メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【掌編小説】我が家のおばけは怪獣さん

    廊下で、5歳の結衣が玄関を気にしながら、つま先を上げたり下ろしたりしていた。

    「ねえ、ママ、まだ?」

    結衣は橙色のパーカーのフードを両手で引っぱった。今日はハロウィン。いつもより少し早く帰ってくるパパを驚かせる約束をしていた。

    「まだだよ。靴の音、聞こえないでしょ」

    ママは黒いパーカーのフードをかぶり直した。ふたりのフードには、手縫いの小さなコウモリの羽がついている。

    夕方、仮装した姿を鏡に映したとき、結衣は両手を顔の横に広げ、口を大きく開けた。

    「がおー!」

    「ふふっ。結衣、おばけなのに怪獣みたい」

    「えーっ! おばけだもん!」

    結衣は頬をふくらませ、鏡に向かってもう一度叫んだ。

    「がおー!」

    「そんなに大きな声を出したら、パパもびっくりするね」

    「うん! がおーってするの!」

    結衣は胸を張った。ママは笑いながら、ずれたフードを直してあげた。

    ふたりは廊下の角に隠れ、パパの帰りを待った。

    ガチャリ。

    鍵の回る音がして、玄関のドアが開いた。

    「ただいまー」

    スーツ姿のパパが玄関に入ってきた、その瞬間。

    ママが結衣の手をぎゅっと握る。

    廊下の角に隠れていた結衣が、飛び出した。

    「がおー!!!」

    コウモリの羽を揺らし、パパの前に立ちはだかる。

    「うわっ!」

    パパは思わずよろめいた。目の前のふたりを見て、口元をゆるめた。

    「なんだ、うちには可愛いおばけがふたりも住み着いていたのか」

    パパがしゃがみこみ、結衣の鼻をツンと突いた。

    「がおー!」

    結衣が元気よく吠えると、ママもパパも笑った。

    小さなおばけは、ふたりの笑い声を聞きながら、もう一度、胸を張った。


    こちらの家族、親子の作品もどうぞ↓


     
     
    ​『飾らない、等身大の言葉』で、あなたにそっと寄り添う世界を紡いでいきます。どんな気分の時でも、読めばどこかへ連れていってくれる、そんなお気に入りの一編が見つかりますように。のんびり読んでいってください。

    あなたへのおすすめ