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カレーのある暮らし その4 懐かしのボンカレー

    『袋カレー』って分かるだろうか。私にはピンと来るネーミングだった。
    誰にも想像に難くないレトルトカレーのことである。息子がまだ幼稚園に通っていた頃、家内不在で昼飯に「何が食べたい」と問うと返ってきた答えである。
    仕事漬けの毎日でたまに家にいることの出来る休日はいつも家でぐったりしていた。そんな私に息子は期待などしなかったのであろう。

    でも、私はこの袋カレーが嫌いじゃない。時間を遡ること半世紀以上、小学4年の私は豊橋市の小学校に通っていた。学校の年中行事として今も続いているのであろうか、豊橋市の太平洋に面する伊古部町にある野外教育センターで一泊二日の校外学習なるものがあった。センターは浜名湖から渥美半島の伊良湖岬まで続く表浜海岸沿いに位置し、前面には白い砂浜が延々と続き、太平洋からやって来る潮風と波の音が心地良い、日がな一日ぼんやり過ごすのにもってこいの場所である。
    校外学習の目的や何をやったかは全く思い出せないが、その日の夕食をいまだにおぼろながら憶えている。その時が私と袋カレーの初めての出会いだった。

    当時の公立小学校である。父兄の負担を大きくしないために食費も最大限に絞ったのであろうか。ご飯は常設の大きな炊飯器で炊き、おかずはボンカレーのみだったのである。しかも大量のボンカレーを大鍋で加熱していたのは学年主任の中西先生だった。家で奥さんの手伝いなど絶対したことは無いだろうと誰もが思う先生以外何もできそうもない典型的な教師らしい教師であった。大鍋の湯に漬かったボンカレーたちを、これまた大きなしゃもじでかき混ぜる中西先生は汗をふきながら皆の注目を浴びていた。
    そして、各人の前にはカレー皿に炊き立ての白いご飯が盛り付けられて、配られたボンカレーの袋を待ちかねていた皆が一斉に口を切ったのである。カレーは白いご飯を黄金色に変え、一瞬にして部屋中があのボンカレーの匂いで満たされたのである。ボンカレーが初めてだったのは私だけじゃなかったのであろう。皆が無言で食べていたように思う。それから私はボンカレーの虜になっていったのである。

    調べればボンカレーを大塚食品は1969年に全国販売を開始している。その直後にボンカレーを食べてもうすぐ60年近くの付き合いとなるのである。高額なレトルトカレーが美味しいのは知っている。でも、高ければ美味いのは当たり前であって、安くて美味いものを探さなければならない。その点は大阪に来る前から大阪人と共通の見識を持っていた。ボンカレーは味・価格から総合的に見て私にとって好ましい袋カレーなのである。
    野外活動センターで初めてお母さんが作ってくれたカレー以外のカレーを口にしたのは私だけではなかっただろう。
    学生時代にも、社会人になってからの独身時代の寮生活でもボンカレーは便利だった。食堂も炊事の設備もないゼネコンの寮時代には湯沸かしのケトルにレトルトを突っ込んで温めたものである。まだレトルトご飯は出現しておらず大学入学時に母に持たせてもらった3合炊きの炊飯器をまだ使っていた。

    今もボンカレーは常備している。自分でカレーを作ることを手間だと思うことはないが、一人で食事する時や時間のない時には無駄も無くなり頼もしいヤツである。
    即席の和風だしに溶いてカレーうどんやカレー煮麺にすることもある。毎年奈良の大先輩から頂く三輪の素麺の多くをこれで消費している。年始にはカレー味の雑煮も作る。これもまた美味である。
    寂しい男の独り酒にはボンカレーとこんがり焼いたバケットでもいい。
    ビールでもウイスキーでも、もちろん日本酒でもいい。

    こんな文章ばかり書いていると、毎日、しかも三食カレーを食っている男のように思われるかも知れない。顔が黄色くなっているんじゃないかと、ご心配をいただくこともあるが、健康には留意する年齢となり、バランス良い食事には十分心がけているつもりである。宵や時々日の高い時間に赤い顔をして大阪市内をふらつくが、それも自身の心身のバランスを保つために必要なことなのである。

    カレーライスはご飯を玄米に変えて、トッピングを考えれば完全食に近いものにもなり得るんじゃないかと思う。その時々に食べたいもの、身体が欲するものを食べることがバランスの取れた食事になるんじゃないかと思いこれまで食事を作り、外でも食事をして来た。
    では、なぜ私がカレーをその時々の食の伴侶として選ぶのか、私がカレーを食べたくなるのか、その理由をこれから考えてみたいと思う。


     
     
    60分一本勝負! 「生きる」を書き続けます。 旨い昼酒が飲めれば幸せな元気な年寄りを目指しています。 合気道六段。 木曜、日曜に何かを投稿いたします。

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