メインコンテンツへスキップ
見出し画像

#4-4 長の家|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜

    ←前のはなし   |   次のはなし→


    【前回の話】
    不気味な森を抜けてやっとたどり着いたヴァリスの街は、シンボルの「自信の塔」の教会すら破壊され、荒廃していた。
    街の裏通りで、子どもたちに囲まれ、不思議な歌を口ずさむ少女と出会う。彼女はルリと名乗り、三人を長のもとへ案内すると告げた――。

    #4-3 栗色の光

    第4話 長の家



    「長(おさ)の家に案内しますわ」

    ルリが近くの子どもに耳打ちをすると、数人がたっと駆けていった。
    どうやら、先に知らせを入れたようだ。


    向かった東の外れには、見張り棟を囲むように家々が点在していた。

    その一つが、長(おさ)の家らしかった。


    「長(おさ)、旅人をお連れしたわ」


    「ああ、通してくれ。あと今日は、酒と葉巻を頼むぞ」


    「ええ。…じゃあ、私は行くわね」


    短いやりとりのあと、3人は家に招かれた。


    くたびれた男が長椅子に深く腰を沈め、口に葉巻をくわえている。
    背後に、息子らしい若者がぼんやり立っていた。


    「旅人は久しぶりだ」


    男は煙の向こうからこちらを見た。

    「…あんたら、あれか?パレスを目指してる口か?」

    家の中は煙の匂いが染み付き、ヤニで黄ばんでいた。部屋の隅には酒樽が転がっている。

    ミミはウッと顔をしかめ、息を止めた。


    「はい。…この街は、ヴァリスで間違いないでしょうか?」


    「まあな。もう誰もそんな呼び方はしないがな。教会もあのザマだ」


    男は吐き捨てるように言うと、葉巻を光らせ、長く煙を吐いた。


    「俺の親父がガキの頃、どこからか来た野盗に街をやられたらしい。
    もう百年近く前の話だ。西の塔が占拠されて、戦いになって……街は、こんなもんだ」


    「野盗…どこの者だったのですか?」


    「さあな。……こっちは戦いなんざしたこともねぇ。なす術もなかったそうだ。
    けどな──壊滅寸前になったとき、教会に『亡霊』が出たんだとよ。
    野盗はそれに一掃されたらしい」


    ハッと嘲るように笑い、彼は三人を見据えて続けた。


    「気をつけな…この街には、今も亡霊が出る。夜は出歩かないことだ」


    長からは、それ以上は語られなかった。
    歴史も伝承も、恐怖と共に失われたのだ。


    今や中心の教会から西エリアには誰も近づかず、郊外と東側に集落が五つほどあるという。


    「揉め事さえ起こさなけりゃ、どこで何してくれても構わん。
    住み着くって時は言ってくれ。これでも、一応まとめ役をやってる。

    俺は長のヴォルドだ。こっちは息子のティル」


    ティルはわずかに頭を下げた。 

    年はタトと同じくらいか。だが、一度も目を合わせなかった。
    どこか落ち着きがなく、来客が迷惑そうだった。



    3人はお礼を言うと、ルリが住むという中町を目指した。



    「予想外だったな……」

    レイが、ぽつりとつぶやく。


    「ああ……」

    それしか言葉が出てこない。


    石畳は草木に押し上げられ、街道は歩きにくかった。

    影の多い道の向こうにいる、あの光のような少女に、早く会いたいと思った。



    (つづく)

    【おまけ】
    ミミ「息苦しかったー!タトぉ、目が痛いよー💦」
    タト「よしよし、よくがんばったね。いい子だったよ」

    ←前のはなし   |   次のはなし→



    この記事が参加している募集

     
     
    ぼんやりと生きています。心に湧いたお話は『ナルニア国物語』を思わせる、「児童文学ファンタジー」をちょっぴりと目指しています。 ◆note: 長編小説「追憶のオリジン」(全話公開中)イラスト 短編/短歌/自由詩/エッセイ ◆tales: 「追憶のオリジン(改訂版)」「読み切り」

    あなたへのおすすめ