
【アマノ文筆クラブ】 『時間をかける少女』 |「そっちはどう?」
机の上には、丸めた便箋が小さな山になっている。
「まだ書いてるの?」
母が麦茶を置いていく。
「早く出しちゃえばいいのに。手紙なんて、気持ちが伝わればそれでいいんだから」
「うん。もうちょっとで書けそう」
少女はそう言って、鉛筆を持ち直した。
もうちょっと、は三か月前から言っている。
手紙をくれたのは、引っ越していった、隣の席だったあの人だった。
新しい町の空が広いこと。
給食にはじめて食べるパンが出たこと。
最後の行に、「そっちはどう?」と書いてあった。
たったそれだけの問いなのに、答えようとするといつも手が止まる。
今日のことを書くと、昨日のことも書きたくなる。
昨日のことを書くと、「好き」の二文字まで書いてしまいそうになる。
少女は、ほんとうは知っている。
この返事を書き終えて、ポストに入れてしまったら、この手紙はおしまいになる。
書いている間は、あの人とまだ話している気がする。
少女は最後に「それでね、」と書いた。
続きは書かなかった。
便箋を四つに折って、引き出しの奥にそっとしまう。
明日また、続きを考えることにして。
【アマノ文筆クラブ】
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【自己紹介】
私がどんな気持ちで文章を書いているか、自己紹介記事にまとめています。読んでもらえたら嬉しいです。