
姉とサザンと真夏の果実
#創作大賞2026
#エッセイ部門
私の姉は20歳の頃に、
統合失調症を患い、亡くなる49歳まで、約30年
闘病生活を送っていた。
姉との生活は、本当に大変で、家族はみんな、
姉に、振り回される毎日だった。
いつもは優しいのだか、
調子が悪くなると、人が変わったように手がつけられない、
目つきが変わり、被害妄想がひどくなるのだ。
「盗聴器が仕掛けられている」
と言って、廊下の電気や窓ガラスを割ったり
夜も一睡もしない日もあり、
家族みんな夜中に、
母に呼び出されたりした。
自殺未遂をして、保護されることも
何度もあり、その度に、警察に姉を
迎えに行った。
「家族に迷惑ばかりかけるなら、本当に死んでしまえばいいんじゃない❓
そしたら、みんな楽になるから」
私はムカついて、心ない言葉を、
姉に向かって投げかけた。
「ごめ〜ん」
そう言って姉は笑った。
その態度は余計に私をイライラさせた。
ある日、
姉がサザンオールスターズのコンサートに行きたいから、
チケットを買ってほしいと言ってきた。
「沖縄にサザンが来るのは、めったにないから
きっとチケットは取れないよ」
と言って私は、
わざと姉の願いを聞かなかった。
コンサート当日も、
連れて行ってとお願いされたけど、
私は無視していた。
夕方になり、姉の姿がなかったけど、
近所に出かけたのだと思っていたら、
夜10時過ぎに、姉は帰ってきた。
帰ってくるなり、
姉は嬉しそうに話し始めた。
「あのさ、サザンのコンサート行ってきたよ!
中には入れなかったけど、歌声は聞こえたよ!」
姉はバスに乗って、
宜野湾の海浜公園の海辺で
会場から、かすかに漏れてくる、
メロディを聴いて、
またバスに乗り、戻ってきたようだ。
「ふーん、
歌が聴けたならよかったさ…」
と私はぶっきらぼうに言った。
本当は申し訳ない気持ちだったけど、
「ごめんね」
とは言えなかった。
それから、しばらくして、
姉は天国へと旅立った。
🪽🪽🪽
「どうしても聞きたかったから……」
あの時つぶやいた姉の言葉が、
今でも忘れられない。
(どうして、
連れて行ってあげなかったんだろう)
夏が近づくと、
サザンの歌が、
いろんな場所で
聴こえてくる。
そのたびに、
胸が痛くなる。
人は、誰かに何かをしてあげたときよりも、
何もしなかったときのほうが、
はるかに心に残るのかもしれない。
(タンタンタン〜♪タンタンタン〜♬♫)
イントロが流れてくると、
姉が、海辺で座っている姿が、
目に浮かぶ。
だから、姉とサザンと真夏の果実は
私の中では、
ワンセットなのだ。