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ある日のきおく:森の碑石③〜サイドストーリー

    【背景】
    追憶のオリジン本編から遡ること数年前。タトがまだ10歳前後の頃、希望の塔の街ルミナリーでのお話。
    ②からのつづき

    *


    タトはもう、いつでも専門職を決めていい年頃だった。
    けれど、自分だけがまだ――ふらふらとしていた。

    その日ごとに、大人たちに頼まれたことを、こなすだけの日々。

    ニナは、幼い頃から糸が好きで魔法糸を自在に操れた。
    ジルは植物が好きで、合成魔法の素質があった。

    けれど自分には、特別に好きなものも、魔法の力もなかった。


    ならば、自分のやるべきことは……?

    タトには、まだ、その答えが見つけられずにいた。


    ---

    不気味な風を感じた、あの日から数日後――
    タトはもう一度、教会の裏を訪れた。

    危険だと分かっていても、あの碑石をもう一度見たかった。

    けれど――


    そこにあったはずの石は、もう、どこにも見当たらなかった。

    土ごと崩れ、苔も、根も、何もかも、森の成長に流されて地面は新しい形へと変わっていた。
    瘴気のせいで、森も、地中も、通常ではありえないくらい早く動いていくのだ。
    あの詩も、言葉も、跡形すら残っていなかった。


    「……消えた」


    タトはしゃがみこみ、ボコボコと盛り上がった根の間をそっとなぞった。
    石の感触は、どこにもなかった。


    何も、残らないんだ。

    あの詩の断片も。あの、静かな感動も。


    気づいても、見つけても、
    黙っていたら――

    動かなければ、埋もれてしまうんだ。


    --


    何もせずにいるのが、一番嫌だった。


    タトはすくっと立ち上がると、走った。
    街の掲示所へ一直線に向かった。


    「明日の仕事、なにが空いてますか。何でもやります」


    乱れた呼吸を懸命に整えながら、タトはきっぱりと言った。


    自分にできることを、やろう。

    求められていることを、まずはやってみよう。


    答えは、まだ見つからない。

    けれど――それが、

    いつか“自分が本当に欲しいもの”の、手がかりになるかもしれないから。


    --



    そして、
    あの詩がいつかタトの胸によみがえる時、
    新たな扉が開く−−




    (おわり)


     
     
    ぼんやりと生きています。心に湧いたお話は『ナルニア国物語』を思わせる、「児童文学ファンタジー」をちょっぴりと目指しています。 ◆note: 長編小説「追憶のオリジン」(全話公開中)イラスト 短編/短歌/自由詩/エッセイ ◆tales: 「追憶のオリジン(改訂版)」「読み切り」

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