
会社の倒産をニュースで知った日
会社の運命を最初に教えてくれたのは、社長でも役員でも上司でもなかった。Yahoo!ニュースである。今から20年以上の話である。
金曜日の午後、眠気が吹き飛んだ
金曜日の午後は、一週間でいちばん頭が働かない時間帯だと思う。その日の私も、書類を前に半分眠っていた。そこへ同僚の叫び声が飛んできた。
「ニュースに出てるぞ!」
いよいよ倒産か、と思った。フロアの全員が一斉に自分のパソコンを開き、そして静かになった。キーボードの音がぴたりと止まる職場というのは、なかなか不気味なものである。
「支援」という言葉のやさしい顔
記事には、「倒産」とは書かれていなかった。外部から「支援」を受ける、とあった。
「支援」というのは、やさしい顔をした言葉である。しかし会社がどうなるのか、事業がどうなるのかについては、一行も書かれていなかった。フロアのあちこちで「これからどうなるんだろう」のひそひそ話が始まった。誰も答えを持っていないので、結論は永遠に出ない。誰もが都合のいいように解釈をし始める。
課長ならご存じでしょうという空気
当時の私は課長だった。部下に指示を出し、必要な情報を伝えるのが仕事である。その課長が、会社から事前に聞かされていたことはゼロだった。
そこへ部下が来る。
「これからどうなるんでしょうか」
私のほうが聞きたい。
課長という肩書きは、情報を持っている証明書だと思われていたらしい。実際は、質問をいちばん最初に受ける席というだけだった。
根拠のないことは何も言えない。全員の生活がかかっている問題である。かといって、根拠もなく「大丈夫だ」と胸を張るわけにもいかない。あの時の私は、曖昧にうなずくだけの置物になっていた。
週明けの月曜日、会社が頭を下げた
説明があったのは週を超えた月曜日だった。
最初に出たのは謝罪である。社員より先にニュースで報じられたことへのお詫びだった。極秘に進めていた話だったのだろう。
しかし、この手の話は、だいたいマスコミへの内部リークである。芸能人のスクープと違って、意図して外へ漏らしたのだろうとしか思えなかった。
説明では、ニュースの記事と殆ど変わららない内容で、外部の支援を受けること、当面は倒産という形態をとらずに事業を続けることが伝えられた。
すべてが明らかになったわけではない。それでも、明日から給料が出ないわけではないと分かっただけで、肩の荷がひとつ下りた。
ただ、実は、これからのことを考えると、ほっとしきれなかった。数年前に倒産した新潟鉄工所のことが脳裏に浮かんだ。会社は事業会社ごとに分割され、事業単位で売られ、最後は社名まで消えたのである。
今回、表向きは「支援」の二文字であるが、実質的には倒産なので、先に何が待っているのか、なんとなく予想がついた。債務返済のための事業売却がこの先待っているのだ。
従業員は、いつも最後に知る
あれから時は流れたが、最終的には事業ごとに分割された会社はすべて売却された。元の会社名も消えた。
ただ従業員の雇用が守られたのが幸いだった。
こういった構図はあまり変わっていないらしい。2024年の秋、船井電機が破産した。報道によれば、破産を申し立てたのは取締役の一人で、約2000人の従業員が解雇されたという。その後は、元会長らが破産の取り消しを求めて争うなど、会社の中も揉めていたようである。
会社の中で誰が何を争っていても、そのしわ寄せを最初に受けるのは従業員である。しかも事情を知るのは、いちばん最後になる。
倒産も事業売却も、漏れると困る話なので、極秘に進むのは仕方がない。しかし極秘のまま、従業員だけが行き先のない状態で放り出されるのは、あまりに理不尽である。
会社がおかしくなった時、従業員は路頭に迷う。あの金曜日に私が思い知ったのは、そのことだった。
路頭に迷わないために
では、どうすればよいのか。会社が教えてくれないのなら、自分で気づくしかない。
思い返せば、前兆はあった。「出張を控えるように」というお達しである。出張費を削りはじめた会社は、削るものがなくなってきている。キャッシュフローの枯渇、もう借り入れもできないという状況なのだ。会社の異変は、会社の発表より先に、出張費が教えてくれていたのだ。
もうひとつは、会社の外でも通用するものを、何でもいいから一つ持っておくことだと思う。看板が変わっても、会社がなくなっても、持っていけるものである。
今日のひとこと
会社の異変は、会社より先に経費削減の号令が教えてくれる。

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