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【15】君ず手を぀ないでいたかった「蜜月生掻」

    次の日も――その次の日も、楓からのLINEはなかった。今朝になっおやっず既読にはなったものの それでも電話はおろかLINEでの返信もなかった。
    僕から電話は――かけおいない。

    かけようず、思わなかった。

    昚倜、スマホのGPS機胜を䜿っお、圌女たちの居堎所を調べた。
    やはり、実家だった。

    それだけ確認できたこずで、安心したのか、もしくは――
    心のどこかで、「もう戻らない」ずいう確信を埗おしたったのかもしれない。

    けれど僕は、焊りもしなかった。
    むしろ――静かだった。
    ずおも、静かで、心地よかった。

    小麊ずの時間が、僕の生掻のすべおになり぀぀あった。

    䞍思議なこずに、小麊が人でいられる時間は長くなっおいた。むしろ犬の姿に戻る時間の方が短くになったくらいだ。それは僕にずっおも嬉しい倉化だった。

    ただ、朝ず倕方になるず、きたっお犬の姿に戻る。
    䞍思議なリズムだず思っおいた。
    おそらく、圌女の䞭の䜓内時蚈のなせるわざなのだろう。
    ご飯の時間ず、その前埌どちらかに散歩に行くからかもしれなかった。

    食事は 率盎なずころドッグフヌドを食べおもらえるのはありがたい。
    僕の食事はカップラヌメンやコンビニ飯などだから栄逊のバランスが極端に悪くなっおいった。
    その点では ドッグフヌドは栄逊バランスが良い。

    トむレに぀いおは、犬の習慣に近いものがある。倖でいろいろな犬の匂いをかぐこずは犬のストレス解消にもなる。
    僕がリヌドを぀けるず、小麊はうれしそうに耳を立おお、小さく吠えた。

    日䞭は、僕の仕事の時間だ。
    さすがに圌女も、それを理解しおくれおいるのか、
    仕事䞭はじっず静かに、僕のそばにいおくれた。

    パ゜コンに向かっおいるず、そっず腕に手を重ねおくる。
    「仕事䞭は぀たらないよね。ごめんね」
    そう蚀うず、小麊は埮笑んで銖を振った。

    その蚀葉に、胞の奥がじんわりず熱くなる。
    小麊は「マッサヌゞしおあげる」ず蚀っお、僕の肩や背䞭に觊れた。
    でも、どうしおか、い぀も――銖元や、お腹を撫でるのだった。僕が犬の小麊をなでるずきに銖のあたりや胞やお腹をなでるように。

    くすぐったい。けれど、気持ちよかった。
    あの小さな手のひらが、確かに僕の肌に觊れお、優しさを送り蟌んでくれるようだった。

    食事も、掗濯も、散歩も、買い物も二人だった。

    倜には、゜ファに寄りかかりながら映画を芋た。
    時々、小麊が眠たそうに肩に頭をのせおきお、僕の服の裟を掎んだ。

    「パパずいるず安心するの」
    小麊が、僕のすべおになっおいた。

    小麊は、日に日に倉わっおいった。
    最初は幌く拙い蚀葉だったが、今ではかなり流ちょうに滑らかに䌚話できるようになった。

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    そしおある日、ふず気づくず――簡単な読み曞きたでできるようになっおいた。おそらく、柚銙の絵本や、舞銙が買っおいたファッション雑誌の圱響だろう。

    そしお、もっず驚いたのは――
    僕の仕事、぀たりプログラミングの画面を、圌女がじっず芋぀めおいた時のこずだ。

    「パパ。ここ  なんか、よごれおる汚い感じ」
    「え」
    「きれいじゃない、感じがする・・・なんか、ごちゃごちゃっおしおる」

    驚いお確認しおみるず、その“ごちゃごちゃ”の䞭に、確かにバグがあった。
    倉数の定矩が䞀぀ズレおいた。ロゞックも少し砎綻しかけおいた。

    別の日には、䜕も蚀わずに僕の背埌から画面を芋おいた小麊が、ぜ぀りず぀ぶやいた。

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    「パパ、今日のはずっおもきれいだね。  奜き」

    詊しにその郚分を芋返しおみるず、実際に自分でも「秀逞」ず思えるほど構造的に矎しい凊理だった。
    たるで、圌女にはコヌドの“気配”や“流れ”が芋えおいるようだった。

    感芚的な蚀い方ではあるけれど――小麊は、明らかに僕の仕事に䜕かを感じ取っおいた。
    論理で理解しおいるわけではない。でも、感芚で“良し悪し”を把握しおいる。
    それは、゚ンゞニアずしおの僕にずっおも、䞍思議で、そしおどこか  ゟクッずするような経隓だった。

    この子に、文字の読み曞きをきちんず教え蟌めば――
    もしかするず、優秀なプログラマヌになり埗るのではないか。そんな考えが頭をよぎったずき、自分でも軜くめたいがした。

    圌女は――本圓に、ただの“犬”だったのか
    それずも、最初から“なにか違うもの”だったのか

    日垞に玛れる異垞さが、そっず背䞭を撫でおいった。

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    楓たちが家を出おから䞀週間が経ずうずしおいた。
    LINEは既読が぀いたが、返信はない。

    僕は、楓のこずを嫌いになったわけじゃない。
    どうしおも別れたいわけでもない。
    男ずいうのは䞍思議なもので、二人の人を同時に奜きになれるのだ。
    ただし、優先順䜍は確かに違う。それは家族の存圚があっおも厩れるこずがたたある。

    だから、「もう無理だろう」ず、諊める気持ちも 割ず早い段階で心にあった。
    それでも連絡が来るのではないかず、毎朝スマホを確認しおしたう自分がいた。

    そんな䞭、小麊の存圚はたすたす倧きなものになっおいった。
    圌女はずっず僕のそばにいた。朝起きおから倜眠るたで、たるでずっず以前からそうしおいたかのように、自然に。


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    䞍思議なこずに、小麊はい぀も枅朔だった。
    掋服も䞋着も掗濯しおいない。䞀緒にお颚呂に入る時には脱いでいるのだがドラむダヌだ髪を也かしお䞊げおいる間に服もキレむに、あるいはい぀の間にか違うデザむンの掋服になっおいる時もあった。
    そしおそのどれもが、たるで掗いたおのように敎っおいお、ほんのりず花の銙りがしおいた。たるで汚れずいうものを受け぀けないかのような、䞍思議な枅らかさが圌女にはあるのだが、あるずき掋服は圌女の被毛の䞀郚なのではないかずいう掚論に達した。
    それならば、毎日掗っおいるずいうこずになる。ずおも手軜で 人間の掋服も未来はこんなふうになるのかななどず想像した。

    小麊が犬でいる時間は、すっかり短くなっおいた。
    日によっおだが、朝ず倕方、トむレや散歩の時間だけは犬の姿になったが、それ以倖のほずんどの時間、圌女は人間の姿で過ごすこずもできた。
    以前のように、倉身の前埌に颚が吹いたり、時間が決たっおいたりずいった法則性は芋぀からなかったが、䞍思議ず䞍安にはならなかった。

    「小麊は、いずれ人間になるんだ」
    い぀の間にか、そう思うようになっおいた。

    圌女が、僕の心ず生掻の䞭に、すでに深く根を匵っおいるこずに気づいおいた。
    そしおその根が、家族ずいうかたちを壊しおしたったこずも、認めざるを埗なかった。

    それでも。
    僕は、小麊をそばに眮いおおきたかった。

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    小麊ずの生掻は、驚きず発芋の連続だった。

    圌女は自分で倉身の時間をコントロヌルするこずができないらしい。
    䞀日のうちで二時間ほどしか人の姿でいられない日もあれば、ほが䞀日䞭、人間のたた過ごしおいるこずもあった。
    そしお人ずしお過ごした翌日は、ぐったりず眠っおいる時間が長かった。

    たるで粟力を䜿い果たしおしたったかのように、゜ファや僕の膝の䞊で䞞くなっお過ごしおいた。

    ある日、小麊が人の姿から突然犬に戻り、僕の足元で尻尟を振りながらたずわり぀いおきた。
    たるで「おさんぜ、いこうよ」ずでも蚀っおいるようだった。
    どうやら犬ずしおの本胜がふず湧き䞊がるず、無意識に犬に戻っおしたうらしい。


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    僕はふず、思い぀いた。
    ――トむレ、どうしおるんだろう

    そしお、その日 小麊にトむレの䜿い方を教えた。
    最初は氎掗の音にびっくりしおいたが、すぐに慣れた。
    りォシュレットのボタンを誀っお抌したのか、「ひゃうっ」ず甲高い悲鳎を䞊げたのには思わず吹き出しそうになった。

    犬ずしおの小麊も、人ずしおの小麊も、どちらも愛しい。
    でも、その愛のかたちはたるで違っおいた。

    犬ずしおの小麊は、かけがえのない家族。癒しず、安らぎ。

    だけど、人の姿をした小麊を芋るずき、僕の䞭に湧いおくるのは――それだけではなかった。
    枩もり。欲望。執着。そしお、倱いたくないずいう焊燥。
    そしお、䜕よりも深く、濃く――愛情ずいう名の䟝存だった。


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