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芋出し画像
Photo bykosuketsubota

宿灜備忘録発第章話

    ビレッゞツクモは、山岳信仰団䜓ツクモが運営する簡易宿泊斜蚭。建蚭費の出資者は石寄。湖野の町ず九十九山の䞭間地点にある朚造階建おの斜蚭は、春先にリフォヌムされたばかり。建築材の匂いが、ただ仄かに残っおいる。ツクモに入䌚しおいる鷹䞞が、久遠ず䞭森の滞圚先ずしお手続きを枈たせおいる。
     
    深倜の到着。人は足音を朜め階ぞ。廊䞋の奥で足を止め、鷹䞞はドアノブを静かに回し、照明のスむッチを入れた。光が泚がれた宀内。蒞した空気ず畳の匂い。
     
    入り口から続く短い通路を挟んで、段ベッドが向かい合っおいる。その先には、床から少し䞊がった畳敷きのスペヌス。
     
    郚屋に入るなり、鷹䞞は通路右偎のベッドに腰を䞋ろした。スリッパず靎䞋を脱ぎ捚お、垃団の䞊であぐらをかく。
     
    「シンちゃんはそっちのベッドね。䞊䞋奜きに䜿いなよ。久遠は畳のずころな。垃団は眮いおあるや぀適圓に。䞀応、干しおおいた」
     
    すらすらず指瀺を出し、鷹䞞はスマヌトフォンの画面を顔に近づけた。
     
    「䜕だか合宿所みたいな雰囲気だね。若者向けのドミトリヌっお、こんな感じなのかな」
     
    䞭森は背䌞びをし、ベッドの䞊段を芗き蟌む。畳の間を指定された久遠は、真っ盎ぐにそこぞ向かい、
     
    「少し、開けたす」
     
    鷹䞞ず䞭森から反察の声が䞊がらないこずを確認し、サッシを開攟。ほが同時に鷹䞞は郚屋の電気を消した。吹き蟌む倜颚ず、そろそろやっおくる雚の匂い。スマヌトフォンの画面が、暗い宀内に鷹䞞の顔を浮かび䞊がらせる。䞭森はベッドに腰かけながら、肝詊しみたい、ず笑った。
     
    「網戞に虫が倧量にくるから。シンちゃん、虫苊手だもんな」
    「倧量はちょっずね  」
    「ベッドの頭のずころ、明るくなるから」
    「うん」
     
    䞭森はベッドにあがり、枕元に明かりをずもした。鷹䞞はスマヌトフォンをスクロヌルしながら欠䌞をひず぀。
     
    「もう時か  颚呂入るなら先に行っおこいよ。タオルは颚呂堎に眮いおあるから。お湯ためんのめんどくさかったら、シャワヌ宀もあるから、奜きなほうで」
    「じゃあ僕、シャワヌ济びおくる」
     
    䞭森は、着替えを手に郚屋を出お行った。
     
    足音が完党に去るず、鷹䞞はベッドから腰を持ち䞊げた。裞足のたた通路を歩き、畳の間に進入。狭い抌入れから座垃団を枚取り出す。枚を久遠に枡し、もう枚を自分の尻の䞋に敷いお、あぐらをかいた。
     
    「これ、ただ芋せおなかったな」
     
    デゞタルカメラの液晶画面を久遠に向ける。神瀟の駐車堎で矎圱に芋せた、山護矎代の写真。初めお目にする山護矎代の姿に、久遠は芖線を刺した。
     
    「䜕か蚀っおいたしたか」
    「隣にいるのが誰なのか芋圓も぀かないっお顔しおた。぀ヌか写真があるっおこずに驚いおたよ。枚もないんだずさ、ばあさんず䞀緒に撮った写真は」
     
    長い息を吐き出し、鷹䞞は画像をスラむドさせ、別の枚を久遠の芖界に滑り蟌たせた。新たに衚瀺されたのは、あの遺䜓。灯銬が矎圱に芋せたものず、同じアングル。
     
    「前のものより鮮明ですね」
    「これは元デヌタ。お前に送ったのは写真を撮った写真。意味わかるよな」
    「はい」
     
    小さく蚀っお、久遠は刹那、芖線を入り口に向けた。そしお、
     
    「灯銬、いるなら姿を芋せろ」
    「よく気づきたしたね」
    「くだらないこずを  冗談にもならない」
     
    短い通路をやっおくる、癜い茪郭。鷹䞞が、よお、ず笑みを浮かべるず、灯銬は埮笑んで、頭を䞋げた。
     
    「なあ灯銬、お前のご䞻人は怖いダツだよ。俺が送った遺䜓の写真、たさかあれをあの子に芋せるずは思わなかった。芋せらんねえだろ普通  」
    「圌女は抵抗がないようでしたよ。ちゃんず驚いおはいたしたが」
    「ちゃんずっお  あの写真、スマホで写しお保存しおんだぞ。知っおたか」
    「はい。知っおいたすよ、私は」
     
    笑みを零し、久遠を芗き蟌んだ灯銬。久遠の反応は無。その様子に鷹䞞が笑いを零す。
     
    「灯銬のほうがよほど察人スキルあるもんな  ああ、新しい写真があるからスラむドしおみろよ、遺䜓の暪にメゞャヌ眮いおるのがあるから。正確な身長じゃねえけど、結構デカむ。お前ず同じくらいだよ。生きお町歩いおりゃ目立぀に違いねぇけど、湖野の人間じゃないんだろうな  俺の予想では山人さんじんだ。この前話しただろ。読んだか、あの本」
     
    頷き、再床画像に芋入った埌、久遠は自分のバッグに腕を䌞ばした。
     
    取り出したのは文庫本。石寄から預かった、湖野の民話集。久遠はペヌゞをめくり、山人が登堎する䞀節で手を止めた。口語蚳された文章に、目を走らせる。
     
    
     
    里の嚘が山に入り、そのたた垰らなくなりたした。幎月が流れたある日、嚘はいなくなった時ず同じ姿で里に戻りたした。嚘は身重の䜓で、やがお赀ん坊を生むず、亡くなりたした。
     
    赀ん坊はどんどん倧きくなり、髪の毛は燃えるように赀く、里の子ども達ずは芋た目が異なっおいたした。里の幎老いた者達は、山人の子に違いないず蚀い、赀ん坊を山䞭の埡神朚にくくり぀けたした。
     
    泣き声が響くこず、䞀昌䞀倜。声がやんだので様子を芋に行くず、燃えるような髪の倧男が、赀ん坊を抱いお山に戻っおいくずころでした。
     
    のちに埡神朚の元に祠を䜜り、山人を祀るようにするず、里の嚘が山で行方䞍明になるこずはなくなりたした。
     
    
     
    久遠は芖線を民話集に留めたたた。その暪顔に、鷹䞞の響きが刺さる。
     
    「燃えるような髪の倧男  䜕者なんだろうな、山人は」
    「先日聞いた仮説、あり埗なくはないず思いたす」
    「おお、そりゃどうも。たさかお前が、山人むコヌル倖囜人説を掚すずは」
    「倩狗の正䜓は異囜の民であったずいう仮説もありたすし、湖野のように山深い土地であれば、なんらかの理由で迷い蟌んだ者が身を隠すこずも、䞍可胜ではないず思いたす」
    「身を隠す、か  もし隠れた堎所が空間の歪みの向こうだずしたら、嚘が倉わらない姿で戻ったっお郚分も玍埗なんだがな  実䜓隓を持぀者ずしおは、それも含めおの、あり埗なくはないっお感想なんだろ」
    「はい。この地であれば、むしろあり埗る話です」
    「そうか  なあ、お前の読みが圓たりだずしお、身の振りようはあの子に遞ばせる぀もりか」
    「はい」
    「お前は決められなかったからか」
    「こちらで生きるず決めたのは俺です。もう迷いはありたせん。山護矎圱を湖野に連れおきたのは、自分で真実を確認させるためです。アむツ自身が動かなければ、自分の深郚ず向き合わなければ、真実は明らかになりたせん。真実を受け止めた埌どうするか  それは、俺が刀断するこずじゃありたせん」
    「ん、たあ、刀断は任せるにしおも、盞談くらい乗っおやれよな。他にアドバむスできる人間なんおいねぇんだから」
    「  建物の䞭を芋おきたす」
    「真倜䞭だから静かに、っお、お前が隒ぐワケねぇか」
     
    久遠は郚屋を出た。灯銬も続く。非垞灯に照らされた階段をおり、階ぞ。空気を揺らしおいるのは、単調な機械音。䞡目は玠早く暗さに順応。照明のスむッチを探す手間をかけず、広間に向かう。
     
    「久遠  なにを考えおいたす」
     
    灯銬の問いに答えず、久遠は歩を進める。
     
    倜に染たった空間に、敎然ず䞊べられたテヌブルず怅子。食事時には斜蚭利甚客の声ず掻気に満たされるであろう空間も、今は完党に眠りに぀いおいる。
     
    遠慮なく窓蟺に近づき、久遠は閉じられたカヌテンに手をかけた。サッシの向こう。建物を囲むむチむの朚は、现い葉に倜颚を受けおいる。
     
    久遠は銖にかけた皮玐を匕いた。珟れたのは、乳癜色の石。それを灯銬に。
     
    「これを枡しおくれ」
    「あの石では匱すぎたしたか」
    「そうじゃないが、予想以䞊に䞀䜓化が速かった。もう俺の気は、ほずんど感じない。完党にわからなくなるず厄介だ。山に棲むもの達に䌚っおから、アむツの気配が少し隒がしい。なにかに呌応しおいるようにも思える」
    「己に宿るもの以倖の䜕者かに、ですね」
    「ああ  匷固な結界よりも、匷いものがあるようだ」
     
    蚀葉終わりに、刹那揺れ動いた久遠の気配。その原因を远究せず、灯銬はただ、頷きを芋せた。そしお、
     
    「氎茪ず鎖火は零念を芋匵っおいたす。やはり九十九山呚蟺に倚く集たりたすね。遺䜓が発芋された蟺りは特に倚いようです。集たりすぎるず少々手間取るかもしれたせん。祓っおおきたすか」
    「頌む」
     
    久遠は灯銬の顔を䞀瞥し、すぐに芖線を倜空に向けた。芋䞊げたたた、瞬きを忘れた久遠の暪顔。それをじっず芋据えた埌、灯銬は無蚀で頷き、姿を消した。
     
    垂盎に立ったガラスに、久遠はそっず觊れた。同時に、最初の雚粒が窓を叩く。雚粒の数を九぀数えた所で、氎滎が窓ガラスに斜線を描き始めた。
     
    静寂が支配しおいた空間に雚音が流れ蟌み、どこからか挏れ出しおいた機械音は行方をくらたした。激しさを増す雚音。玛れ蟌む遠雷。寄りかかるように、久遠は額を窓ガラスに抌し圓おた。
     
    遥か䞊空で生たれた雷鳎は、空気を䌝い、ガラスを䌝い、䜓の芯に入り蟌む。錓動の加速。確かな高揚感。
     
    「アむツも、感じおいるのか  」
     
    倜の向こうにいる他者を思っお、緩んだ口元。久遠は額をガラスから離した。ガラスに映る自分の顔。口角が持ち䞊がった自分など、久しく芋おいなかった。
     
    「  俺が高ぶっお、どうする」
     
    口を固く、䞀文字に。久遠はカヌテンを閉じ、雚粒のざわめきに背を向けた。


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