
そもそも、音楽教育や音楽遊びってなぜ必要なの?
今日は研究結果から考える、子どもの育ちと音楽の深い関係ついて紹介します。
子どもと一緒に歌を歌ったり、音楽に合わせて体を揺らしたり。
家庭でも保育園や幼稚園でも、音楽に触れる機会はたくさんありますよね。
でも、ふと考えたことはありませんか?
「そもそも、子どもにとって音楽って何のためにあるんだろう?」
「音楽遊びをすると、どんな力が育つんだろう?」
私はこれまで中学校の音楽教員として子どもたちと関わり、現在は1歳の娘を育てています。
教員として音楽を教えてきた経験と、親として子どもの成長を見つめる日々。
その両方を通して、改めて感じていることがあります。
それは、音楽は、歌や楽器が上手になるためだけのものではないということです。
音楽には、聴く、感じる、考える、動く、表現する、誰かと気持ちを通わせるなど、さまざまな経験が詰まっています。
今回は、国内外の研究や教育の考え方を参考にしながら、子どもの育ちにとって音楽教育や音楽遊びがどんな意味を持つのかを考えてみたいと思います。
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1.音楽は「考える力」を育てる経験になる
まず紹介したいのが、音楽と脳の働きに関する研究です。
音楽を聴いたり、歌ったり、楽器を演奏したりするとき、私たちはさまざまなことを同時に行っています。
例えば、歌を歌う場面を考えてみましょう。
* メロディーを聴く
* 歌詞や音程を覚える
* リズムに合わせて声を出す
* 次の音や歌詞を予測する
* 周囲の音を聴きながら自分の声を調整する
このように、音楽活動には複数の認知的な働きが関係しています。
ここで注目したいのが「実行機能」という力です。
実行機能とは、簡単にいうと、自分の行動や考えをコントロールするための力のこと。
例えば、
* 必要な情報を一時的に覚えておく「ワーキングメモリ」
* 目の前の刺激にすぐ反応せず、行動を抑える「抑制制御」
* 状況に応じて考え方や行動を切り替える「認知的柔軟性」
などが含まれます。
2025年に公表された研究では、3〜6歳の子どもを対象とした音楽トレーニングの研究10件をまとめたメタ分析が行われました。
その結果、音楽トレーニングを受けた子どもたちは、比較対象の子どもたちと比べて、
* 抑制制御:効果量 SMD=0.38
* ワーキングメモリ:SMD=0.35
* 認知的柔軟性:SMD=0.23
という改善が報告されました。
つまり、幼児期の音楽活動が、考える力や自分の行動を調整する力と関連する可能性が示されたのです。
もちろん、音楽をすれば誰でも同じように能力が伸びるという意味ではありません。
研究の対象や活動内容にも違いがあります。
それでも、音楽活動が単なる娯楽ではなく、子どもがさまざまな認知的な経験を積む機会になることは、とても興味深い結果だと思います。
参考:Effects of music training on executive functions in preschool children aged 3–6 years(2025)
2.音楽は、言葉になる前から始まるコミュニケーション
私が特に大切にしたいと思っているのが、音楽とコミュニケーションの関係です。
赤ちゃんは、まだ言葉で自分の気持ちを伝えることができません。
でも、声を出したり、表情を変えたり、体を動かしたりすることで、自分の気持ちを表現しています。
そんな赤ちゃんとのやりとりに、歌や音楽はとても自然に入り込んできます。
例えば、
* 抱っこしながら歌を歌う
* 子どもの声に合わせて大人も声を出す
* 音楽に合わせて一緒に体を揺らす
* 歌の途中で少し間を空け、子どもの反応を待つ
こうした何気ないやりとりも、音楽を通したコミュニケーションです。
2024年に発表された研究では、3歳未満の子どもと養育者による自然な音楽的やりとりについて、971本の論文を調べ、最終的に27件の研究を対象として整理しています。
その中では、親子の歌のやりとりや、子どもの注意、感情、リズムに関する行動、親子の動きや声のタイミングが合う「同調(シンクロニー)」などが注目されていました。
また、2023年のレビュー論文でも、親子で音楽を共有することが、相互の関わりや気持ちの調整、社会的なつながりとどう関係するのかが取り上げられています。
ここで大切なのは、音楽が一方的に子どもへ与えられるものではないということ。
親が歌い、子どもが笑う。
子どもが声を出し、親がそれに応える。
そんな小さなやりとりの積み重ねが、親子のコミュニケーションになります。
私自身も娘の顔を見ながら歌を歌う時間を大切にしています。
歌を歌っていると、こちらの顔をじっと見つめたり、笑い返してくれたりすることがあります。
音楽を通して、言葉だけではないコミュニケーションが生まれているのだと感じます。
参考:
* Let’s make music as we normally do(2024)
* Early social communication through music(2023)
3.音楽は、聴く力と身体の動きをつなぐ
音楽は耳だけで楽しむものではありません。
音を聴いて、体を動かし、音の変化を感じる。
音楽には、聴覚と身体の動きが深く関係しています。
例えば、音楽に合わせて手をたたく遊び。
最初は大人の動きを見て真似するだけかもしれません。
でも、繰り返すうちに、音が鳴るタイミングを感じたり、自分でリズムを作ったりするようになります。
また、音楽に合わせて歩く、止まる、ジャンプするなどの遊びでは、音を聴きながら自分の動きを調整する経験にもつながります。
音楽活動では、
* 音の高さや大きさの違いに気づく
* 速い音、ゆっくりした音を感じる
* 音に合わせて体を動かす
* 音が止まったことに気づく
* 自分の動きと周囲の音を調整する
といった経験ができます。
こうした経験は、子どもが自分の身体や周囲の環境に気づいていくきっかけになります。
ここで大切なのは、正確にリズムを取れることではありません。
音を聴いて、何かを感じて、自分なりに動いてみること。
その過程そのものに意味があるのだと思います。
4.音楽は、自分を表現するための手段になる
音楽の大きな魅力のひとつは、言葉以外の方法でも自分を表現できることです。
嬉しいとき、悲しいとき、楽しいとき。
私たちは、そのときの気持ちによって聴きたい音楽が変わることがありますよね。
子どもも同じです。
音楽を聴いて体を揺らしたり、声を出したり、楽器を鳴らしたりすることは、自分なりの表現のひとつです。
例えば、同じ音楽を聴いていても、
* 体全体を大きく動かす子
* 小さく手を揺らす子
* 楽器を鳴らして楽しむ子
* じっと耳を傾ける子
反応は一人ひとり違います。
どれが正解ということはありません。
音楽教育では、音程やリズムを正確に表現することも大切ですが、それと同じくらい、子どもが自分なりに感じたことを表現できる環境が大切だと思います。
文部科学省の特別支援学校学習指導要領解説でも、音楽の活動を通して、音や音楽の楽しさを味わうことや、協働して音楽活動をする楽しさを感じることが目標として示されています。
音楽は、上手にできるかどうかだけで評価するものではありません。
自分なりの方法で参加し、表現することにも大きな価値があるのです。
参考:文部科学省・特別支援学校学習指導要領解説
5.音楽は、人と一緒に楽しむ経験をつくる
音楽には、人と人をつなぐ力もあります。
例えば、みんなで歌を歌うとき。
誰かの声を聴き、自分の声を出し、周りの人と一緒にひとつの音楽をつくります。
楽器を使った合奏でも同じです。
自分のパートだけを演奏するのではなく、周りの音を聴きながら、タイミングを合わせていきます。
そこには、
* 相手の音を聴く
* 自分の出番を待つ
* 周りの人に合わせる
* 一緒に音楽をつくる
* 違う表現を認め合う
といった経験があります。
音楽は、誰かと同じことをするだけではありません。
それぞれ違う音や表現が合わさって、ひとつの音楽になることもあります。
私は、ここに音楽の面白さがあると思っています。
得意なことも、表現の仕方も、一人ひとり違っていい。
それぞれの違いを生かしながら、一緒に楽しめること。
これは、私が大切にしているインクルーシブ教育の考え方にもつながっています。
6.音楽をすれば、勉強ができるようになる?研究結果を正しく見ることも大切
ここまで音楽のさまざまな可能性を紹介してきました。
ただ、専門的な内容を伝えるうえで、ひとつ注意しておきたいことがあります。
それは、音楽を学べば、必ず算数や国語の成績が上がる、IQが高くなる、といった単純な話ではないということです。
2020年に発表された大規模なメタ分析では、子どもの音楽トレーニングに関する54件の研究、合計6,984人のデータが検討されました。
研究の質や比較条件を考慮すると、音楽トレーニングが音楽以外の認知能力や学業成績を全般的に向上させるという効果は確認されませんでした。
一方で、先ほど紹介したように、実行機能の一部については、改善を示すメタ分析も発表されています。
一見すると矛盾しているように見えるかもしれません。
でも、これは研究で調べている対象や、音楽活動の内容、比較方法が違うためです。
つまり、音楽にはさまざまな発達的な可能性がある一方で、すべての能力を一律に高める万能な方法ではないということです。
私は、音楽教育の価値を「勉強ができるようになるから」という理由だけで説明する必要はないと思っています。
音楽を楽しむことそのものに価値がある。
自分の気持ちを表現できること。
誰かと一緒に楽しめること。
美しい音に心を動かされること。
こうした経験は、テストの点数だけでは測れないものです。
参考:Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis(2020)
7.音楽遊びは、今日から家庭でも始められる
ここまで研究を紹介してきましたが、音楽教育と聞くと、少し難しく感じてしまう方もいるかもしれません。
でも、家庭でできる音楽遊びに特別な準備は必要ありません。
例えば、
① 好きな歌を一緒に歌う
親の声を聴いたり、声を出してみたりするだけでも、音楽との出会いになります。
② 音楽に合わせて体を揺らす
童謡や好きな曲に合わせて、親子で体を動かしてみましょう。
③ 手をたたいてリズムを楽しむ
大人が手をたたいてみたり、子どもの動きを真似してみたりするのもおすすめです。
④ 身近なものから音を見つける
紙をくしゃくしゃにする音、箱を軽くたたく音、鈴の音など、身の回りにもたくさんの音があります。
⑤ 音楽を一緒に聴いてみる
クラシック、童謡、ポップスなど、いろいろな音楽に触れてみるのもいいですね。
大切なのは、子どもに何かを覚えさせようとすることではありません。
子どもの反応を見ながら、一緒に楽しむこと。
そして、興味がなさそうなときや嫌がるときは、無理に続けないことも大切です。
音の大きさや種類にも気を配りながら、その子にとって心地よい音楽の時間をつくっていきたいですね。
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おわりに|音楽は、子どもの可能性を広げるひとつの入り口
今回、さまざまな研究や教育の考え方を調べて、改めて感じたことがあります。
音楽は、単に歌や楽器を上達させるためだけのものではないということです。
音を聴く。
体を動かす。
感じたことを表現する。
誰かと一緒に楽しむ。
そのひとつひとつが、子どもにとって大切な経験になります。
そして、音楽を楽しむために、特別な才能や技術は必要ありません。
歌が上手でなくてもいい。
楽器が演奏できなくてもいい。
リズムに合わせて動けなくてもいい。
ただ音を聴いているだけでも、体を少し揺らしているだけでも、その子なりの音楽との関わり方があります。
元音楽教員として、そして一人の親として、私はこれからも、音楽を通して子どもたちの可能性を広げていきたいと思っています。
音楽は、できる・できないで分けるものではなく、誰もが自分なりの方法で楽しめるものであってほしい。
そんな思いを、これからも発信していきたいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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参考文献・資料
1. Effects of music training on executive functions in preschool children aged 3–6 years: systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology, 2025.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1522962
2. Cavero, B. et al. (2024). Let’s make music as we normally do: A systematic review of how early natural musical interactions between infant and caregiver have been studied. Infant Behavior and Development, 75, 101928.
https://doi.org/10.1016/j.infbeh.2024.101928
3. Early social communication through music: State of the art and future perspectives. (2023).
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10407289/
4. Sala, G. & Gobet, F. (2020). Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Memory & Cognition, 48, 1429–1441.
https://doi.org/10.3758/s13421-020-01060-2
5. 文部科学省『特別支援学校学習指導要領解説 総則編(幼稚部・小学部・中学部)』