
第4章・前編|参加から共創へ〜あなたの暮らしの中にまちづくりの入り口がある〜
「このあたりに、少し座れる場所があったらいいな」
「この道、子どもと歩くとちょっと怖いんですよね」
「あのお店には、これからも続いてほしい」
まちで暮らしていると、そんなことを感じる場面はないでしょうか。
誰かに伝えるほどのことでもないと思って、そのままにしていることもあるかもしれません。
でも私は、そうした日々の気づきや思いを、もう少し聞き合えるといいなと思っています。
というのも、小さな気づきや自分だけの思いの中に、人の暮らしや営み、そして何を大切にしているのかが表れている気がするからです。
豊中駅前のまちづくりに関わる中で、私自身、いろいろな考えに触れてきました。同じ場所について話しているのに、見えているものや、気になっていることが違う。その違いから教えてもらうことが、たくさんあります。
今回は「市民参加」や「共創」という言葉を、そんな日々の暮らしに引き寄せながら、一緒に考えてみたいと思います。
あなたが日々感じていることを聞かせてほしい

あなたが住むまちで、「こんな風になってほしい」「こんなところが困っている」というような声を上げたことってありますか?
「そもそも私なんかが声を上げていいの?」という戸惑い
まちづくりについて意見を求められると、「私、全然詳しくないので」「皆さんの前でちゃんとした提案ができないので」と、少し遠慮してしまうことってないですか?
道路や建物、交通、行政の予算のことや都市計画・構想やビジョンのこと。
こんなふうに考えると、確かに、専門的な知識が必要になる場面はあります。
あなたにしか伝えられない「あなたの声」
一方で、「まち」や「場所」を日々使っているからこそ、知っていることもあるはずなんです。
朝の通勤時間だけ、人と自転車が重なり移動が不安な場所。
雨の日に歩きにくくなる道。
買い物の途中で、ちょっと休みたくなるところ。
さらに、商店街などでお店を営む人なら、荷物を運び入れる時間帯の事情を知っているでしょうし、子どもと歩く人なら、大人だけでは気づきにくい危なさを感じているかもしれません。
まちづくりに本気で取り組む方はあなたの声を待っている
あなたが体験したことや、そこで生じた思い。
それこそが、まちを考えるための大切な知識・情報だと思うのです。
「いつ、どこで、こんなことがあった」
まずは、それを聞かせてもらえたら、きっとまちづくりに取り組む方は、うれしいはず!
解決策まで用意していなくても、その経験を知ることで、初めて見えてくる課題や可能性があるはずですからね。
意見の奥にあるその人の暮らし
例えば、駅前の歩行者空間を広げる話をするとします。
安心して歩ける場所が増えるとうれしい人がいる。一方で、車での送迎や、お店への搬入がどうなるのか心配な人もいるでしょう。
多様なご意見・複雑に絡み合う情報をどのように未来に繋ぐか?
例えばこのように、「歩きやすくしてほしい」という思いと、「車で近くまで行けるようにしてほしい」という思い。
その言葉だけを見ると、対立しているように感じるかもしれません。
でも、もう少し話を聞くと、「子どもと安心して歩きたい」「足の悪い家族を送迎したい」「お店を続けるために搬入場所が必要だ」という、それぞれの暮らしが見えてきます。
そうすると、考えたいことも具体的になりますし、アイデアを考えられる余地が出てくるはずです。
時間帯によって使い方を変えられないか。送迎できる場所を確保できないか。別の動線をつくれないか。
声を受け止めることで紡ぎ上げられる未来のまち
もちろん、すべての希望が両立するとは限りません。それでも、一人一人の声を丁寧に受け止めること。そして、お互いの事情を知ることで、考えられる選択肢は変わってくると思います。
私自身も、誰かの意見を聞いて、すぐに「それは難しい」と考えてしまうことがあるかもしれません。考える時間や手元に残された資源に猶予がないと、そのまま決断してしまうこともあるかもしれませんよね。
だからこそ、時間や気持ちに余裕を持ち、コミュニケーションを図ることが大事だと思うんです。
そして、意見を受け止め、自分の考えと違う意見だとしても、「なぜ、そのことを大切にしているんだろう」と、少し立ち止まることが大事なのではなかろうか?
そんなことを考えながら、私も試行錯誤する日々です。自分が何に引っかかったのか、自分自身にも問いかけながら、私自身の迷いも皆さんに聞いてもらい、一歩ずつ前に進んでいく日々です。
その場に来られない人のことも考えたい

ここで一つ具体的なエピソードをご紹介しますね。
学校の老朽化と建て替えについての意見交換会で
先日、学校の建て替えについての意見交換会に子どもを育てる親として参加しました。
私以外にも、子育てをされているだろう親世代の方も来られていました。また、工事車両の安全性についてや、景観のこと、騒音のことなど、地域住人の方も、不安な気持ちを持ってご参加されていた方もおられたと思うんですよね。
この場で発言される人の声はほんの一部かもしれない
そこで改めて考えたのが、その場に来られない人や、人前で声を上げることが難しい人のことでした。
日本語でのやりとりが難しい人。会場への移動が難しい人。大勢の前でマイクを持つことに、ためらいを感じる人。
仕事や子育て、介護などで、時間をつくれない人もいるでしょう。
会議に来ていないからといって、その人に思いがないわけではありませんよね。
みんなで育てるまちづくりに取り組む上で
私たちが集まって話をして、何か意思決定をするとき…。
その場にいる人の声を大切にするとともに、まだ聞けていない声があることも、覚えていたいと思うのです。
具体的な工夫の余地もあるでしょうし、すでに実践できていることもあるかと思います。気軽に話せる雰囲気を作る。紙でもオンラインでも伝えられるようにする。こちらから、普段過ごしている場所へ話を聞きに行く。
まだ実践されていない方法もたくさんあるでしょうし、もっと工夫できることがありそうです。
丁寧に聞くことも大事ではないでしょうか?
また、アンケートに答えるだけでは、捉えきれない思いもたくさんあるはずです。
アンケートで情報を収集し、データ化することはもちろん大事。でも、賛成・反対などの意見の背景にある「思い」を、勝手に決めつけることもしたくないと、私は考えています。
このように考えると、「声をきく」とか「みんなで育てる」って、非常に難しいなと思うこともあるわけですが、それでもまちのことをみんなで育てることを諦めてはいけない。そんな思いを持ちながら、これからも試行錯誤していきたいと思うのです。
声を聞くのは大事。でもそれだけではダメ。
アンケートに答える。説明会で質問する。ワークショップで意見を出す。
こうした「声をきく機会」は、大切な入り口です。
ただ、「はい、声を聞きました」というだけでは、ダメだと思うんですよね。
私も一人の市民として、声を届けたあとに、「あの話はどうなったんだろう」と感じた経験がたくさんあります。
声を上げてみたものの、自分の意見がどう受け止められ、何が検討されたのかがわからない。問い合わせても曖昧な回答でモヤモヤが残る。
でも逆に、自分の声が何らかの形で反映されたり、反映は難しかったとしてもしっかり受け止められて考慮されたことがわかると、「次もこういう機会があれば行ってみよう」とか「私にもできることがないのかな」と思うようになるのではないでしょうか?
みんなで育てながら信頼を育む
まちに関する意思決定や、それに基づく具体的なアクションについて、すぐに具体的な何かが実現できなくても、難しい理由が分かったり、別の方法を一緒に考えられたりする。
そのやりとり・プロセスの中で、信頼は少しずつ育つのだと思います。
そのためにも、話し合いを始めるときには、何が決まっていて、何を一緒に考えられるのか、誰が責任を持って決めるのかが分かるようにしておきたい。
大切な思いを持って参加してくれた人に、私たちも丁寧に応えられる場でありたいですね。
まだうまく言葉になっていなくても
私が「まちあいの森」やIMA LIBRARYで育てたいと考えているのも、それぞれの関心や経験を持ち寄り、安心して話せる場です。
好きなこと。気になっていること。誰かに聞いてみたかったこと。
話しているうちに、「自分は、こんなことを大切にしていたんだ」と気づくこともあるでしょうし、誰かの話から、新しい楽しみが見つかることもあると思います。
まちづくりも「やってみよう」「まずは実験」
まちづくりにも、「明確な答え・目標」に基づき「無駄なく効率的に実践する」ということだけではなくて「よくわからない」という時間があっていいし、その中で「やってみよう」というトライもあり!
まだ企画になっていない思いや、答えの出ていない問いを持ち寄って、少しずつ一緒に考えていく。
そのための余白を、つくっていきたいと、私は考えています。
「私」と「あなた」がいて「私たち」になっていく
まちづくりと言っても、いろんなシチュエーションが考えられますので、一概には言えませんが、意見が対立してしまうことはあるのかもしれません。
もし仮に、「私」の意見と「あなた」の意見が違う状況があったとして、それを「どちらが正しいか」という状況に引きずり込まれる必要はないのだと思うのです。
考えが違っていることに気づいた時が、ある意味では豊かさを育むスタート地点なのかもしれません。
「私」とは違う現実や未来を、「あなた」が見えているとしたら、そこを丁寧に共有することで、「私たちの未来」を描き、協力して行動する状況を生むこともできるのではないでしょうか?
「あなたには、どんなふうに見えているんですか」と聞き合える状況や関係。そんな場を、このまちで育てていけたらと思っています。
皆さんが普段過ごすまちには、これからも残したい風景や、少し変わるとうれしいことがありますか。
豊中駅前のことでも、皆さんの暮らす地域のことでも構いません。まずは一つ、聞かせてもらえたらうれしいです。
後編では、そうして持ち寄った思いを、どうやって小さな実践につなげていけるのかを考えてみます。