
高知の海で「死滅回遊魚」を釣る。メッキ狙いはダイソーの100円ルアーで決まり!
10月になったというのに、高知県はまだ暑い。気温は30度近くまで上がるし、やたらに蒸し蒸ししている。南国だから仕方ないといえばそれまでだが、これは残暑などというレベルではない。夏がどっかと居座り、秋の到来を阻止しているような有様である。
家ではまだクーラーが欠かせない。半そでシャツも手放せない。私はもともと暑いのが嫌いだから、一刻も早く涼しくなることを祈るばかりだ。
こんな時は、海風にあたって涼むに限る。私と同じく暑さに弱い愛犬マイヤー君を連れ、須崎市の野見湾までルアー釣りに出かけた。

午後4時。目的地の小さな漁港に到着した。
野見湾は須崎市中心部の須崎港の東側にあり、太平洋に突き出した半島に抱かれたような地形をしている。沿岸部は典型的なリアス式海岸であり、大小の入江が入り組んでいる。
野見湾は地形的に風や波の影響を受けにくく、カンパチの養殖が盛んだ。また、生息する魚の種類が豊富なことから、釣り人に人気がある。私の家からだと車で15分ほどしかかからず、暇さえあれば訪れている。


防波堤の隙間を通り抜けると、全長50㍍足らず波止めに出る。ここはカンパチの養殖場が近いため、作業用の小舟が数隻係留されている。波止めの両側には砂浜が広がり、その先は崖になっている。辺鄙な場所にあるためか、他の釣り人を見ることはめったにない。
波止めに立つと、正面に中ノ島と島に続く橋が遠望できる。沖には養殖場の筏が並び、小舟が行き来している。野見湾は太平洋に面しているのに、いつ来ても波が静かだ。

マイヤー君が海に落ちたら大変だから、波止めの隅にリードをつなぐ。ルアーロッドとリールを手早く用意し、早速釣りを始めた。
私は気が短い性格で、何事もすぐに結果が出ることを好む。その点でルアー釣りは優れている。面倒な仕掛けやエサを用意する必要はない。ただ、糸の先に付けたルアーを海に放り込めばいいのだ。
今回はアオリイカ狙いのエギングに使っているロッドを持ってきた。ここらの海は根がかりが多く、高価なルアーだと失った時の打撃がきつい。家の近所のダイソーに行き、百円均一のメタルジグやジグヘッド、ワームなどを適当に買い込んだ。
釣り人の中には「百円ショップの道具で釣れるはずがない」と、冷笑するむきもある。しかし、海の中にいる魚たちに、釣り具の値段が分かるはずはない。
「あっ、千円の高いルアーが来た。さぁ、飛びつきましょう」
「こっちは百円の安物だ。無視じゃ、無視じゃ」
そんな魚さんたちがいたら、ぜひお目にかかりたい。

ああじゃ、こうじゃ言いつつ、ジグヘッドにシャッドテールワームを固定する。波止め左手の山に向かい、ロッドを思い切り振り抜いた。
「ヒュン」という音とともに、ジクヘッドが飛ぶ。水深は10㍍近くあるとみた。ゆっくり五つ数えて底を取った後、細かいアクションを加えながらリールを巻いた。
シャッドテールワームは弾力があり、水中を引くと尾の部分がヒラヒラと動く。パッと見は魚そっくりで、なかなか感じがいい。このあたりにはオオモンハタやカサゴといった根魚をはじめ、スズキ、カマス、ハマチなどもいる。何でもいい。釣れたら、今夜の酒の肴になる。
釣り始めて1時間。なんの反応もない。ワームはフリフリ泳いでいるのだが、毎回何事もなく手元に戻ってくる。
潮見表によれば、今日は午後6時半に満潮となる。これだけ好条件で釣れないはずがないと思っても、不安になる。
もしや、魚たちはスレてしまっているのではないか。
「また、アホな人間がルアーを投げゆうわ。おれらぁ、高知の魚をなめちゅうがやないかえ」と。

さらに30分。空が少し暗くなりかけたタイミングで、ルアーが突然引かれた。反射的に合わせると、ロッドが大きく曲がる。強い引きをかわしながら、リールを巻く。水中に銀色の魚影が見えた。そのまま足元まで寄せ、一気に引き抜いた。
やった。ついに釣れた。魚はルアーをくわえたまま、波止めの上ではねている。結構大きい。体長30㌢はある。美しい魚体で、背びれは黒く、腹びれが黄色い。間違いない。釣り人の間では「メッキ」と呼ばれるロウニンアジの稚魚である。

気が楽になった。次はメタルジグを結び、沖に投げる。中層を狙い、派手なアクションを繰り返す。メッキは群れていることが多い。今がチャンスなのだ。
5投目。さっきと同じアタリがあり、ロッドが曲がった。間髪入れず合わせを入れる。素晴らしい。同サイズのロウニンアジの幼魚が釣れた。メタル軸の針は、口先にバッチリ刺さっている。
2匹釣れば、こっちのものだ。今度はジグサビキを連結し、メタルジグを重り代わりに投げ込んだ。
ジクが海底に達したのを確認し、ロッドを大きくあおる。サビキには針が2本付いているから、うまくいけば1度に3匹釣れる。



だが、海の魚はそんなに甘くない。
仲間が釣られて警戒したのか、アタリが途絶えてしまった。何度投げても無反応で、時間ばかりが過ぎる。
もしかしたら、メタルジグの正体が見破られたのかもしれない。ジグを取り換えてみても、状況は変わらない。
ごく小さなアタリが出て喜んだら、サビキの針にかわいい魚がついている。最初はハゼかと思ったが、やたらに口が大きい。これって、エソの幼魚ではないか。リリースしたのを機に、釣り道具をしまった。2匹も釣れれば十分なのだ。

ロウニンアジは熱帯から亜熱帯の海に生息し、成魚になると体長1・8㍍、重さ80㌔にも達する。私が釣った稚魚は南の海から黒潮に乗り、野見湾までたどり着いたのだろう。
黒潮に運ばれる南方の魚は「死滅回遊魚」と呼ばれる。冬場に水温が下がる本州沿岸では、多くの魚が生きのびることができない。メッキと総称されるロウニンアジ、ギンガメアジ、カスミアジなども、多くが次の春は迎えられないのだ。
高知の漁港では、美しい色をしたチョウチョウウオの仲間やスズメダイなどがよく見られる。高知の海は本州より水温が高いと思われるが、果たして冬を越せるのだろうか。
堤防の近くから離れないチョウチョウウオに比べれば、ロウニンアジは見るからに遊泳力が強そうだ。できれば、このまま冬を乗り越え、南の海に向かってほしい。

釣りに夢中になっているうちに、すっかり暗くなった。中ノ島の漁港に民家の明かりが灯り、養殖場の筏や漁船がシルエットになった。空と海が同じ藍色になり、やがて墨絵のように色を失った。
波止めを吹き過ぎる風が、少し冷たい。なんだかんだいっても、秋は秋なのだ。マイヤー君は待ちくたびれ、ふてくされている。私が「家に帰るよ」と声をかけたら、短い尻尾を振った。
今夜はメッキの塩焼きを食べるとしよう。百円ルアーの釣りは、見事に成功したのだ。
