
【架空の指輪】
空は恋をしている。
空はずっとひとりぼっちだった。
それはあたりまえのことだったから、自分がひとりきりだということにも気づかなかった。
そんな空が、近ごろなにかを忘れているような気がして落ち着かなかった。
だれかと、なにか大切な約束をして、約束をしたということもまとめて忘れてしまったような。その約束のぶんだけ、自分にぽっかり穴があいてしまったような気がした。
「それは『さみしい』ということだね」
と、ものしりの灯台がおしえてくれた。
灯台はずっと空を見ていたから、空の気持ちに気づいたのだ。空はずっとひとりだったけれど、空を見ているものはたくさんいた。
「きみが『さみしい』を憶えたのは、恋をしたからだな」
それで空は、自分が恋をしているのだと知った。
「そんなのは恋じゃないと思うな」
鴎がくちばしをとがらせていった。灯台が空ばかり気に掛けるのが気にいらない。
「恋に恋してるだけだよ。この先どうしたいとか、そんな『将来の展望』はないんでしょ?」
そういわれると空はなにもいえない。自分の気持ちに手も足も出ない。
「なにかしてあげたいとは思わないの?」
それは思う、とっても思う。
勢いこんでうなずく空を見て、鴎がいった。
「恋をしたら、人は約束を贈るんだよ。給料三ヶ月分の指輪、をね」
それだけいうと、鴎はぷいっと飛んでいってしまった。
いろいろ考えて、結局、空は鴎のことばにしたがうことにした。
給料三ヶ月というのはよくわからなかったけれど、長い時間をかけて金の指輪を準備した。
でも、いざとなると気おくれしてしまう。
空はぐずぐすと最後まで迷っていたが、夜明けとともに思いきって指輪を差し出した。

雲が切れた。
それから、あかるくなってきた。
今日が始まった。
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