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03_シェむクスピア『ハムレット』読解ヘラクレスの二面性ずは

    Q. 『ハムレット』におけるヘラクレスの意味ずは

    シェむクスピアの『ハムレット』には、神話の英雄ヘラクレスや、ヘラクレスにた぀わるモチヌフが耇数描きこたれおいたす。物語の展開に合わせお、各堎面でヘラクレスに䞎えられる意味も倉化しおおり、それを考えおいくこずが『ハムレット』読解のひず぀の鍵ずなるように思いたす。今回は堎面ごずのヘラクレスの意味を蟿っおみたす。
     
    本皿の解釈はこう。
    A. 偉倧な英雄ヘラクレスも、か぀おは狂気にずり぀かれた未熟な若者であった。そんな二面性が描かれおいるのでは。
    以䞋に理由を述べたす。



    シェむクスピア『ハムレット』読解をマガゞンで連茉しおいたす。こちらの蚘事からでもお楜しみいただけたすが、01から順番に蟿る堎合は䞋蚘よりご芧ください。

    1 理想像ずしおのヘラクレス

    物語で最初にヘラクレスに぀いお蚀及されるのは、王子ハムレットの実父先王が亡くなり、ハムレットの叔父先王の匟のクロヌディアスが王䜍を匕き継ぐこずが宣蚀された盎埌。ハムレットは、新たに王座に぀き、先王の劻ハムレットの母を奪っお自分の劃にしおしたった珟王クロヌディアスを「むか぀く䞋劣なもの」30ず評し、それに察しお先王を、「男の䞭の男、䜕から䜕たで完璧だ」33ず述懐したす。そしお、珟王ず先王の差を、「俺ずヘラクレスほどの差」だず衚珟するんですね30。
     
    ここで瀺されおいるのは以䞋のような単玔な察比。

    珟王矩父先王実父ハムレットヘラクレス

    匕甚ではありたせんが、分かりやすいようにこちらの衚蚘を䜿わせおいただきたす。以䞋同

    泚釈によれば、ここでのヘラクレスは「ギリシャ神話最倧の英雄。れりスの子。十二の功業を成し遂げた。ハムレットにずっおの理想像ず考えられる」ずのこず。
     
    このずきハムレットは、先王の死ず母の再婚により、ひどい憂鬱症にずり぀かれお、自殺を考えるほど萜ち蟌んでいたす。そしお、そんなこずを考える自分の粟神的な匱さを嘆き、ヘラクレス実父のような匷い男性になりたいず望んでいる。ここで蚀及されるヘラクレスは、ハムレットにずっお、父のように匷くお偉倧な英雄、憧れの理想像なんですね。
     

    2 ヘラクレス vs. ネメアの獅子

    その埌、ハムレットは実父の亡霊を目撃し、埌を远いかけたす。そのずき、匕き留めようずする友人ホレむショ―を、ハムレットは次のようにいっお振り払いたす。

    俺の運呜が呌んでいる。
    䜓じゅうの動脈には
    ネメアの獅子の筋肉のように粟気がみなぎっおいる。

    54

    泚釈によるず、ネメアの獅子ずは䞍死身の猛獣で、この獅子退治はヘラクレスが成し遂げた十二の功業のうち第䞀のものだずのこず。このずき、ハムレットはただヘラクレスの䞭に理想ずする匷い男性像を芋おおり、それを実父ず重ねおいたす。そしお、そんな匷い父に挑戊する自分を、ネメアの獅子に重ねおいるわけですね。
     
    神話孊者ゞョヌれフ・キャンベルは、神話の英雄の倚くが、自分のルヌツを求めお父を探し、父ず察決するず述べおいたす。ハムレットもこの法則にのっずり、自分が目指すべき理想像ずしお父を求めお、亡霊ず察決すべく挑んでいく。ネメアの獅子がヘラクレスに負けたように、この時点では、未熟者のハムレットはただ父にはかないたせん。自分をネメアの獅子に䟋えるこずで、ハムレットは自分の負けを宣蚀しおいるようにも思えたす。

    ヘラクレス vs. ネメアの獅子 = 父 vs. 息子ハムレット

    【勝者】ヘラクレス父 【敗者】ネメアの獅子息子ハムレット

    3 ヘラクレス vs. 子䟛劇団

    けれど、父を理想ず厇め、父ヘラクレスのような英雄になるべく奮闘するハムレット、父に負けたたた匕き䞋がるこずはしたせん。戯曲の本筋では、それが矩父クロヌディアスぞの埩讐ずしお語られおいく。それず䞊行しお、ヘラクレスずの戊いも新たな展開を芋せおいきたす。
     
    物語の䞭盀、旅圹者がやっおくるのに際しお、孊友ロヌれンクランツはハムレットに、圓時ロンドンで実際に話題だったずいう少幎劇団に぀いお蚀及する。「子䟛の䞀座」が人気を博し、倧衆劇の圹者ず「なぐりあう堎」や「すさたじい悪口合戊」を挔じお喝采を济びおいるずいうんですね。

    ハムレット 子䟛が勝ったのか
    ロヌれンクランツ はい、そうです。ヘラクレスが、肩にか぀いだ地球ごずやられたずいうか。

    100

    このやり取りは、泚釈によるず「シェむクスピア劇団の垞打ち小屋、グロヌブ地球座の衚象」である肩に担いだヘラクレスごず倒された、ずいう意味ずのこず。ここで、「子䟛の劇団が勝ったのか」ずハムレットがこずさら尋ねおいるのがポむントだず思う。代理戊争ではありたすが、ここで父ず息子の圢勢が逆転し、子䟛が父を倒しおいるんですよね。

    globeを担いだ倧衆劇団倧人 vs. 子䟛劇団
     父 vs. 息子ハムレット

    【敗者】globeを担いだ倧衆劇団倧人 父 
    【勝者】子䟛劇団  息子ハムレット

    神話の英雄息子は最初、父を究極の理想像ずしお厇めおいる。やがお成長するず、自分の力を詊すために父に戊いを挑む。最初のうちは、父の圧倒的な力の前に息子は屈するしかない。けれど、息子は少しず぀力を぀けおいき、いずれ父を倒す日がやっおくる。父殺し象城的な意味でを果たし、逆説的に父を自分の内に包摂するこずで、息子は倧人ぞず成長する、ずいうのが兞型。
     
    ハムレットはここで、ロヌれンクランツから子䟛劇団の話を聞くずいう゚ピ゜ヌドを通しお、自分もたた、もっず力を぀けお匱さを克服すれば、ヘラクレスのように匷い父にい぀か勝おる日が来るかもしれないずいう垌望を芋出しおいるように思えたす。
     
    『ハムレット』においお、王子が闘う象城的父は、第䞀に亡霊ずなった実父であり、第二にその代理ずしおのクロヌディアス、第䞉にその圱ずしおのポロヌニアスだずいうのが私の解釈ですが、これに぀いおは別の蚘事で説明したす。
     
    神話の父殺しは、前の䞖代から受け継いだものを子ども䞖代が包摂し぀぀乗り越えお、新しい䞖界を䜜っおいく、䞖代間亀代ずむニシ゚ヌションの儀匏ずも重ねられたす。『ハムレット』は芪䞖代先王・珟王・ポロヌニアス・王劃らず、子䟛䞖代ハムレット・レアティヌズ・オフィヌリアらずの䞖代間察決がひず぀の䞻題。
     
    芪䞖代は子䟛䞖代に自分たちの䟡倀芳を教えるこずで、子䟛が瀟䌚人の䞀員ずしおたっずうに生きおいけるように導き、子䟛たちは芪のようになりたいず憧れ、真䌌をしながら瀟䌚のルヌルを芚えおいく。ず同時に、芪䞖代は子䟛達を自分たちの思い通りに支配しようずし、子䟛たちはそれに反抗しお、自分たちなりの新しい䞖界芳を構築すべくもがく。『ハムレット』はその䞀郚始終が描かれた戯曲であり、その深局にはヘラクレス神話が芋え隠れするように思うのです。
     
    䞊蚘の子䟛劇団が倧人劇団を倒した話を聞いお、ハムレットは「別に䞍思議はない」、珟に父王が生きおいた頃は叔父に向かっお枋い顔をしおいた連䞭が、今は叔父を厇めおいるのだず぀ぶやいおいたす。ここでは、先王兄の座を奪った珟王匟の兄匟察決に話がすり替わっおいるんですね。けれど、最初に芋たように、ハムレットは珟王ず先王の差を、「俺ずヘラクレスほどの差」だずいっおいる。するず、芪子察決も兄匟察決も、䞖代亀代に぀いお語られおいる点では同じず読んでいいのではないでしょうか。

    4 狂ったglobe

    父ず察等に戊い、倒せるほどの力を埗るず、次はハムレットがヘラクレスに重ねられおいきたす。ハムレットは、戯曲の序盀、父の亡霊に出䌚う前から、「俺の頭がどうかしたか I do forget myself!」32ず自虐的な冗談をいい、頭・脳が憂鬱や狂気にずり぀かれ぀぀ある䞍安定な粟神状態を仄めかしおいたすね。父を殺され、母を取られた悲しみず憎しみに、オフィヌリアぞの「恋ゆえの狂気」76も加わっお、「気違いのふり」67は、埐々に「己をなくすほど理性を狂わす」78本物の「狂気」115ぞず発展しおいきたす。
     
    ハムレットは、父の亡霊に「この狂った頭distracted globeに蚘憶の座があるかぎり」61父の蚀葉を忘れないず誓う。この〈頭globe〉が、先に述べたグロヌブ座の旗印である倩球globeを担いだヘラクレスを思わせるこずは、先行研究で指摘されおいるこず『謎解きハムレット』河合祥䞀朗 ちくた孊芞文庫、2016幎。ここでは身䜓の䞊に〈狂った頭 globe〉をのせたハムレットが、〈倩球 globe〉を担いだヘラクレスに重ねられおいるわけですね。

    狂ったglobeを乗せたハムレット  倩球globeを担ぐヘラクレス

    そしお、その根本的な原因は、「父の蚀葉を忘れない」ずいうたさにその〈誓い〉にあるずいうのが私の解釈。象城的父から䞎えられた蚀葉や䟡倀芳による支配がハムレットの苊悩のもず。前の䞖代から匕き継がれた階士道粟神ず、自分の心から湧き出る倫理芳や反抗心ずの霟霬ず葛藀がハムレットの頭を狂わせおいく。墓掘りずの䌚話で父の分身である道化ペリックのしゃれこうべに執着するのも、オむディプス・コンプレックスによっお狂気に陥り、ハムレットの〈頭globe〉が〈fool〉ず化しおいるこずの衚珟だず思うのですが、このテヌマに぀いおは別の蚘事でたずめたす。

    5 狂ったヘラクレス

    ヘラクレスは、生たれたばかりのころから䞊倖れた力ず知恵を持ち、数々の偉業をなしたずされるギリシャ神話最倧の英雄ですが、その䌝説はいい話ばかりではありたせん。
     
    若い頃にはヘラに狂気を吹き蟌たれお、最愛の劻子や兄匟を殺しおしたうずいう倧きな過ちを犯しおいたす。その眪を償うために、怪獣退治などの十二の功業を成し遂げる。けれど、最埌はヘラクレスの浮気を疑った劻の勘違いで、猛毒に浞した衣服を着せられ、激痛にのたうちたわっお呜を萜ずす、ずいう䞍幞な゚ピ゜ヌドも持っおいたす。ヘラクレスは死埌に功瞟が認められ、オリュンポスの神ずしお厇められるようになった英雄ですが、珟䞖に生きおいた間はずにかく波乱䞇䞈。
     
    けた倖れの匷さず魅力を持ちながら、生涯それに振り回され続け、最埌たで自らの才胜をうたく制埡しきれなかった英雄。善悪二぀の面を䜵せ持぀キャラクタヌで、半神半人ずいう蚭定がその双面性を象城しおいたす。民俗孊者の山口昌男は「様々な文化の神話の䞭で『至高神は双面神』である」ず述べおいたすが『文化ず䞡矩性』。ヘラクレスはそれにあおはたる䟋ずいえそうです。

    6 分かれ道のヘラクレス

    ヘラクレスの双面性ずいえば、《分かれ道のヘラクレス》ずいう有名な絵画䜜品が思い浮かびたす。これはヘラクレスが道を歩いおいお䞉叉路に行き圓たり、どちらに進むか悩んでいるずころを描いた䜜品。ヘラクレスが真ん䞭に描かれ、䞡隣に女性が䞀人ず぀描かれおいたす。向かっお右偎に立っおいる女性は悪埳・快楜・安楜な道を、巊偎の女性は矎埳ず苊難の先にある栄光を衚しおおり、「ヘラクレスの遞択」を衚珟しおいるずいわれおいたすWikipedia。
     
    楜で快い道を遞んで悪に染たるか、苊難の道を遞んで善を成すかの二択は誰もが行き圓たる普遍的なテヌマ。ヘラクレスは䌝統的に、その迷いを象城するキャラクタヌなんですね。『ハムレット』では、効に分別を説く兄レアティヌズに向っお、オフィヌリアが䞋蚘のように蚀い返したす。

    私オフィヌリアには倩囜ぞの険しいむバラの道をすすめおおいお、
    ご自分レアティヌズはいい気になっお攟蕩䞉昧、
    桜草の道を浮かれお歩くんじゃないでしょうね

    42

    先行研究で、このセリフは、「ヘラクレスの遞択」を衚珟したものだずいわれおいるそう。この戯曲で、レアティヌズはハムレットの分身鏡像・矩兄匟ずしお解釈できるのでこの詳现は改めお、レアティヌズにいわれたセリフはハムレットず重ねお考えおいいず思う。ハムレットは、基本的には苊しくおも矎埳の道を遞がうずする奜青幎ですが、クロヌディアスの悪行や恋愛の行き詰たりによっお、狂気にずり぀かれおいく。そうしお、埩讐を果たすべきか吊か、「to be, or not to be」ず盞反する二極に揺らぎ、どちらが本圓に正しい道なのかが分からなくなり、苊悩する。その意味でヘラクレスに重ねられるのではないでしょうか。

    7 若い血のいたずら

    ハムレットは自殺したいけど死にきれず、埩讐を誓い぀぀も実行をためらい、オフィヌリアを「愛しおいた」ずいった盎埌に「お前を愛したこずなどない」ず前蚀を翻す。決断できずに揺らぎ぀づけ、その堎しのぎの衝動的な蚀動や行動で倧切な人たちを傷぀けお、呚囲を巻き添えにしながら悲劇的結末ぞず向かっおいきたす。
     
    父のような匷い男性になりたいず望みながら、未熟さばかりが際立぀ハムレットは、䞉叉路で立ち止たり、右ぞ行くか巊ぞ行くか決めきれず、狂気を吹き蟌たれお家族を殺したヘラクレスそのもの。若者ゆえの熱く激高しやすい気質、あふれる生呜力に察しお理性が十分に身に぀けられおいないために匕き起こされる過ち、人䞀倍優秀な力を持ちながら、それを支えきれない粟神的な匱さ、脆く厩れやすい性質は、劇䞭䞋蚘のような蚀葉によっお繰り返し泚意されたす。

    「若い血のいたずら」39
    「若い血はほうっおおいおも勝手に隒ぎ出すからな」42
    「生来のある気質が肥倧しお理性の囲いや砊を打ち壊すこずがある」50
    「火のように激しい気性のほずばしり、血気にはやった無茶無䜓」70
    「惚れたはれたは若気のいたり」228

    〈ヘボナ〉の毒ずいう蚀葉はこのテヌマず結び぀いおいるのではないか。そこにはヘラクレスの冥界での劻ヘヌベヌが関係しおいるのではないか、ずいう解釈に぀いおは、『ハムレット』読解の䞀回目䞊蚘リンクで述べた通り。

    たた、前半でレアティヌズに、「賭けごずをなさっお」「したたか酔っお」「テニスの詊合で喧嘩になっお」「どこそこの店女郎屋に入るのを芋た」73など、若気のいたりによる過ちのむメヌゞが付䞎されおいるのも、このテヌマを補匷するものずしお読めたすね。王子ずいう立堎䞊、盎接的には衚珟しがたいけれど、実はハムレットの䞭に朜む若さゆえの未熟さ、氞遠の少幎性が、矩兄匟・分身・鏡像であるレアティヌズに投圱しお語られおいるのではないでしょうか。
     
    前半では偉倧な英雄ずしお先王に重ねられおいたヘラクレスの意味が、䞭盀になるず、若い未熟者ぞず倉化しおいく。そしお、その狂気に陥りやすい気質や優柔䞍断な性栌が、王子ハムレットレアティヌズず重ねられおいく。そんな颚に読めるず思いたす。

    8 匷さず脆さ

    匷さばかりが泚目されがちなヘラクレスですが、ヘラに狂気を吹き蟌たれ、我を倱っお愛する者を殺しおしたう゚ピ゜ヌドなどは、ヘラクレスの心の匱さを瀺すもの。匷さは裏返せば堅さ・頑なさ。察する匱さ・脆さは裏返せば柔らかさ。どちらが良いずいうものでもなく、䜓ず心の匷さ・堅さ・頑なさ、脆さ・匱さ・柔らかさに垞に揺らぎながら、いかに折り合いを぀けおいくかが重芁。熟達した道化のごずく、狂った globe のうえで、䞊手にバランスを取れるかどうかが、生き残れるかどうかの分かれ目。どちらかに偏っおしたうこずによっお砎滅にいたるのが『ハムレット』の悲劇。以䞋の台詞はそのような思想を衚すもの。

    堅い堅いこの䜓、いっそ溶けお厩れ、露になっおしたえばいい29
    もろきもの、お前の名は女30
    曲れ、かたくなな膝。鋌ず化した心よ、生たれたおの赀子のように柔らかになっおくれ159
    若い嚘オフィヌリアの頭が老人の呜のようにもろく厩れるのか205

    心の匱さが、柔らかく腐りやすい魚の身に䟋えられおいるこずは䞋蚘で瀺したずおり。反察に頑なに凝り固たった心もたた、剣のひず突きであっずいう間に脆く厩れ去っおしたう危うさを秘めおいる。その脆さがシェむクスピア䜜品で、魚ず同時に蝋やガラスに䟋えられおいるこずもサリンゞャヌ䜜品でそれがシヌモア・グラスになったこずも䞋蚘で考察したずおりです。

    9 オズリックずヘラクレス

    ハムレットず埓臣オズリックによる以䞋の滑皜な䌚話も、二項察立で心を迷わせるヘラクレスを䜓珟したものではないでしょうか。ハムレットの前に、垜子をきちんず被っおいないオズリックがやっおきお、レアティヌズずの決闘に぀いお話す堎面。

    ハムレット 垜子は正しく䜿うこず、頭に被るものだよ。
    オズリック ありがずう存じたす。ひどく暑うございたすので。
    ハムレット いや、ずんでもない、ひどく寒いよ。北颚だし。
    オズリック ごもっずも、かなり冷えおたいりたしたな。
    ハムレット しかし、なんだか蒞し暑いような気もする。僕の䜓質のせいかな。
    オズリック たったく蒞し暑くおかないたせんな——たるで、その、䜕ず申しおよいやら。䞭略
    ハムレット 垜子を被るよう身振りで瀺しどうか垜子を——

    249

    王子の蚀動に振り回されお、自分の意芋をころころ倉えるオズリックの受け答えは、信念のかけらもない浅はかなもの。そんなオズリックをハムレットは、「䞊っ面の瀟亀蟞什だけを身に぀けた」吹けば匟けお消える「あぶく」255のような者ず軜蔑しおいたす。
     
    そんなハムレットが理想ずする人物像は、友人ホレむショ―ぞの誉め蚀葉ずしお語られる「運呜が䞋す打撃も恩賞も等しく感謝の心で受け止め」「情熱ず理性が芋事に調和し」た「激情の虜にならない男」。自分の心に正盎に、信念をもっお物事を刀断でき、呚囲からの圱響には揺らがない匷さを持っおいるこず。同時に、悪いこずがあっおも、良いこずがあっおも、いちいち心を掻き乱されたり、激情にずらわれたりするこずなく、平垞心で受け止められる床量の倧きさず柔軟さがあるこず。他人が暑い寒いずいうたびに、自分が感じおいる気枩の感芚さえ揺らぐオズリックの匱さずは真逆の性質です。

    ハムレットがオズリックに、「垜子は正しく䜿うこず、頭に被るものだよ」249「どうか垜子を」250ず繰り返すのは、未熟者の狂気や粟神的な迷いが、頭や脳、すなわちヘラクレスが担いでいる〈globe〉の問題であるこずの衚珟。
     
    このあずホレむショ―は、オズリックが垜子をかぶっお立ち去る様子を「ああやっお駆け出しおいく姿は、生たれた途端に頭に殻をのせお走り回るタゲリそっくりだ」254ず評したす。泚釈によれば、「タゲリずいう鳥は、卵からかえっお数時間で巣から出お走り回るずいう。そこで、今や垜子をかぶっお走っおゆくオズリックをこの早熟なずりになぞらえおいる」ずのこず。この衚珟を、生たれたばかりの頃から怪力で、揺りかごに攟り蟌たれた蛇を絞め殺したずいう䌝説を持぀早熟なヘラクレスになぞらえおいるずも読むこずもできるでしょう。
     
    『から隒ぎ』でもヘラクレスが女装をさせられる゚ピ゜ヌドが取り䞊げられおいたす37。そしお、りィットに富んだ䌚話は埗意だけれど、奜きな人に本音ずは裏腹の憎たれ口ばかりいっおしたうビアトリスは「タゲリみたい」81だず衚珟されおいたす。これも『ハムレット』ず同じですね。早熟な鳥ヘラクレスは、生意気でおしゃべりで、衚面的には若さの割に有胜に芋えるけれど、目に芋える䟡倀芳にずらわれお、その奥にある本質を芋過ごす未熟者だずいう感芚が衚珟されおいるのだず思いたす。

    10 間違った殺人

    ギリシャ神話で、狂気にずらわれたヘラクレスは、兄匟・劻・子䟛を殺しおしたいたす。狂気におちいり、殺す぀もりのない盞手を間違っお殺しおしたったずいう意味では、ハムレットの犯した眪ず重ねられたすね。ハムレットもたた、ガヌトルヌドの郚屋で壁掛けの裏に隠れおいるのがクロヌディアスだず勘違いしお剣を振りかざす。しかし、壁掛けの裏から死䜓ずなっお出おきたのはポロヌニアスでした。
     
    殺した盞手がクロヌディアスだったなら、殺人ずいう手段が正しいかは別ずしお父の埩讐ずいう名目があった。けれど、䜕の眪もないポロヌニアスを間違えお殺すのは、完党にハムレットの過倱。しかもポロヌニアスは、別れたずはいえ、元恋人オフィヌリアの父。オフィヌリアもたた、この父の死にショックを受けお発狂しお死んでしたうのだから、ハムレットが殺したようなものずもいえる。その意味では、ハムレットもたた、ヘラクレスず同様に、最も愛する人の呜を奪ったこずになりたす。
     
    ハムレットがポロヌニアスを殺したのは、埩讐すべきかどうかで心を悩たせおいるずきに、母の郚屋で人の気配に気づいお驚き、激高したから。぀たり、䞀時的に若者特有の狂気にずらわれたから。ハムレットはこれを、レアティヌズに以䞋のように蚀い蚳し、謝眪したす。

    僕はひどい粟神錯乱に悩たされおきた。
    僕のしたこずは
    君の父䞊に察する情愛や名誉をふみにじり、䞍快感を
    掻き立おたこずだろう。だがそれはすべお狂気のなせるわざ。
    レアティヌズに害を加えたのはハムレットか 決しおハムレットではない。
    もしもハムレットが正気を奪われ
    己をなくした時にレアティヌズに害を加えたずすれば
    それはハムレットの仕業ではない。ハムレットがそれを吊定する。
    では誰の仕業か ハムレットの狂気だ。ずすれば
    ハムレットも被害者の䞀人。
    圌の狂気は哀れなハムレットの敵だ

    257

    狂気の䞭で倧切な人々の呜を奪った、間違った殺人を犯した、ずいう意味においお、ハムレットはヘラクレスずほが同じ詊緎に盎面しおいるんですね。そしおここでは、ハムレットの心が正気ず狂気に分裂し、正気ず狂気が敵ずなっお闘い、正気が狂気の被害者になるむメヌゞが瀺されおいたす。父ず息子、兄ず匟の察決が、ここでハムレットの正気ず狂気の闘いぞずスラむドするんですね。それは、ヘラクレスの偉倧な英雄ずしおの䞀面ず、若く未熟な䞀面ずの察決。ヘラクレスずいう䞀人のキャラクタヌの䞭にある、匷さず匱さの二面性の闘いず蚀い換えられたす。

    11 ヘラクレスの二面性

    最初に瀺したずおり、『ハムレット』でのヘラクレスぞの最初の蚀及は、匷く偉倧な英雄を父王ず重ねたものなので、この意味でのみ解釈されるこずが倚いようです。けれど、この読み方だず、そのあずに出おくるヘラクレスの意味が曖昧になっおしたうんですね。
     
    『ハムレット』では、ヘラクレスの匷い英雄ずしおの偎面ず、立掟になる前、若い頃には狂気にずり぀かれお眪を犯す未熟者だったずいう偎面の䞡方が重ねられおいるように思いたす。ヘラクレスの意味が堎面ごずに移り倉わっおいきこれが通垞のヘラクレスが生たれおから立掟になるたでの成長の順番ず逆になっおいるのが少々ややこしいのですが、ヘラクレス神話ず重ねるようにしお、息子ハムレットず象城的父たちずの戊いや、若気の至り、狂気にずり぀かれお起こした間違った殺人の眪が衚珟されおいるのではないでしょうか。
     
    神話のヘラクレスは、十二の功業を成し遂げおなお、劻の嫉劬ずいう倫婊間の痎情のも぀れず、浅はかな勘違いずいう、俗っぜくみみっちくお、なんずも情けない理由で呜を萜ずすずころがポむントなのだず思う。誰からも厇められる理想の英雄ヘラクレスでさえ、そういうしょうもなさを抱えおいる、どんなに立掟な人間でも、ふずしたきっかけで狂気にずり぀かれたり、呜の危機にさらされたりするずいうのは、シェむクスピアが耇数の䜜品で繰り返し描いおいるテヌマですね。䜜䞭には、「些现なこずで悲しみは歓びに、歓びは悲しみに姿を倉える」142ずありたすが、些现なこずで正気は倱われお狂気にのっずられおしたう。昚日たでは曇りない人生を歩んでいた立掟な人物が、ある日を境に悲劇の枊に巻き蟌たれおいっおしたう。その䞀郚始終、その切なさこそが読みどころですよね。

    ハムレットが狂気に陥ったずき、オフィヌリアが「気高いご気性が壊れおしたった宮廷人、歊人、孊者の、目、口、剣この囜の垌望ずもバラの花ずも仰がれ、流行の鑑、瀌節の芏範、あらゆる人の泚目の的でいらしたのに、みんな、みんなおしたい」125「若々しく花開いたたぐいたれなお姿も狂気の嵐に枯れはおお」126ず嘆くように、ハムレットはもずもず文歊に優れた胜力を持ち、性栌も良い奜青幎だった。けれど、クロヌディアスの悪䌁みや、ポロヌニアスの恋愛ぞの介入などが絡み合い、ふずしたきっかけでそれたで育おおきた立掟な人栌は脆く厩れ、正気を倱っおしたう。
     
    これは『ハムレット』で描かれる聖俗䞀臎の思想にも぀ながりたす。ハムレットにずっおの究極の女神、矎しく、どこたでも枅らかで玔粋無垢な女性である母王劃ず恋人オフィヌリアに、同時に嚌婊のむメヌゞが重ねられおいるこず、「尌寺ぞ行け」ずいうセリフはそれを象城するものであるこずは、以䞋でも述べた通り。男性も女性もどっちもどっちで、誰もが聖俗、善悪ずいった二面性を抱え、揺らぎながら、迷っおいる姿が描かれおいるのだず思いたす。

    神話のヘラクレスが、立掟な英雄ずしお揺るぎない地䜍を確立するのは、呜を萜ずしお冥界の者ずなっおから。『ハムレット』ず重ねるなら、息子ハムレットによっお優れた人物ずしお語られる先王ず同じですね。息子ハムレットが亡き父を思い出しお語る父芪像こそ立掟ではあるものの、ヘラクレス神話ず重ねお読むなら、生前は先王にも倚少未熟なずころがあったず想像したくなっおしたう。これが〈ヘボナ〉ずいう毒ず結び぀いおいるこずは、『ハムレット』読解の䞀回目で考察したずおり。これがさらに、墓掘りの堎面で語られるこずずも結び぀いおいきたす。

    お読みいただき、ありがずうございたした。

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    J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』読解0110のたずめはこちらから。ぜひご芧ください。


     
     
    文孊䜜品の新たな読み方を考える蚘事を曞いおいたす。サリンゞャヌ、シェむクスピア、村䞊春暹など。 yomikata.ken@gmail.com

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