
陰口は、悪意がなくても広がっていく(「あの人、最近おかしくない?」から始まる三つの目線)
「あの人、最近元気がないよね」
昼休みの給湯室で、同僚がそう言いました。
ほんの一言です。
悪意は、どこにもありません。
心配している様子でした。
けれど、この一言が、数週間後には、まったく違う形で職場に広がっていくことがあります。

同じ出来事を、三つの目線から見てみます。
最初の目線は、心配した人です。

元気がない同僚が気になって、仲のいい人に話しました。
「大丈夫かな、何かあったのかな」
相手も心配して、別の人に話します。
その人は、少し先走って推測を加えました。
「もしかして、家庭で何かあったのかもしれない」
話は、心配から、少しずつ別のものに変わっていきます。
二つ目の目線は、噂を聞いた人です。

「あの人、何かあったらしい」と聞かされました。
その人は、確かに最近、その同僚が静かだったことを思い出します。
「やっぱり、そうなんだ」
聞いた話と、自分の記憶が結びついて、納得してしまいます。
ここで、噂は事実のように感じられはじめます。
三つ目の目線は、噂の対象になった人です。

最近、確かに疲れていました。
仕事が立て込んでいたからです。

ところが、ある日、周りの視線が変わったことに気づきます。
ひそひそと話す声。
話しかけると、ふと黙る人。
目をそらす同僚。
何を言われているのか、分かりません。
直接聞くこともできず、どんどん居づらくなっていきます。
同僚間で最も起こりやすいハラスメントは、陰口や噂話での孤立だと言われています。

この三つの目線を並べると、誰にも悪意がなかったことが分かります。
けれども、結果として一人の人が、職場で孤立しました。
社会心理学では、こうした現象を支える2つの仕組みが知られています。
一つは、噂が伝わるたびに、内容が少しずつ変わっていくこと。

話す人は、自分の理解や推測を無意識に加えます。
もう一つは、確証バイアスです。

「あの人は何かあったのだろう」と一度思うと、それを裏づける情報ばかりが目に入るようになります。
元気がないことも、遅刻も、ため息も、「やっぱり、何かあったから」と解釈されます。
最初は小さな心配でも、伝わるうちに、事実と推測の区別が消えていきます。
EAPの視点で見ると、噂の対象になった人は、「何を言われているのか分からない」という不安を、強く抱えやすいことが特徴です。

相手がはっきりしないので、反論も説明もできません。
そして、プライバシーを守られないまま、仕事を続けなければなりません。
職場の中で、自分のことを誰が、どこまで知っているのか。
それが分からないことが、さらに孤立を深めます。
では、どうすればよいのでしょうか?
誰かのことが心配になったとき、まず確認したいのは、「その話を、誰に伝えるのが適切か」です。
その人の様子が気になるなら、本人に直接、声をかけてください。
「最近、疲れていないですか?」
または、信頼できる窓口や上司に、事実だけを伝えます。
第三者に話すことは、心配のつもりであっても、噂を広げる入口になります。

明日からできることがあります。
誰かを心配したとき、その話をほかの同僚にする前に、一度立ち止まってください。
本人に聞くか、窓口に伝えるか。
それ以外には、話さない。
その小さな決めごとが、噂を止める力になります。
噂の対象になった人にも、噂を耳にした人にも、安心して話せる場所が必要です。

株式会社リリオールのEAPは、プライバシーを守りながら、外部の立場で相談に対応しています。
EAP支援特設サイト