
【ネタバレ】共生とは誤謬である――「劇場版モノノ怪 第三章 蛇神」レビュー&感想
遂に第三章が公開となった劇場版モノノ怪。「合成の誤謬」を描いてきた本作はしかし、それを打倒の対象としない。共生とは誤謬である。
1.逃れがたき誤謬
天子の正室・幸子の出産を間近に控え沸き立つ大奥。世継ぎの誕生を期待されるとなればそこには陰謀が潜み、情念があふれ出す。三度ここを訪れた薬売りが今回祓うのは……
2024年に第一章が公開、2026年の第三章で完結を迎えた劇場版モノノ怪。「合成の誤謬」をキーワードに繰り広げられてきた物語が行き着いたのは、その悲しみとそれでも共に生きる理由であったように思う。細部にいくらでも見入ることのできる作品だが、ここでは大雑把な流れを手がかりに私の感じたものを書いてみたい。
完結編となるこの第三章は、前二作とは大きく異なった構成の話だ。これまでは大奥で小さな異変が起き、それを嗅ぎつける薬売りと訝しむ人々……というものだったが、二度に渡って事件を解決した薬売りを疑う者はこの第三章にはほぼいない。蛇神というモノノ怪の存在は早々に語られるし、その脅威で大奥は早々に危機に陥る。合わせて大奥や天子についての秘密も出し惜しみなく語られ、物語は最初からフルスロットルだ。少々面食らいさえするスピード感だが、だからこそ語られているものはなにか? それはこの騒動に限らず、大奥で起きることの全てが合成の誤謬であることだ。
天子の世継ぎが生まれることは幕府の、ひいては世の安寧の大きな正当性を持つが、早々に明らかになるように実はこれは死産した子の代わりに持ち込まれた捨て子であった。だがこれが前代未聞の不祥事かと言えばそんなことはなく、実は150年前にも同様の取り換えは行われていて既に本物の天子の血筋は存在しないことも矢継ぎ早に判明する。天子の血筋が偽者ならば、それを守り受け継ぐための大奥になんの正当性があるのか? あるわけがない。揺るぎなき万世一系の城と思われていた大奥はその実、偽りの砂上に築かれた楼閣でしかなかった。ただこれが難しいのは、この正統性なき大奥がただの権勢のための産物ではなかったことだ。
幸子の子は確かに取り替えられたが、彼女の乳母である常磐井は自分が大奥の頂点に上り詰めたくてこんなことをしたわけではなかった。我が子のように大切な幸子が日陰者の身でいるのが耐えられず、なんとしても彼女の名誉を取り戻したかったからだ。また大奥を発案し150年前に取り替え子を行った天局にしても、考えていたのはあくまで幕府の存続……老中の藤巻のような例外もあるにはあるが、ここには基本的に悪人はいない。皆が誰かや何かを思っていて、けれどそれが合わさると他人を不幸にし偽りを生む……まさに誤謬だ。
集団がある限り、そこには必ず誤謬が生まれる。これを解決する方はあるのか?と言えば「ない」。少なくとも本作はそれを示していない。だが、それでも希望はある。
2.共生とは誤謬である
幕府の正当性まで含めた全てが合成の誤謬であると示す本作は、一方でその希望についても描いている。どこの場面が?と言えば「全体がそうだ」となるだろう。二度の騒動で信用を勝ち得たこともあり、この第三章では薬売りに、そして危機に対し皆が協力的だ。モノノ怪が現れればできる範囲で彼に助勢し、塩の結界を張り大広間に人を集めるなど力を合わせている。超常の力を持った薬売りと言えど、こうした助けがなければ事件の犠牲者は更に増えていただろう。人は誰かと共に在ることで、一人では思いもよらぬ結果を──”誤謬”を生み出すことができる。
この物語にあるのは個の苦しみであり、同時に個(私)の限界である。無私の極地とも言える天局ですら後世に禍根を残しているし、天子と幸子は本心を語り合ってもなお相容れない。私たちは私たちであることから逃れられない……けれどだからこそ手を取り合うこともできる。モノノ怪・百目が手に余ると判断した薬売り『坤の剣』が自分とは別の薬売り『離の剣』の力を借りるように、どんな強者も一人ではいられない。幸子が捨て子と一緒に生きていきたいと考えるように、血の繋がらぬ間柄にも親子の情のような誤謬は生まれ得る。だから私たちは、全てから正当性が奪われようと世界に絶望する必要はない。
誰かと共に在る限り誤謬は生まれ続ける。モノノ怪を生み出すほどの苦しみを持つそれは、時に祓わなければならない。けれど同時に、誤謬とは一人ではない証でもあるのだ。
感想
以上、劇場版モノノ怪の第三章レビューでした。今までと大きく違う(正確には、第一章と第二章でもちょっと違ってはいたのでしょうが)部分を中心に考えていくとこんなレビューになりました。それも含めて合成の誤謬と言えるのかな、という気がします。三部作全て別役で皆勤しているゆかなさんの存在感たるや。最後には「いずれまた」とありましたし、また何らかの形で続きが見られたら嬉しいです。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
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普段はTVアニメのレビューを1話1話ブログに書いています。2026春は「黄泉のツガイ」「あかね噺」「淡島百景」の3作をレビュー中。