルジーなイメージ)

    という二項対立で世界を捉えてしまうことを無意識に行っている。

    何にしても、親が「妖怪」を召喚する瞬間に家の中や窓から見える景色が子どもたちにとって異世界のフィールドと化すわけだ。

    仮に親が呼ばずとも、都会の道端でも出くわす妖怪といえば「口裂け女」や「ターボばあちゃん(時速100kmで追いかけてくる老女の妖怪)」が有名であるが、よくよく考えてみれば「ターボばあちゃん」は大人が出くわす妖怪である。

    3.妖怪のタイプは「子ども向け」と「大人向け」に分けられる

    A:子ども向けの妖怪(親が召喚する「妖怪」、口裂け女など)

    ・子どもの行動範囲に出没
    ・子どもに約束(寄り道しない、暗くなる前に帰宅する)を守らせる存在
    ・約束を破ると危険な目に遭いかねないメタファーとして機能

    ★子ども向けの妖怪は「規則正しい生活をして、危ないことや悪いことはするな」という戒めの存在。

    B:大人向けの妖怪(ターボばあちゃんなど)

    ・大人の「過信」や「油断」につけ込む
    ・夜中の走行中の道路やトンネルなど車で来られる怪談スポットに出現
    ・しかしターボばあちゃんには「恐怖」だけでなく「コミカルなシュールさ」がある

    ★大人向けの妖怪は「くだらなさ」が混じりつつも、「もうちょっと健康に気を配ったり、羽目を外さず安全に行動するのが身のため」という戒めの存在。

    ……実は庶民生活においての「妖怪」って、私たちを日常生活の「正しい在り方、歩むべきルート」に戻してくれる有難い存在なんだな。

    ふと疑問に思ったが、「すぐにブチキレる親」と「妖怪を召喚する親」の違いは何だろう?

    4.妖怪を召喚する親のユーモア

    ​A:すぐにブチキレる親

    もちろんその場ですぐに叱ることが大事な時もあるが、そうでない場合は

    ​・子どもが言うことを聞かないことで、「自分の思い通りにならない怒り」をそのまま子どもにぶつけている
    ・常にオーバーワークで心に余裕が無いか、精神が未成熟なまま大人になっているため、慢性的に心理状態がキャパオーバーを起こしている
    ・子どもの行動に対して、思い込みや決めつけが思考の癖になっている(子どもへの歪んだ認知)
    ・子どもと自分との境界線が引けておらず、感情で威圧して屈服させることしかできないため、子どもを自分の感情の受け皿にしてしまっている

    ​★子どもにとってルールは「守るべき理由があるもの」ではなく「親の機嫌を損なわないこと」だと学習する。

    B:「妖怪」を召喚する親

    ・怒りの原因(子の行動)と自分の感情を一旦切り離すだけの心の余裕がある
    ・そのため、「子どもをどう納得あるいは誘導するか」という一段高い視点(メタ視点)に立てている
    ・感情を爆発させる代わりに、「妖怪」という第三者を挟むユーモアがある
    ・子どもを自分と対等な「別の個体(一人の人間)」として認識しているからこそ、直接の感情対決を避ける知恵が働いている

    ​★子どもにとって親からの恐怖ではないため、心理的安全性が保たれたまま「社会のルール」や「危険の回避」を物語として学習できる。

    ……子どもだって十人十色だから、必ずしもこのやり方が子育てにおいて絶対の正解ではないとして、それでもこんなしつけのアイデアを最初に思いついたのはどんな親だったのだろう?

    ……恐らく、昔は現代ほど生活環境が安全でも清潔でも無かったからこそ、子どもが直感的に危険を避けるために生み出された知恵だったのかもね。

    ……いちいちキレるだけでは子どもは怒られ慣れたり、納得しない怒りが積み重なったまま大人になるからな。

    ……いずれ信じなくなる日が来るにしても、「妖怪」を召喚されることで「これは言うことを聞いた方が良いやつだ」と空気を読んで納得する子どももいるんだよね。

    ……で、大人になって子ども時代を振り返った時に、キレやすい親みたいに思い込みや自分都合でキレているわけでなく、本当に子どもの安全や健康、悪い大人に成長することを危惧してのアイデアだったことに気づくから、優しい思い出に昇華されるんだろうね。

     
     
    日々の暮らしの体験やふとした疑問などをきっかけに、いつも何かしらの考え事をしている子供部屋人間。素人考察なのでお手柔らかに。

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