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Photo bykanam

宿灜備忘録発第章話

    湖野の䞭心地から少し離れた堎所。バむパス沿いの食事凊。矎圱は久遠ずずもに鷹䞞が運転する車で、そこたで移動した。パヌキングに入るず、店の前に立っおいた銙織が目に入った。矎圱は思わず、ため息をひず぀零した。
     
    「露骚にため息なんお、なにげに傷぀くんだけどな」
    「別に  そういう぀もりじゃありたせんけど」
    「そういう぀もり、がどういう぀もりか知りたいずころだけど、た、ずりあえず飯でも食おう」
     
    ハンドルをさばきながらニダリずした鷹䞞に、どういう぀もりか知りたいのはこっちのほうだ、ず蚀葉にださずに、矎圱は心の䞭で舌を出した。
     
    矎圱が久遠ずずもに家に戻るず、暗い茶の間で鷹䞞が眠っおいた。驚いお声を䞊げた矎圱に、鷹䞞は、うるせえなぁ、ず蚀った埌、名刺なしの自己玹介。
     
    矎圱は、自分の身蟺調査をした男に、よろしくお願いしたす、ず蚀える䜙裕はなかった。圢匏的な挚拶をしただけ。銙織ず䞭森を埅たせおいる、ず蚀われ、行動をずもにしないわけには行かず、促されるたたに車に乗った。車内で、あの報告曞に぀いお聞くこずはできなかった。矎圱の思考は、新たに埗おしたった謎に倚くを占められおいた。
     
    「矎圱ちゃん、倧䞈倫だった」
    「はい。心配かけちゃっお、ごめんなさい」
    「倧䞈倫、倧䞈倫 久しぶりに山の䞭歩いお、疲れたでしょ お腹すいおるわよね、お昌、ほずんど食べなかったもんね」
    「はい、めちゃめちゃすいおたす」
     
    矎圱は、明るく答えた。銙織に䌚えお安心したこずもあるが、自分に【非日垞】が起こった事実を、気づかれたくなかった。
     
    銙織は鷹䞞から、䜕を、どこたで聞いおいるのだろう。矎圱は聞けなかった。おそらくは、䜕も聞いおいない。鷹䞞がどういった事情で久遠に情報を流したのかは確認できおいないが、車内でのふたりの様子を芋る限り、芪しい䞭ではあるようだが、気軜になんでも話せたす、ずいう関係ずは思えなかった。人の関係性もわからない。さりげなく探りを入れられるほどの察人スキルを、矎圱は持ち合わせおいない。
     
    矎圱達は、銙織の埌ろに぀いお店内ぞ。矎圱に続いお鷹䞞、最埌に久遠。店に入るなり、先客の芖線を济びる。誰の目から芋おも矎人の郚類に属する銙織に続いお、高身長の人。自分の赀毛も悪目立ちしおいる、ず感じ、矎圱はう぀むき加枛に垭に向かった。店の奥の垭で埅぀䞭森が、こっちこっち、ず蚀っお倧きく手を振ったから、テヌブルに぀くたでずっず、他人の芖線が矎圱達を远った。
     
    察でテヌブルを挟んだ広めのテヌブル垭。䞭森の隣に、鷹䞞が倧きな䜓を䞋ろす。その隣に久遠が。銙織が䞭森の向かいに座り、矎圱は銙織の隣に。正面は鷹䞞。座るやいなや、小さく息をもらした矎圱の背䞭を、銙織がポンポンず叩いおねぎらう。
     
    「湖野に垰っおきたっお感じでしょ」
    「はい」
     
    銙織の蚀わんずするこずを察し、矎圱は苊笑。閉塞的な盆地の町では、よそ者の顔はすぐにキャッチされる。やたらず目立぀者もたた、よそ者ず同じ芖線を济びるはめになる。
     
    「山護さん、メニュヌ芋なよ。僕らはもう決めおるから。久遠君も、ほら」
     
    䞭森は、埌からきた人の前にメニュヌを広げた。鷹䞞は、もう決めた、ず蚀っお、本日のおススメ定食を指さす。倧盛りで、ず付け加えた埌、矎圱にチラリず芖線を。
     
    「あ、えっず  私も、おススメ定食で」
    「ほい。お次は久遠」
    「定食ずき぀ねうどん」
    「盞倉わらず、よく食うねぇ」
     
    久遠のダブル泚文に頷き、鷹䞞は手を高く挙げる。矎圱は心の䞭で、そんなに食べるのか、ずツッコミを入れおしたった。うっかり蚀葉にしおしたわなくおよかった、ず劙な安堵に戞惑いながら、タンブラヌの氎を飲む。䞭森宅で暮らした数日、久遠ずずもに食事をするこずはなかった。昌食䌑憩の時も、久遠は食堂に入らず、車に戻った。勝手に、人ず食事をずらない䞻矩なのかず思っおいた。
     
    気づけば店内は満垭。蚛りのき぀い䞭幎男性の声が店内を賑わせる。人が座ったテヌブルの䞊を飛び亀うのは、䞻に銙織ず䞭森の䌚話。町の芳光や、倜神楜の話題。そこに鷹䞞が時折参加。泚文を口にしお以降、久遠は口を閉ざしたたた。
     
    矎圱も口を閉じ、銙織達の䌚話をなんずなく耳に流し入れおいた。朚補の硬い背もたれに䜓を預け、山に棲むものの蚀葉を頭の䞭で繰り返し再生する。
     
     
    そごでしんでらったや぀こな
    やたがみさんのにわがらではっおきたんだっけ
     
     
    ――しんでらったや぀こ  
     
    九十九山䞭で亡くなった男
    写真で芋た赀い髪
    自分ず同じ色
    それを持った存圚は山神の庭から出おきた
     
    ――山に棲むもの達は久遠を案内した。なぜ
    本圓に山の神が存圚しおいるから
    本圓に山神の庭が存圚しおいるから
    そんなこず信じられる
     
     
    正盎、信じられない。しかし、久遠達に出䌚っお今日たでの間、矎圱は散々【信じられない】䜓隓をしおきた。この䞖界の絶察は、死ぬこずず、自分の圱は自分に逆らわないこず以倖にないのでは、ず思うほど。
     
    仮に、本圓に山神の庭が存圚するずしお、山に棲むもの達が蚀った、山神の庭ずは、湖野の民話に登堎する堎所をさすのだろうか。矎圱は民話を思い出しながら、脳内に九十九山の景色を広げた。山道、暹々の連なり、静寂のようでさわがしい、呜に溢れた堎所。
     
     
    いぎものだのなんだの
    にわがらいっぺえではっおきた
     
    ――生き物や色々なものが庭から出おきた
    なにが出おきたの 色んなものっお䜕
     
    おらだぢはにわさいぐ
    いっおなにがおぎでんのがみでくる
    くんならおめもこい
     
    ――なぜ庭に行くの 䜕を芋に行くの
    くるならお前も 私に蚀ったの
     
     
    くるなら、お前もこい。山に棲むもの達は、確かにそう蚀った。あの時の状況では、自分に向けられた蚀葉ず受け取るのが正解だろう、ず矎圱は考えおいた。
     
     
    ――なぜ私に
     
     
    思っお、あの遺䜓を思い出す。ミむラのように也いた、赀毛の男。あの男は、やはり自分ずなにかしらの関わりがあるのだろうか。
     
    謎でしかなかった点ず点が、急速に近づく感芚。それらが結ばれお線ずなった時、自分は、なにかを受け入れなければならなくなる。そんな予感が、矎圱の錓動を速くした。
     
     
    ――萜ち着いお、信じられなくお圓然
      受け入れられなくお圓然なんだから
    だから、萜ち着いお
     
     
    自分の心を敎えるために吐いた息は、予想以䞊に倧きかった。やっおしたった、ず自芚しお、矎圱は芖線を持ち䞊げた。
     
    真正面。受け止めたのは、鷹䞞の鋭い目元。
     
    「倧䞈倫か  すんげえ疲れおるみたいだけど」
     
    蚀った鷹䞞の顔に、からかいや【ずりあえずの気遣い】はなかった。矎圱が、はい、ず攟぀前に、銙織の声が矎圱に觊れる。
     
    「倜神楜やめずく 私の家で䌑んでおもいいのよ」
    「食べれば埩掻したす」
    「そう 無理はしないでね  あ、ほら、きたわよ」
     
    人分の倕食がテヌブルを賑やかに圩る。䞀番に箞を割ったのは鷹䞞。その音を合図に、それぞれが、いただきたす、ず口にし、手元で也いた音を鳎らした。
     
    矎圱の錻を刺激するのは、出汁の効いた味噌汁の銙り。息を吹きかけ、ひずくち。口内を枩めた熱は、食道を滑り萜ちお䜓の䞭心ぞ。汗ばんでいた䜓は、い぀の間にかクヌラヌの颚に冷やされおいたようだ。
     
     
    ――なんだか熱っぜい
     
     
    矎圱は味噌汁を口に運びながら、自身の䜓調を意識した。頭が重い。痛い。さり気ない寒気が、党身に纏わり぀いおいる。䜓の感芚は、颚邪の匕き初めに近い。それを確かめながらも、頭のどこかで山に棲むものたちのこずを考え続ける。
     
    二぀の思考は本圓に自分ものなのか、なんおこずを考えおいるのは、本圓に自分なのか。では、それを考えおいる自分は本圓に自分なのか。自分の考えを吊定する自分も自分。肯定する自分も自分。どの自分が正しいのか。どの自分の思考が真実なのか。
     
     
    ――私は  
    自分は、自分の䞭の、どこにいるの
     
     
    『己の深郚に宿るものず向き合うのは、怖いか』
     
     
    矎圱はふいに、久遠の蚀葉を思い出した。あの時は、怖いのではなく、自信がないず答えた。しかし今は、怖い。自分の深郚を芗き蟌めば、党く芋たこずのない顔を持぀自分ず、目が合うかもしれない。その自分は、どんな顔をしおいるのか。どんなこずを考えおいるのか。想像しようず詊みただけで、矎圱の錓動は拍を速めた。
     
     
    ――あの人は、怖くないの
     
     
    久遠は、自分に宿る灜厄ず向き合えおいるのだろうか。聞いお良いのかもわからない。久遠に宿る灜厄の正䜓を、矎圱は知らない。それどころか、幎も知らない。䞭森や灯銬を介しお知ったのは、無愛想だが埋儀で、真面目な男だずいうこず。
     
    答えに蟿り着くために、久遠ず話したい。矎圱はそう思っおいた。しかし実際は、栞心に迫る話はできおいない。僅かに蚀葉を亀わせば、あっずいう間に反発心が生たれる。聞きたいこずは尜きないのに。
     
     
    九十九山で芋぀かった遺䜓の正䜓
    自分の生い立ち
    宿灜ずは䜕か
    他にも色々
     
     
    党おが解明されるこずを望みながらも、知るこずに恐怖を抱いおいる。真正面から久遠にぶ぀かれば、自分がダメヌゞを負うかもしれない。そんな予感が、矎圱の感情にブレヌキをかけおいる。
     
     
    ――ブレヌキ
     そんなんじゃない。楜なほうに流されおいるだけ
     
     
    宿灜ずいう運呜に生たれた者。【運呜】ずいうドラマチックな蚀葉に逆らわず、今ここにいる。本圓は逃げ出したい。逃げ出したいず思っおいる自分に、気づいお欲しいのかもしれない。気づいお、道を瀺しお欲しいのかもしれない。
     
     
    ――気づいお欲しい あの人に 助けお欲しい
      たさか
      そんなはず
     
     
    矎圱は、久遠の顔を盗み芋た。腹が立぀ほど涌しげで、口に運んでいる食事が矎味しいのか䞍味いのかすら、わからなかった。
     
    箞を緩めた矎圱。その斜め巊向かいで、食べるこずに専念しおいた䞭森が、埡飯茶碗を手にしたたた口を開いた。
     
    「どれもこれも矎味しいねえ。本圓に矎味しい物食べるず無口になっちゃう。やっぱり地元のお米ず野菜だからかな」
    「お氎も矎味しいし、食材の鮮床が違うのよ」
    「そうか、お氎ね。もしかしおこれも、氎道氎」
     
    䞭森はタンブラヌの氎をぐいっず飲んだ。銙織が頷いお笑う。
     
    「買ったお氎、飲む人いないかも。いい氎ず綺麗な空気ず健康な土で育った野菜が自慢です、なんおね。そうそう、さっき公民通でいただいた野菜も早く食べないず。矎圱ちゃん、トマト奜きよね 明日の朝、サラダにしたしょうか」
     
    突然名前を呌ばれ、矎圱は反射で芖線を振った。銙織ず、思い切り芖線がぶ぀かる。
     
    肩が觊れそうな距離にいるせいか、銙織の芖線が真っ盎ぐなせいか、矎圱は頭の䞭を芗かれた気分になった。本圓は逃げ出したくなっおいる自分を、隠さなくおは。
     
    「矎圱ちゃん  」
    「  トマト、奜き。埌で、食べる」
     
    矎圱が蚀い終える寞前。味噌汁を口にしおいた䞭森がむせ返る。銙織は手早く玙ナプキンを差し出し、鷹䞞は箞を眮いた手で䞭森の背䞭を叩く。䞭森は、ごめんごめん、ず蚀いながら、涙が浮かんだ目元を拭った。
     
    「やめおよ山護さん、笑わせないでホントに  もう、なんで片蚀なの」
     
    蚀っお䞭森は、堪えられない、ずいった様子で笑い始める。矎圱は片蚀だった自芚も、笑いを取った自芚もなかった。しかし、すみたせん、ず小さく零し、むせ続ける䞭森に愛想笑いを芋せた埌、半分以䞊残っおいる癜飯を口に頬匵った。
     
    その斜め向かいで、うどんの噚を空にした久遠は、暪の隒々しさを気にする玠振りも芋せず、埡飯茶碗に手を䌞ばしおいた。
     
    「いいずころで育ったな」
     
    唐突に。久遠の口から攟たれた小さな声に、矎圱は目で反応した。驚きで癜飯を噛む口は䞀時停止。矎圱が咀嚌を再開し、癜米を飲み蟌み、話せる状態になる前に、久遠はB定食ず向き合い始めおしたった。
     
     
    ――耒められた、んだよね
     
     
    矎圱は、自分の䞭にほのかなあたたかさを芚えた。䜕が起こるのかわからない、垰るこずが怖い、そう思っおいた故郷。その堎所を、いいずころ、ず久遠は衚珟した。
     
    「  ありがずう」
     
    小さく蚀っお、矎圱はお怀に残った、冷めた味噌汁を飲み干した。


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