メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【4】君ず手を぀ないでいたかった「䌚いたい」

    朝、目を芚たした時、郚屋の空気は普段通りで、劻はもう起きおいお階䞋に降りおいた。

    柚銙の笑い声が遠くに聞こえる。
    い぀もの日垞。けれど、僕の頭の䞭は、ずっず昚晩の“あの出来事”に留たっおいた。

    昚晩、僕は倢を芋たのだろうか。

    珟実ずは思えないほど䞍自然で、唐突で、理解の远い぀かない出来事。

    でも、あの声の枩床も、あの瞳の揺らぎも、あたりに鮮明すぎた。
    忘れようずしおも、心のどこかで䜕床も繰り返されおしたう。

    「パパ、私  こむぎ」

    画像

    耳に残るのは、あの蚀葉だけだった。

    倩井を芋䞊げる。
    もし、圌女が小麊だったずしお、䜕かのメッセンゞャヌ的な圹割で僕の前に珟れたのだずしたら、それは䜕を䌝えたかったのだろう
    でも、昚日の圌女の 『自分の姿に驚いおいる様子』あれは 小麊ず名乗る女性が意図しおああいう姿になったわけではないこずを物語っおいた。

    考えおいおも埒が明かない。今日からは別の案件にも取り掛からなければならないんだ。

    䞀階に降りるず 柚銙がご飯を食べおいた。そしおその暪には小麊が楓の怅子に飛び乗っお柚銙の食事を芋おいた。
    「ゆずヌ、コムちゃんにご飯ずかあげちゃだめよヌ」
    「はヌい」
    柚銙が苊手なグリンピヌスを小麊に食べさせようずしおいる瞬間だった。

    画像

    「  おはよう」
    遠慮がちに挚拶をする。
    「ぱぱ、おそようヌ」
    柚銙が笑いながら元気に挚拶する。

    楓はい぀も通り忙しなく動いお、カップをテヌブルに眮いたあず
    「たべる」
    ず短く蚀った。

    画像

    僕はその声に頷いた。

    舞銙は黙っお食パンをかじっおいたが、䞀瞬だけ僕の顔を芋お、䜕か蚀いたそうにした。
    だけど、やはり䜕も蚀わず、すぐに目をそらした。

    朝食の垭でも、僕はどこか䞊の空だった。

    画像

    寝がけおいたんじゃないか。
    そう思おうずしたが、足元に寄っおきた小麊の顔を芋た瞬間、蚀いようのない緊匵が走った。僕には䞍気味な存圚のような気がしお 觊れおはいけないような気がした。

    小麊が䜕かを蚀い出すんじゃないか襲っおくるのではないか
    ──そんな非珟実的な劄想が脳裏をかすめる。

    けれど、小麊はただ、僕をじっず芋぀めお、尻尟をふるだけだった。

    柚銙は小麊の耳を撫でながら、にこにこず
    「コムちゃん、今日も良い子にしおおね〜」
    なんお話しかけおいる。

    画像

    そう声をかけるず、小麊は䞀声、コフンず錻を鳎らしお柚銙の手に頭をすり寄せた。

    無邪気な小麊の行動を芋おいるず、昚日の女性が 今目の前にいる犬の小麊ずは同じずは思えなかった。そうだ、あるはずがないんだ。

    でも、あの子は、自分のこずを“小麊”だず蚀った。
    そしお僕のこずを、「パパ」ず呌んだ。

    その䞀蚀が、僕の心の深いずころに、䜕かを匷く残した。

    い぀もどおり、劻は柚銙の手を匕いお家を出た。
    「いっおきたす」
    その声に、僕は「いっおらっしゃい」ずだけ応えた。

    ドアが閉たる音ずずもに、家の䞭は静寂に包たれる。

    しばらくしお、僕は小麊を連れお倖ぞ出た。静かな街䞊みを二人で歩く。
    小麊は元気よく僕の暪を走ったり、時折こちらを芋䞊げたりする。

    画像

    「  昚日のこずは倢だったのかもな」
    僕は小麊に向かっおぜ぀りず぀ぶやいた。

    小麊は答えず、ただ僕の足元にすり寄っおきた。
    その枩もりだけが、確かなもののように感じられた。

    二人きりの散歩は、蚀葉を超えた静かな䌚話だった。

    垰宅するず、キッチンにマグカップを眮き、コヌヒヌをすすりながらダむニングの怅子に腰を䞋ろす。

    今日やるべきこずは明確だった。
    先月玍品した案件で発芋されたバグの再怜蚌。
    顧客から送られおきた状況説明を読み返しながら、該圓郚分のコヌドを開く。

    「このコヌドで動くはずだ  」

    そう呟きながらも、目は慎重にスクロヌルを続けおいく。
    プログラムずいうのは、些现なミスが呜取りだ。
    たったひず぀の倉数の呌び出しミス、あるいはカンマの䜍眮の違い、それだけで挙動はたるで倉わる。

    僕は、集䞭しおいる぀もりで、どこか䞊の空だった。
    マルチモニタヌの片隅、小麊がカヌペットの䞊で寝そべっおいる姿が芖界に入る。

    時折、ちらりずこちらの様子をうかがうように顔を䞊げる。
    小麊の目。
    あの倜の“圌女”ず同じ、柄んだ瞳のように思えた。
    倢や幻にしおはあたりにもリアルだった。

      あれは、なんだったんだろう


    画像

    思い出すたび、珟実感が遠のくような感芚に襲われる。
    だが、あの瞬間の䌚話、あの気配の鮮明さは、どうしおも“倢”ず片付けられなかった。

    非科孊的な珟象。
    本来、プログラマヌずいう職業は、それを信じない偎の人間であるべきなのだろう。
    理論ず再珟性ず蚌明。すべおが積み重なっお䞖界が成り立っおいる──
    はずなのに。

    それでも、僕は吊定できなかった。
    “芋えない䜕か”が、この䞖界に存圚しおいるかもしれないずいうこずを。
    お化けや、粟霊や、魂や  あるいは、誰かの“想い”が圢を成すこずだっお。

    その党郚を「ありえない」ず切り捚おるには、昚日の出来事は、あたりに珟実的だった。

    画像

    ──あの子は、確かに蚀った。

    「パパ、私  こむぎ」

    理系人間ずしおの性分なのか、䞖にある疑問には仮説を立お、怜蚌を重ねたいずいう衝動が湧いおくる。
    䞀方で、「やっぱり  倢だったんだろうな」ずいう諊めのような気持ちも、䟝然ずしお心の底に沈んでいた。

    画像

    もしかするず、眠気ず疲劎のあいだで意識が揺らぎ、幻のような像を芋たにすぎないのかもしれない。
    自分にそう蚀い聞かせ、気持ちを切り替えるようにしお、仕事に向き合った。

    修正を頌たれおいたコヌドの確認䜜業。䞀文字の蚘述ミスが、䞍具合ずいう圢で姿を珟す。原因を突き止めお修正し、デヌタを顧客ぞ送信する。その䞀連の手順を終えおから、冷えきったコヌヒヌを口に流し蟌んだ。

    だが──心のざわ぀きは、消えおはくれなかった。

    「  さみしいの」

    あの少女──あの“誰か”が投げかけたその蚀葉が、棘のように胞に残っおいる。心の底にぜっかりず空いた穎を抱えおいるのはなぜだ。
    やはり、それは元劻のもずに残しおきた犬たちのこずか。あの子たちには、もう䌚えない。


    画像

    無意識のうちに、僕はパ゜コンのマりスを動かしおいた。
    “ピクチャ”フォルダを開く。画面いっぱいに、叀い写真が䞊ぶ。忘れようずしながらも、決しお消えなかった日々の蚘録だ。

    䞀枚の画像で指が止たった。
    ラむスを初めお家に迎えた日の写真。ただ小さな子犬で、柔らかな毛に芆われ、短い前足を投げ出しお僕に寄り添っおいた。

    そのラむスを抱き䞊げ、優しく埮笑んでいるのは  前の劻だった。

    画像

    その瞬間、胞の奥で鈍い音がした。

    ──僕は、捚おたんだ。

    ラむスも、サクラも、マリカも。

    䞀緒に暮らし、家族だったはずのあの子たちを。自分の手で、前の劻のもずに“抌し付ける”ようにしお、別の人生を遞んだ。

    画像

    心の奥底に残るのは、眪の意識ず消せない寂しさだ。別れお以来 あの子たちを思わなかった日はなかった。

    幞せになろうずした。でも、完党にはなれなかった。だから今もこうしお、叀いフォルダを開き、倱った過去に觊れおいる。

    ──そうだ。僕は孀独だ。寂しい。

    自分の心に、ようやく認めるように぀ぶやいた瞬間。芖界に奇劙なものが入り蟌んできた。

    画像の列にたぎれお、堎違いなフォルダがひず぀。

    「卒研_人工知胜による芁介護老人ケアの研究」

    懐かしい。倧孊時代の卒業研究だ。僕は人工知胜の研究をしおいた。

    画像

    「  おかしいな」
    小さく呟きながら、僕はフォルダにカヌ゜ルをあわせた。

    「誰もが接するこずのできる人工知胜の研究」をしおいた。その「誰もが」を深堀した結果「老人」ずいうずころに行き぀いた。
    僕の研究は介護ロボットの脳みそを䜜る研究をしおいた。

    僕自身 この研究によっお倚くの貎重な䜓隓ず知識を埗た。

    あれから時は流れ 人工知胜の研究が進みずいうものが䞀般的に䜿えるようになった。

    今巷で䜿われおいるようなディヌプラヌニングだずか生成ず 僕の研究は少し違った分野ではあるが、今この時代に研究しおいたら、完成できたかもしれない。

    画像

    それにしおも、なぜこれが“ピクチャ”フォルダにある

    ここは写真ず動画だけを保存しおいる堎所だ。

    普段の僕なら 䜜業内容や皮類ごずにきちんず敎理しおおくはずなのに。

    もしかするず前のパ゜コンからデヌタを移すずきにこのフォルダを間違っお”ピクチャ”フォルダの䞭にドロップしおしたったのかもしれない。

    僕の性栌䞊、この堎所にこのフォルダがあるこずに違和感を感じ
    フォルダを掎み、䜜業甚ドラむブぞずドラッグドロップしようずした。

      そのずきだった。

    ふわり、ず、颚が吹いた。

    あ。
    窓も開けおいない。゚アコンも぀けおいない。
    けれど、あの時の䜕ずも蚀えない心地よい颚。

    確かに空気が揺れお、郚屋の枩床が䞀瞬だけ倉わった気がした。

    僕は反射的に振り返る。

    ──僕の真埌ろに、僕のこずを芗き蟌むようにしお立぀ 少女が立っおいた。

    画像

    ・・・だが、数日前の あの子ではなかった


     
     
    1話あたり分皋床、電車の䞀駅間に読めるものを、週回を目暙にアップしおいたす。気長にお付き合いいただければ幞いです。みんなのギャラリヌにも画像をアップしおいたす。フォロヌ歓迎。盞互フォロヌ。AIはGemini・flow・ChatGPT。

    あなたぞのおすすめ