
浮上する月
兆しめく 赤き月あり 海の果て
スマホを向けて「きもー」とLINEす
たゆたゆと 波間に黒いかたちあり
「漁師あるある」俺にもきたか
海面の 死体と漁船並びいて
保安庁待つ先に赤い月
うつ伏せの死体に「男か?」と思う
マーク・トウェインのうそっぱちの夜
人間は 沈んで浮いてまた沈む
死体なのにな 死体だからな
*
ヤカラ(漁師)から、海面に浮かぶ、夕陽のような真っ赤な月の写真が送られてきました。
「大地震の前兆じゃない!? 怖ない!?」
とヤカラ。
「えー! 生で見てみよ!」
と、スマホだけ持って外に出たけれど、
「低すぎてそっちからは見えないだろうし、見える頃にはもう、ただの白い月だよ」
と言われました。
“レイリー散乱”といって、夕日が赤く見えるのと同じ原理なんだそうです。
それから、彼は沖で死体を見つけました。
「フェリーから飛び降りたんだよ。フェリーって、出港したときと入港したときで人の数が違うんだって」
などとでたらめなことを言っていましたが、海で死体を発見すること自体は、彼いわく“漁師あるある”なのだそうです。
「人間は、沈んで、腐敗してガスが溜まって、また浮く。それからガスが抜けて、また沈む。そうなったらおしまい」
とも言っていました。
(※必ずそうなるわけではありませんよ![AIによる概要])
死体なのに、沈んで、浮いて、沈む。
死体だから、沈んで、浮いて、沈む。
彼はそのあと、あの、人なのか人じゃないのか判別できない「かたち」が頭から離れず、ご飯が食べられなくなったそうです。
それでも生きていれば、お腹は空く。
三日ぶりにがっつり食べたご飯は、とてもおいしかったんだって。
腹が減れば、メシはうまい。
生きているから。