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数学者になるのは諦めた。なのに今、素因数分解で戦うゲームを作っている。

    『FACTORIZE 1』制作記 #3

    「息を吸うように、素因数分解ができる……!?」

    そんな才能に目覚めた少年が、異世界へ行き、素数を武器に戦う。

    素因数分解×デッキ構築ローグライト『FACTORIZE 1』の無料体験版を、本日Steamで公開しました。

    数字のカードを組み合わせて、数をつくる。その数を素因数分解すると、素数が戦う力になる。2は攻撃、3は防御、5は回復。数の組み方が、戦い方になるゲームです。

    ▶ Steamで無料体験版を遊ぶ

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    素因数分解の才能に目覚めた「僕」のゲーム

    ずいぶん都合のいい才能だと思う。

    実際、最初に書いた物語は、もっと都合がよかった。

    素因数分解で、世界まで救うはずだった

    最初の主人公は、素因数分解の才能に目覚めて異世界へ行く。

    そこでは、その才能がものすごく役に立つ。

    敵を倒す。人を助ける。褒められる。

    さらに素因数分解する。

    最後には世界まで救う。

    数学のゲームなのだから、数学が大活躍する話にすればいい。

    実に論理的である。

    問題が一つあった。

    書いていて、全然しっくりこなかった。

    私は何を、そんなに弁護していたんだろう

    そもそも、普通に暮らしていて、

    「今日は素因数分解ができたおかげで命拾いしたな」

    と思いながら眠りにつく日は、かなり少ない。

    もちろん、数学は社会のいろいろな場所で役に立っている。

    でも、私が作りたかったのは、「数学はこんなに実用的なんですよ」と説明するゲームだっただろうか。

    最初の物語では、才能を使えば成功し、成功すれば認められた。最後には世界そのものが、主人公の才能を必要としてくれた。

    書きながら、ふと思った。

    私は何のために、こんなに必死で素因数分解を役立たせようとしているんだろう。

    数学の面白さを伝えたかったはずなのに、いつの間にか数学を弁護していた。

    「ほら、こんなに役に立つんですよ」と。

    まるで、役に立たなければ、好きでいる資格がないとでも思っているようだった。

    この違和感には、たぶん、私自身の来歴が関係していた。

    博士課程まで行って、かなり使わなかった

    私は大学院の博士課程まで進み、確率論に関連する研究をしていた。

    数学が好きだった。数学に関わる道へ進みたかった。

    だから、そのまま先へ進んだ。

    進んでみると、当然ながら、すごい人が山ほどいた。そして私は途中で、「これは、自分にはやっていけないな」と思った。

    数学を仕事にする道を諦め、社会に出た。

    そこで、もう一つ分かった。

    研究で何年も勉強した確率論の知識は、その後の仕事では、ほとんど直接使わなかった。

    かなり勉強した。

    かなり使わなかった。

    もちろん、研究を通して身についた考え方まで無駄だったとは思っていない。

    でも、「この定理を勉強しておいてよかった。今日の仕事で使うぞ」という日は、ほぼ来なかった。

    博士課程まで行った。でも数学者にはならなかった。研究したことが、そのまま仕事につながったわけでもない。

    当時の私は、それをどこかで「失敗」のように感じていた気がする。

    数学の道へ進むか、諦めるか。

    やってきたことに意味があったか、なかったか。

    0か1か。

    ずいぶん二値的に考えていた。

    それでも、66は面白かった

    しばらく数学から距離ができた。

    もう一度触れるようになったのは、ゲームを作ろうと思ってからだった。

    素数を見る。数字を分解する。組み合わせを考える。

    気づけば、道端に落ちているタバコの本数まで素因数分解していた。

    楽しかった。

    そして、少し変なことに気づいた。

    数学を仕事にしようとしていたころより、純粋に楽しんでいる自分がいた。

    論文を書かなくていい。

    誰かより詳しくなくていい。

    研究テーマとして新しくなくてもいい。

    ただ、

    「66は、2 × 3 × 11か」

    と思っていればいい。

    それだけで、ちょっと楽しい。

    なんだ。

    それでよかったのか。

    諦めたものを、楽しむことまで諦めなくていいんじゃないか。

    数学者にならなくても、数学はやっていい。

    仕事で使わなくても、遊んでいい。

    そんな当たり前のことに、ずいぶん時間がかかった。

    才能は、人生の使い道を指定する説明書ではない

    そう考えると、最初に書いた主人公が、急につまらなく見えた。

    才能がある。だから使う。

    使えば成功する。成功すれば認められる。

    それは、私がずっと自分に求めていたものと、よく似ていた。

    「才能があるなら、その才能を役立てるべきだ」

    でも、得意なことが、そのまま人生の進路になる必要はない。

    数学が得意だから、数学者にならなければいけないわけではない。絵がうまいから、絵で食べなければいけないわけでもない。

    才能は、人生の使い道を指定する説明書ではない。

    そこで、物語をほとんど作り直した。

    新しい主人公は、才能に目覚めて、そのまま順調に成功したりしない。

    むしろ、その才能によって大きく失敗する。

    自分では正しく使っているつもりだった力が、思っていたようには働かない。自分の持っているものと、どう付き合えばいいのか分からなくなる。

    何を失い、そこからどうするのか。

    そのとき、主人公は素因数分解をどう思うのか。

    そこは、ゲームの中で見てほしい。

    ただ、一つだけ決めたことがある。

    主人公が前へ進む理由を、「この才能は役に立つから」だけにはしない。

    好きなものに、履歴書はいらない

    振り返ると私は、好きなことには、何かしらの成果が必要だと思っていたのかもしれない。

    数学が好きなら、数学者になる。

    研究したなら、仕事で使う。

    才能があるなら、何かを成し遂げる。

    そうすれば、「やってきたことには意味があった」と言える。

    でも、私の人生はそうならなかった。

    博士課程まで進み、数学を仕事にする道を諦めた。その数年後、道端のタバコを数えて、素因数分解して喜んでいた。

    かなり効率が悪い人生である。

    でも、悪くない。

    何かが役に立つことと、何かを好きでいることは、別の話だった。

    好きなものに、履歴書はいらない。

    昔好きだったものを、また面白いと思った。

    それなら、勝手に戻ってくればいい。

    以前どこまでできたかも、何者になれなかったかも、再開するための審査項目ではない。

    数学とも、それくらいの付き合いでいい

    この制作記の第1回で、私は「数学を友達の輪へ連れてきたい」と書いた。

    考えてみれば、友達だって、役に立つから友達になるわけではない。

    「この人と友達になると、生涯収入が7%上がります」

    と言われても、あまり友達になりたいとは思わない。

    一緒にいると面白い。

    なんとなく好きだ。

    たまに会いたくなる。

    数学とも、それくらいの付き合いでいいんじゃないかと思った。

    だから、『FACTORIZE 1』で数学の実用性を証明するのはやめた。

    遊んだ人に、

    「なんか、ちょっと面白いな」

    と思ってもらえたらいい。

    数字の組み合わせを試していたら、思いがけず強い一手ができた。さっきまでただの数字だったものが、少し違って見えた。

    そんな時間を作りたい。

    私は数学者にはならなかった。

    研究していた確率論も、仕事ではほとんど直接使わなかった。

    それなのに今、素因数分解のゲームを作っている。

    人生というものは、よく分からない。

    でも、今はそれがけっこう気に入っている。


    こうして、物語はようやく決まった。

    ゲームの仕組みもできた。人にも遊んでもらえるようになってきた。

    あとは完成させるだけだった。

    「あとは完成させるだけ」

    私は、この言葉をかなり軽く考えていた。

    次回は、その「だけ」に何が詰まっていたのかを書こうと思う。

    次回:完成しないゲームを、完成させる
    ——『FACTORIZE 1』制作記 #4


    今日から、無料で遊べます

    『FACTORIZE 1』の無料体験版を、Steamで公開しました。

    ここまで読んで、少しでも「素因数分解で戦うって、どういうこと?」と思ったら、触ってもらえるとうれしいです。

    私が66を見て感じた「ちょっと楽しい」が、どこかで伝われば。

    ▶ Steamで無料体験版を遊ぶ

    完成まで見届けたいと思ってくださった方は、製品版のウィッシュリスト登録でも応援してもらえるとうれしいです。

     
     

    Wine

     
     
    夜にワインを飲みながらアイデアを思いつき、翌朝見てゴミ箱に捨てる。 どうも、Wineです。

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