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狐火バーベキュー

    「朝ごはん、できたよ。」
    いつものように、ユキの元気で明るい声が家中に響き渡る。
    寝ぼけなまこで、小さな兄弟たちが起きてきた。この家唯一の成人にして大黒柱である父も後に続く。
    「今日も早いな。ありがとう。」父が言った。
    ユキは気立ての良い娘で、ほんの9つとは思えないほど家族の面倒見が良く、幼い兄弟たちから慕われていた。

    ある日のこと、ユキは近くの森へ山菜を摘みにでかけた。収穫を終え下山しようとした時、どこからか美味しそうな匂いが漂ってきた。
    「こんなところに小料理屋さんがあったかしら…」
    匂いの元を辿ると、何やら動く人影が見えた。声をかけようと近づいた時、ユキは思わずはっと息を呑んだ。
    三角形の耳と、長くて牙の生えた大きい口を持った獣が何匹もいる。火を焚べ、格子網で肉や野菜を焼いているようだ。
    「キツネだ!!」
    思わず声を上げた時、狐たちの吊り上がった目がギロリとユキを見遣った。

    「ユキ!」
    「ユキお姉ちゃん!」
    父と半ベソを搔きながら森を歩き回っている。昨日山菜を取りに出かけた後、ユキは家に戻らなかった。
    夏に入ったばかりで大気が不安定なのか、空は青いのにシトシトと雨が降っている。雨粒が地表を打つ物寂しい単調な旋律が、父の焦燥感に拍車をかけた。
    すっかり夜が更けた頃、森の奥に火が灯っているのを見つけた。心配と疲労で憔悴しきっていた父は、一縷の望みをかけ、火の元へ走って向かった。

    青白い火。
    それは、ふわふわと宙を漂い、父の胸の前で動きを止めた。そして冷え切った体を温め、重く沈んだ父の心をそっと包み込んだ。
    あの優しい瞳、屈託のない笑顔、すべてが脳裏によみがえる。語りかけるように、父がゆっくりと口を開いた。

    「おかえり、ユキ」

    ★この記事は下記企画に参加しています。

    #ショートショート #毎週ショートショートnote #狐火バーベキュー


     
     
    ぎり昭和生まれのこじらせ派遣社員。下流を悠々自適に彷徨いながら、言葉を紡いで楽しく暮らしてます。美味しそうな餌があればパクっと食いついちゃう、好奇心旺盛なメスです。

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