
夫は求職、わたしは休職。こんなときこそ、非日常へ
なんだか、家の空気が重い気がする。
夫が「しばらくドアを開けないでね」と言い残し、するりと寝室に閉じこもってしまう。そうなるとリビングには、戦いごっこに明け暮れる子どもたちと、わたししかいない。
いつもなら、抜け駆けズルいぞーっ!とすかさずツッコむところだけれど、今はそんなこと言えない。夫が求職活動をはじめて早3ヶ月。大丈夫っしょ!が口ぐせの夫が「自己肯定感が下がってきている...」とブツブツつぶやくほど、壁にぶつかっている。
わたしも1年休職しているし、どうにかこの空気を変えたい。3日ぐらい悶々としていたらふとひらめいた。こんな時こそ、家を離れよう。キッツキツに縛っていた財布のひもをゆるめるなら、今だ。
友だちを羨ましがって「ホテルにお泊まりしたい!」と叫んでいた長男を思い出し、割引セール中のプランを探し出した。ゆるめるといいつつ、お得に乗っかりたい節約命のわたし。予約したことを夫へ伝えると「マジ!ありがとう」と目の色が変わった。予約したかいがある。
お泊まり当日。
自宅から車で1時間ほどのリゾートホテルへ。途中、子どもたちは戦いごっこからケンカへレベルアップし、車内の雲行きが怪しくなった。わたしも雷をおとす寸前。けれど、ハンドルをにぎる夫の声は終始明るかった。
いつもなら、もうどす黒い空気で充満していたはずなのに。ケンカにしびれを切らした夫が「静かにして!」と怒鳴り、怒られた子どもたちが泣き出すパターン。楽しみが待っていると、いざこざだって軽く受け流せるみたいだ。
夕食はホテルの焼肉ブッフェ。えいやッと奮発して予約したので楽しみにしていた。「〇〇様ですね。お待ちしておりました」入口でお辞儀するウェイターさん。なんだかセレブになったようで少し緊張する。
案内された席は、海とプールを眺める場所。うわぁ〜と思わず声が出た。今日は人生最後の日かな...?もう、お腹より先に胸がいっぱいだ。
「パパ、あれ焼いて!!」
「オッケーオッケー。」
子どもたちのリクエストが止まらない。夫はトングを手に、ニコニコした顔でお肉を焼いていた。こんな食卓、久しぶりかもしれない。
それから温泉やナイトプールなど、惜しむようにホテルの夜を満喫した。ようやく眠りにつく頃。夫と子どもたちは、ベッドが四つあるにもかかわらず、ひとつのベッドで重なり合っていびきをかいていた。「ここにするー!」なんて、自分のベッドを決めていたのに。この光景、いつまでも見ていたい。
翌朝。
「毎年ホテルきた〜い」チェックアウト後のロビーで次男が叫んだ。「そうだね。来たいねえ…。」ボソッとつぶやくわたし。正直、来年のわが家がどうなっているかまだ想像できない。
そこへ、
「大丈夫っしょー!!また来よう!」
夫のどデカい声が響いた。
それだよ、それ。何を根拠に!と思う時もあるけれど、楽観的な夫の「大丈夫」は何だかんだでわが家を明るく照らしていた。
「またくるからね!ばいば〜い」
ホテルに向かって何度も手をふる子どもたち。
そうだね。来年また来よう。その時も、絶対セールで予約するけどさ。
