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敗北。#なんのはなしですか。

    ──── 言葉をすべて書き尽くしてしまえば、そこには何の余白も残らない。


    メタファーを愛する身として、世界をただ明快めいかいに説明することは味気なく思える。

    輪郭りんかくをあえて曖昧あいまいに濁にごし、核心をそっと削そぎ落とす。

    その空白に、読み手がそれぞれの記憶や感情を投影とうえいする。

    その想像の旅に委ゆだねる瞬間こそが心地よい。



    余計な装飾も、過剰な説明も、私の世界には必要ない。
    多くを持たない静けさの中にだけ、本質が宿ると信じていた。


    しかし、その静寂は容易よういにかき乱される。

    感情や表現を便利に分類し、整然とラベルを貼り付けていくハッシュタグというシステム。
    それは、言葉のグラデーションを強引に区切る行為であり、私が愛するメタファーとは、どうしても真逆の地平にあるように思えてならない。

    曖昧さを許さないその記号は、私の削ぎ落とした余白を、無粋ぶすいに説明してしまうような気がして息苦しい。


    それなのに、そのハッシュタグという記号の力を借りることで、私の言葉が広く世界の海へと流れ出し、圧倒的な数の視線に晒されるというのも、紛まごうことなき事実なのだ。


    通知の欄が鮮やかな数字で埋まっていく。
    増え続ける「 スキ 」の嵐。
    それは、普段は心の奥底で息を潜ひそめていたはずの、浅浅とした承認欲求を呼び覚ます。


    見つかりたくないと言いながら、ラベルを貼られたことで見出される快感に、胸の奥がむくむくと脈打ち始める。


    私は、自ら手折たおった言葉の死骸しがいを、記号という名の市場へ並べている。

    ハッシュタグに切り売りされた私の言葉は、誰かの指先によって記号的に消費され、瞬またたく間に掠かすり去られていく。
    その浅ましさに身を震わせながら、同時に、その記号がもたらす数字の全能感に、私は甘やかに溺おぼれている。

    メタファーの夜陰やいんに紛れ、孤高ここうに静寂なままでいたかった。
    それなのに、システムの手のひらの上で、他者の眼差しという毒を自ら喉へと流し込んでいる。
    聖域を汚しているのは、誰あろう私自身だ。


    この記号の檻おりを拒こばむ潔いさぎよさもないまま、差し出された加熱した熱狂を、両手で掬すくい上げている。
    その二枚舌な飢うえが、言葉を愛する私をどこまでも裏切り続けていくようで、どうしようもなく悔しくて、たまらないのだ。

    なんのはなしですか。


    #なんのはなしですか という、圧倒的な力に屈した呟つぶやき。

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    私は まだ、夜を乗りこなせそうにないな。

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