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「これ持ってけ」が断れなかった日|第19話

    「ほれ。持ってけ。」

    「今年初めて揚がったんだ。」

    いつもの紙に包まれた魚。

    「どうした?」

    「なんかあんのか?」

    「冷蔵庫がいっぱいで……。」

    「ふぅん。」

    「なら、■■ちゃん、

    待ってっから、またな。」

    「気にすんな。俺が食うからよ。」

    「じゃあな。」

    風に背中を押されるように、

    路地を急ぎました。

    「ただいま。」

    「あれ?」

    「どうしたの?」

    「今日は断っちゃった。」

    妻は、

    少し笑って、

    「そ。」

    「初物って、

    なんだったんだろうね?」

    「そうそう!

    生姜焼きにしない?」

    「実は、

    隣のおばちゃんから、

    生姜たくさんもらったの。」

    網戸を抜けた風が、

    部屋を通り抜けました。

    「明日、

    行ってみようか。」

    「元気にしてるかな。」

    「楽しみだね。」

    「実は毎日会ってるけどね。」

    目を合わせて、

    箸が進みます。

    翌日、路地を抜け

    「こんばんは!」

    「おう。」

    「生姜煮、

    うまくできたか?」

    「残念!」

    「生姜焼き!」

    「しかも〇〇さんの生姜!」

    「なんで持ってこねぇんだよ!」

    「■■ちゃんにやったって聞いてたんだぞ」

    三人で、

    笑ってしまいました。

    防災無線の鐘が、

    響きます。

    「あんちゃん。」

    「あれ、カワハギ。」

    「肝あえで食べりゃ、

    酒とまんねぇぞ。」

    魚屋のおじさんが、

    私の背中を、

    ぽん。

    「俺もよ、■■ちゃんの、

    生姜焼き食いてぇんだからよ。」

    「ほれ。

    肝はねーけど、カワハギ持ってけ。

    ■■ちゃんと煮付けて食え。」

    帰り道。

    「あーぁ。」

    「カワハギの肝和えかぁ。」

    「そういえばさ。」

    「煮付けできるの?」

    妻は、

    笑ったままでした。




    港町へ来るまでのこと。

    そして、

    この町で暮らし始めた頃のこと。

    よかったら、

    最初から歩いてみてください。



    第16話からは、

    港町で出会った人たちと、

    その人たちから教えてもらったことを、

    少しずつ書いていきます。

     
     
    役職定年を前に、 人生を編集するエッセイ『港町編集室』を書いています。 毎週土曜日更新。 地方で働きながら、 人との出会い、 土地の言葉、 人生後半の時間を綴っています。 初めての方は、第0話からどうぞ。 土地には、まだ名前のない時間がある。

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