
秋葉原が「オーディオ聖地」だった頃
カセットデッキの聖地
秋葉原の石丸電気2号店、4F。そこはカセットデッキの聖地だった場所。壁一面に数十台の最新の高級デッキが所狭しと並び、どれも自由に視聴ができるというマニア垂涎な場所。 試聴はヘッドホン限定だが、自前のテープを持参して自由に視聴できた。
訪れる時期によって機種が変わるにしても、思いつくだけでもSONY TC-K777、K777ES、K777ES2、K666、K88、K71、K-61、Lo-d D-E90、D-9、D-2200、AKAI GX-F91、F71、PIONEER CT-970、Victor DD-9、YAMAHA K-1a,K-1d、Aurex、Technics、ONKYOなどが多種多様なデッキを試聴した。
一方、どれも簡単に買えるものではなく、仕方なくカタログを手にして(無料で棚から取ることができたので)熟読することが、楽しみであった。
その中で印象に残った、いくつかカセットデッキの中で印象に残った何台かをカタログ中心に試聴の印象を話したい。
まず、「AKAI GX-F91」だ。
AKAIの渾身のデッキ GX-F91
GX-F91の操作パネル。それだけでも、このデッキの特異性がわかる。


SONYが全力開発したTC-K777を触発されたのだろうか、オーディオ黄金期ではないと登場できない個体であったことは確か。
SONYのTC-K777と同じく、AKAIが全ての技術・物量を投下したデッキ。F91以降にもいくつもの高級デッキを出たが、性能とデザインの頂点のひとつは、このAKAIのGK-F91にある。
操作パネルがモーターで開くというギミック、3種のメーター機能を持ち、自動テープ調整、スーパーGXヘッド、完全DCアンプ、回路基板を70μ厚(通常の二倍)を採用するこだわり、当時のAKAI渾身のデッキだ。薄いが奥行きが363mmもあり、カタログでは分かりにくいが、実物はかなりでかい。
当時、デザイン的には攻めたF91、気になるデッキとして石丸電気で何度か(ヘッドホンでの比較)試聴した。
動作、操作感は素晴らしいし、メーターも3種切り替えは独特で面白いのだが、音が飛び抜けて良いか? というとそうでもなかった。デザインが好きなF91に、気持ち的にはかなりの下駄を履かせて試聴したつもりだが、低域は出ても、高域に抜けが感じられなく、モヤっと感じてしまう音なのだ。同じテープを他のデッキの試聴後に、F91に切り替えて試聴すると、どうしても高域が負けているように感じた。
設置していた個体のアジマスがズレていたのか、F91のヘッドフォンアンプが弱かったのか、LINEで再生すれば良い音が出るのか、評価が自分の中で分かれてしまったのがF91である。
F91はSONYの777系とほぼ同価格。デッキの中では最高価格帯(ナカミチを除く)なだけあって、おいそれと買えるものではない。この価格帯のデッキをどれか1台選べと言われたら、(ヘッドホン比較で)試聴した感覚では、F91を選択することはない、と思った。
下位のF71も聴いてみたが、AKAIのフェライト系ヘッド(スーパーGX)って、そんなに音がいいのだろうか? 全体的にAKAIのデッキはF91の印象のせいで、距離を置いてしまった。
ただし、実際に所有していたわけでもなく、スピーカーからの音を聴いたこともないので、ここは所有していた人の正しいAKAI評価を聞いてみたいところではある。
YAMAHAのカセットデッキ K-1aとK-1d
YAMAHAは楽器メーカーでもあり、オーディオ機器もどこかアーティスティックである。このカタログも非常に出来が良く、デザイン好きにはこれだけでご飯を3杯は食べられる(笑)。デッキも洗練されているが、カタログもである。
YAMAHAは、基本的にデザインが独特で、他社とは一線を画すところがあった。デッキの価格帯も、他社のラインナップとは異なるように思えた。

このカタログのデザインセンスにしびれた。

YAMAHAはカタログの印象が強過ぎたが、実際にK-1aのデザインは非常に「Cool」(という表現がぴったりだと思う)で、透き通った美しさがある。価格が2ヘッドで、9万円代。3ヘッドが8万以下で買える時代に、YAMAHAは敢えて2ヘッドにこだわった。
実際のK-1aの音だが、秋葉原での試聴した評価としては、全域でのバランスが良く、それ故に高域の押し出しがもう少しあればと思った。
K-1シリーズには他のデッキにはない「FOCUS」(位相を調整する機能で、SHARPとSOFTを選べる)スイッチと、2ヘッドなのに「Monitor」スイッチがあったのが珍しかった(録再同時モニターはできない)。
基本、フラットでバランスが良く、良いアンプと良いスピーカーならいい音に鳴らせるタイプで、どちらかというクラシック向きなデッキで、ヘッドホンでは良さが分かりにくい印象。
ヘッドはYAMAHA独自の「Pure Sendust」と名付け差別化していた。カタログ上の周波数特性が、2ヘッドでもメタルだと22KHz(−20VUですが)まで伸びている高域特性が目を引いた(22Kと表記するデッキが少なかった)。
後継のK-1dは、K-1aよりも高域が伸びて厚みがある。おそらく、センダストをラミネートした(多層化するほど、高域帯域でのロスが減る)K-1d専用の新ピュアセンダストヘッドに変えた効果かもしれない。
センダストは多層化が難しい合金だが、K-1dで5枚に多層化をしたヘッドになり、dbxも搭載され、アンプもピュアカレントサーボ技術が採用された。YAMAHAの音色が好きな人ならK-1aよりもK-1dをお勧めしたい。
ただし、98,000円という価格が微妙で、798価格で「3ヘッド」「ダブルキャプスタン」(Lo-d,SONY)がある中、「2ヘッド」「シングルキャプスタン」であるK-1シリーズは、選ばれそうで選ばれないデッキなのかもしれない。
ここはYAMAHAの音が好きで、アンプもスピーカー(個人的にはNS-690IIIが非常にいい)もYAMAHAなら、K-1がベストチョイスなのかも。
センダストの多層化に関しては、この頃にパイオニアが「リボンセンダスト」という12枚多層化した新ヘッドを開発。磁気特性が極めて優れたリボンセンダストの3ヘッドを搭載したCT-970が登場した。
パイオニア CT-970
デッキはヘッドが磁気特性が命。磁気飽和力は強いが高域特性はフェライトに劣るセンダスト。S&Fヘッド(SONY)やヒタセンライト(Lo-d)は、両方の良いとこ取りをしたヘッドだが、センダストをラミネート化してその弱点をなくしたのが「リボンセンダストヘッド」(大雑把にいえば)といえる。東北大学との共同開発のヘッドである。

非常に優れたヘッドなのだが、採用されたデッキは意外に少ない。CT-770、CT-970、CT-A1(後期)、CT-A7,CT-A9(前期)程度で、すぐにアモルファス系にしてしまう。個人的にはリボンセンダスト搭載のデッキが良いと思う。

970の弱点は10万超えのデッキにしては樹脂性部品が多く高級感がないこと、アンプ系に特徴がなく、内部が777のように整然としていない。
970の内部は配線がかなり飛び回っている。TC-K777系や、パイオニアDATのD-1000(他ページ参照)のように、基盤から綺麗に左右対称に配置され、信号経路の流れに配慮されていない。
おそらく770とケースを共用し、970の機能を詰め込ませたために、中身が配線だらけなってしまったのかもしれない。もちろんCT-970、個人的に高評価なデッキの一つであることに変わらない。
その他、Lo-dデッキと、情報サイト
かつて所有していたD-90sの後継で「ヒタセンライトヘッド」「ユニトルクモーター」を搭載したD-9とD-2200MB。この2台は日立Lo-dのこれまでの技術をほぼ取り入れてい最終系といえる、自分でも所有したかった高評価デッキだ。2200MBのワウ・フラッター0.018%はカセットデッキでも最高値ではないだろうか。
デッキについては、以下に詳しくまとめられているサイトがあるので、一度、訪れてみられるとよい。
「ろでぃすとの家」:Lo-dデッキ情報ならここ。D-90sに前期・中期、後期があったこともわかる。ヒタセンライトのD-9の掲載している。歴代の貴重なLo-dが紹介され、その実機数には圧倒される。
「昭和カセットデッキ研究所」:昭和からのあらゆるメーカーのデッキを幅広く修理・メンテナンスされている。初代K777の徹底したメンテナンス・ページは必読。非常に珍しいONKYOデッキ TA-9Xのメンテ情報もある。