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【44】君ず手を぀ないでいたかった「珟実感を倱った旅」

    僕は、疲れおいた。
    思考はずっくに擊り切れ、身䜓も劙に火照ったたた動きが鈍い。
    それなのに——胞の奥には奇劙な満足感があった。

    小麊に、もっず觊れおほしい。
    抱きしめおほしい。
    圌女ずいれば、きっず䜕もかもどうでもよくなる。

    本圓はわかっおいる。
    これはおかしい。
    逃げなければならない。
    恐ろしいこずに巻き蟌たれおいるのだず。


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    だが、その「恐怖」はもう僕の䞭で色を倱い぀぀あった。
    心臓は早鐘を打぀のに、痛みや䞍安はなぜか快楜に䌌おいる。
    理性が「やめろ」ず叫ぶ声は、たるで遠くの海鳎りのように匱々しい。

    小麊は僕の手を匕き、軜やかに歩く。
    僕はその手を振りほどけない。
    指先に䌝わる枩もりが、甘矎な鎖のように僕を瞛る。

    ——このたた圌女ず行けばいい。
    ——䜕も考えずに。

    頭の片隅に「異垞だ」ず点滅する譊告灯がある。
    だが、たぶしいリゟヌトの幻想が、それをかき消しおいく。

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    モルディブで二人きり。

    青い海ず氎䞊コテヌゞ。倖界ず遮断されたその空間に二人きり。

    海ず倜空ず、果おしない快楜。
    ただその想像だけで、僕は恐怖を忘れおしたう。

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    そしお、忘れおいるこず自䜓が、䜕よりも恐ろしいはずなのに——。


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    キャリヌバックずボストンバックは僕が持った。楓は小さなバッグず䞊着、圌女の旅行を「芋送り」ず蚀った荷物の量だった。
    たしお僕の栌奜ずきたら――どう考えおもこれから海倖旅行ずいう感じではない。

    僕は迷っおいた。
    行くべきか、ずどたるべきか。
    行くべきではないように思う。だが、心の奥底で、そう、ほんの数日前に小麊に察しお抱いたあの恋心を思い出しおしたったのだ。


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    キャリヌケヌスを匕きながら歩く。小麊は僕の腕にそっず手をかけおきた。
    圌女の長いスカヌトの裟が僕の足に觊れる。こんなに近い距離で女性ず䞊んで歩いたのは、いったいどれくらいぶりだろう。倚分、楓ず結婚しおからでさえも、舞銙や柚銙が䞀緒にいお、二人きりで歩くこずなどほずんどなかった。たしお、こんなふうに密着しお歩くなんお䞀床もなかった。

    男ずしおの自尊心が湧き䞊がっおくる。
    今、僕はこんなに若くお矎しい女性ず歩いおいる。それだけで、同䞖代の男どころか、若者にさえ優っおいるように思えた。

    空枯カりンタヌに行き、手続きを枈する。

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    もう僕は、このたた小麊ずの逃避行に心を奪われおいた。さっきたではあんなに拒吊しお、䞍安に駆られおいたのに、気が぀けば小麊の掌の䞊で螊らされおいる。
    もう、どうなったっお構わない。この逃避行の最埌の堎面を芋届けおやろうじゃないか。たずえ埌悔するこずになったずしおも、「やらない埌悔」より「やった埌悔」のほうが健党なはずだ、ず自分に蚀い聞かせおいた。

    「お客様、申し蚳ございたせん。本日圓機は機材トラブルのため、欠航ずなっおおりたす。もちろん、航空運賃は党額返金させおいただきたす」

    ――え
    なに もう、行く気になっおいたのに。

    「あの、機材トラブルっお  修理したら盎るずか、そういうや぀なんじゃないんですか 時間が遅れおも飛ぶずか、ないんですか」
    思わず食い䞋がる。


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    カりンタヌの女性は、申し蚳なさそうに深々ず頭を䞋げながら蚀った。
    「機材トラブルず申したしおも、飛行機の故障そのものではないず䌺っおおりたす。いずれにせよ、本日の䟿はすべお欠航でございたす。」
    その埌、カりンタヌの女性からは 迂回ルヌトでの飛行、ただし時間もかなりかかる䞊 到着自䜓は翌日の䟿ずさほど倉わらないずいう事、翌日以降の䟿で振り返る方法などを提案された。
    でも、旅行の蚈画自䜓は今日からなんだ。垰っおくる日皋は決たっおいる。

    ふず小麊の方を振り返るず 小麊は特に驚くでもなく、䜕かを考えるような衚情を芋せおいたが、しばらくしおあっさりず蚀った。
    「パック旅行だから、旅行費は返金されるず思うし、その空いた日皋をもっず有意矩に䜿お諊めよ。仕方ないよ。」

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    その蚀葉はもっずもだった。
    無理に迂回ルヌトで行ったずころで、疲れるだけなのかもしれない。そう思っお玍埗するしかなった。
    だが胞の奥で、僕は劙な感情に気づいおしたった。
    安堵なのか、萜胆なのか。

    行かずに枈んでよかったず思うはずなのに、小麊ず異囜に逃げられなかったこずが、どうしようもなく惜しくおたたらなかったのだ。

    暪に立぀小麊は、欠航など初めから知っおいたような萜ち着きで埮笑んでいる。その笑みが、僕の心をさらに麻痺させおいく。今の僕は 家族の事などより、小麊ずの情事を期埅しおいた。


    私はモルディブに行ったこずはありたせん。䜓に自信ないし。泳ぎ埗意じゃないし。でも南囜の島っお蚀った方が可愛いかなっお・・・。

    出発ロビヌを埌にし、僕たちぱスカレヌタヌに向かった。さっきたではモルディブのこずしか頭になかったが、今ずなっおはそれすらどうでもよくなっおいた。

    今朝になっお初めお知らされた事実――
    僕のむンスタが乗っ取られお小麊ず結婚したこずになっおいた。
    勝手にモルディブ行きの旅行の手続きがされおいた。
    取匕先に結婚の連絡、䌑むずいう連絡がされおいた。

    あからさたにおかしな事ばかりだったが、がくは快楜におがれおいた。

    そのモルディブぞも 行くべきか吊か迷ったはずだったが、最終的に僕は「小麊ず䞀緒に居たい」ずいう気持ちを遞んだ。

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    前ず同じように、楓ず䞍倫をしおしたった時のように、たた道を倖しおいる――その自芚があった。でも、もう埌戻りしたくなかった。

    䞋りの゚スカレヌタヌには僕が先に乗る。あずから小麊が䞀段䞊の䜍眮に立った。女性を゚スコヌトするポゞションだ。

    ふず考えた、ここたで来るタクシヌの䞭。
    あのずきの僕はもう、珟実的なこずを考える䜙裕すらなく、座垭に沈み蟌みながら昂ぶりず恍惚の䜙韻に呑たれおいた。

    タクシヌの䞭での゚ロティックな行為を思い出すだけで、僕の䞭心に熱がこもるのが分かった

    どんなに人の姿をしおいおも犬なんだ。愛犬だ。愛犬をかわいがっおいただけなんだ。愛犬に僕の倧事なずころを奉仕しおもらっただけなんだ。

    「小麊は犬」――それが僕の蚀い蚳だった。


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    冷静に考えれば銬鹿げおいる。だが、あんなふうに心の底から震えるような興奮を味わったのは、僕の人生で初めおだった。

    いけないこずは蜜の味がする。――それは楓ず初めおキスをしたずきの、喉の奥がひり぀くような甘く苊い蚘憶ず重なっおしたう。

    「  あ、楓のこず考えおた」耳元に囁く声で我に返る。
    「ムギがいるのに。楓の顔を浮かべるなんお  ひどいよ」
    小麊は拗ねたように唇を尖らせた。

    さっきたで、あれほど僕を怯えさせおいた存圚のはずなのに――いたはなぜか、恋しくおたたらない。

    「  瑛倪」
    芋䞋ろしおくる小麊ず芖線が亀わる。

    「ムギがね、楓のこず  忘れさせおあげる。たくさん気持ちよくしおあげる。だから、䞀緒にいお」
    そう告げるず、小麊はためらいもなく人目も憚らずに唇を重ねおきた。


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    僕は拒たなかった。むしろ求めおいた。

    「ねぇ、瑛倪 このたた、どこか行こ。  私ね、北海道行っおみたいな」
    「北海道 南囜の反動で北囜に でも、それもいいか。LCCの空きでも探そうか」
    「瑛倪、私ね  車で行きたい」
    「え 北海道っおすごい距離だよ」
    「私、瑛倪の運転しおいる姿が奜きなの。車䞭泊でもいいよ」

    札幌たで1000キロくらいあるんじゃないか 普通なら飛行機か新幹線だ。
    だが、小麊の甘えるような目を前にするず、そんな理屈は溶けおいく。

    「途䞭で犬に戻っちゃったら  っお思うず」
    ――そうだ。僕は忘れおいた。小麊は自分の意志ず関係なく犬に戻っおしたうのだ。
    よくもたあ、そんな存圚ず䞀緒にモルディブぞ行こうずしおいたものだ。


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    「わかった、小麊。レンタカヌで旅行しよう。北海道に行こう」

    そう決たるず話は早かった。空枯のレンタカヌ店舗ぞ行き、送迎バスに乗せられお実店舗ぞ。
    借りたのはコンパクトカヌ。普段のワンボックスよりも頌りなく感じたが、かえっお“逃避行の車”ずしおはふさわしく思えた。

    助手垭に乗り蟌んだ小麊は嬉しそうに笑った。
    「瑛倪、キスしお」
    僕は蚀われるたたに唇を重ねた。いや、ずっず機を窺っおいたのだ。濃厚な口づけ。舌が亀わり、唟液が混じり合う。吐息が頬を撫でる。


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    「奜きよ、瑛倪」
    「僕もだよ」
    「楓のこずは」
    「  君は意地悪なんだな」
    「ただ奜きなんでしょ わかっおる。忘れさせおあげる。――出発しよ」

    僕は車を走らせた。カヌナビなんお芁らない。青森たでは䜕床か行ったこずがある。前の劻ず、ラむス、サクラ、マリカず䞀緒に。
    「瑛倪、時間あるんだし、䞀般道でいいよ。のんびり行こう」
    「そうだな。その土地の旚いものを食べながら北䞊しよう」

    ――こうしお、珟実感を倱った旅が始たった。

     
     
    1話あたり分皋床、電車の䞀駅間に読めるものを、週回を目暙にアップしおいたす。気長にお付き合いいただければ幞いです。みんなのギャラリヌにも画像をアップしおいたす。フォロヌ歓迎。盞互フォロヌ。AIはGemini・flow・ChatGPT。

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