
三連休前の金曜21時、自転車が終わった
金曜21時。
自転車を抱えた女がひとり、途方に暮れた。
「ごめん今日は残業させてほしい」
予定外の仕事が次々に舞い込んできて、本来の仕事が1ミリも片付いていない。どう考えても、あと4〜5時間じゃ終わらない仕事に頭を抱えて夫にLINEを送る。
私が残業するとなるとすべての負担が夫にかかる。早退、お迎え、食事、お風呂、遊び相手。この中で手を抜くなら食事だろう。夫からの「OK、頑張って」という返事に、「作り置きを食べてもいいし、外食してきてもいいよ」と送る。
さて、娘のことは夫に託した。残るは仕事だけ。
山のように積まれた仕事を前に、一つため息を吐いてキーボードを叩いた。
目処がついたところでパソコンの電源を切り、バッキバキになった肩を回す。すこぶる痛い。
人気のない廊下を通って外に出れば、少しひんやりとした夜風が気持ちいい。吉野家で牛丼でも食べて帰ろうかなどと思いながら自転車のロックを外して、重さに違和感。なんだろう、なにかがおかしい。ちらりとチェーンを確認するが何も引っかかっていない。
気のせいか、と自転車にまたがって漕ぎ出した瞬間。
ガッガッガッガッガッ!!
思わず自転車から降りて、灯りのある場所まで押していく。嫌な予感しかしない。どうか予想が外れていますようにと自転車をとめて、タイヤを確認。後輪が、見事にぺちゃんこ。
パンクゥゥゥッ!!
穴が空いたとか空気が抜けたとか、そんな生易しいレベルじゃない。見事に裂けて、黒いゴムがはみ出している。
タイヤっていうか、タイヤだったものが自転車にくっついている。
これはどう考えても乗っていいやつじゃない。
じゃあどうするかと顔を上げたところで、視界に入るのは静かな暗闇。
今日に限ってガッツリ残業してしまったわけで、こういうトラブルに詳しそうな先輩はもちろん帰っている。
じゃあ自転車を会社に放置して帰れるかって?
NOだ。明日の朝イチで修理に持っていこうにも、自転車がなくてはどうにもならない。
ならばとれる手段はひとつ。押しながら歩くしかない。
ギッギッギッと異音を立てる後輪の負荷を軽くすべく浮かそうと抱えてみても、さすがチャイルドシート付き電動自転車。重すぎて3歩しか歩けない。10メートルほど進んだところで手の平にマメができるわ腰が悲鳴をあげるわでギブアップ。
無駄に体力を使ったことを悔やみつつ自転車をトボトボと押し進めるが、ギュムッ、ギュムッ、ガッガッ!!と、異音のボリュームが上がってきた。帰り着く頃には22時。22時の住宅街で鳴らし回っていい音じゃない。あと普通に夜道、怖い。
残業までして頑張ったのにこの仕打ち。
娘に自動販売機で麦茶を買ってあげている後ろで、夫が自転車を車に積んでくれている。
先に寝てていいからね、と言った3時間前の私。
週末だしちょっと夜更かししちゃお、と判断した2時間前の夫。
寝てるよねぇ申し訳ないなぁと泣きそうな思いでかけた電話は、
「今ちょうど湯上がり〜!」
という夫の能天気な返事に救われたのだった。