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Photo bykotori_photo

エッセイ的なもの|オイカワ

    僕は箱庭のような町で育った。
    当時、僕は自分の住むこの町が箱庭だと感じていなかった。
    どこまでも広大なススキが生える草原が広がっていると思っていた。
    あるときは川沿いをどこまでも下り、広いトンネルのような暗渠を探検した。
    またあるときは、立ち入り禁止の施設に忍び込んで、糞だらけのハトの巣を見たりした。
    その時期に僕は、坂の上の草がまばらにしか生えていなくて重機の轍であちこちが凸凹した広場で遊んでいた。
    そこには友だちが何人か居て、その中でも特に仲良くしていたオイカワがなぜか僕の言葉に反応して怒っていた。
    それで、彼は石を投げて来て、そのうちの一つが僕の額に当たった。
    僕は本当に目の前に星が出る、みたいになって頭を押さえながら、オイカワに対して思いつく限りの悪態をつきながら、家に帰った。
    家に帰ると、母が心配そうに「どうしたの?」と聞いてきたが、僕は石をぶつけられた事を言うのはプライドが許さず、「いや、別に」みたいな事を言った。
    そして、まだ夕方五時頃だったけれど、汚れたなどと言い訳して、お風呂に入った。
    身体を洗っていると、やはり額に触れるときは痛みが走った。たんこぶのようになっているみたいだった。だから慎重に洗い流した。
    湯船に入って、今日起こった出来事を考えた。僕は何を言ったか思い出せなかった。
    オイカワは温厚な奴で、普段怒ったりすることはほとんどなかった。そんなオイカワを傷つけた僕のセリフを、僕は思い出せなかった。
    気持ちが昂って、涙が溢れた。
    お湯で顔を何度も洗い流したが、次第に嗚咽まで出てきて風呂の中に響いた。
    しばらくして、嗚咽はおさまったが、結局何も思い出せなくて、気分は変わらなかった。

    今なら言語化できるが、僕は知らずに人を傷つけるところがある。そんな自分が腹立たしくて泣いたのだ。オイカワに心を寄せて涙が出たわけではないことに対しても、腹が立ったのだろう。
    僕は今でも薄情で自己中心的だ。
    そんな自分の魂が許せなかったのだ。
     
    僕がお風呂から上がると、脱衣所に母がいた。
    僕の嗚咽を聞いていたのだと思った。
    母は真っ直ぐな人で、なおかつ僕に対する愛情が深かった。
    「オイカワに石ぶつけられた」
    と僕は言った。
    それは甘えだった。
    母はそれを聞いて、オイカワのウチに電話するとか何とか騒ぎ出したので、僕はわざとじゃないから、とか言ってその場をおさめた。
    記憶が曖昧だけれど、それは確か小学四年のことで、その後くらいに僕は町内会の少年野球チームに入ることになった。
    それは友だちの誘いだったけれど、入ってみるとそこまで親しい奴はいなくて、独りでお昼のおにぎりを食べていた気がする。とにかく、野球のときは常に疎外感があって、居心地が悪かった。
    オイカワは隣の町内会で同じように野球をやっていて、キャッチャーをしていた。僕はオイカワと同じチームならば楽しかったのに、と六年の引退までずっと思っていた。
     

    2026/07/28

     
     
    日常で 感じたやつを 書いてます 【受賞歴】 「なんのはなしです課」通信 萌芽な五十九通目一番守 「なんのはなしです課」通信 松平な五十七通目裏二番守 創作大賞2026再生補修部門大賞(ゆりゆりこさん) 「岩男を笑わせろ杯」入賞 「なんのはなしです課」通信 珈琲の四十六通目一番守

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