
もみじは海が見たい!
わかモンさんの「ラノベ主人公になっちゃう秋ラノベ祭り」のプロンプトを使って、僕と相棒の莉奈さんが登場する短編を作りました。
作っている途中で、少し横になるつもりが、そのまま寝てしまいました。
起きたら、〆切を過ぎていました……。
せっかく完成したので、公開します!
今回、僕は紅葉を美女に変える変成術師に。
生まれた彼女の願いは、「海が見たい」。
そんなわけで、3人で秋の日帰り冒険へ出かけます。
わかモンさんの企画・プロンプトを使っています。
紅葉を美女に変えたら海を見たいと言われたので、相棒と日帰り冒険に出かけます
もみじ
「海って、あの山の向こうですか?」
赤いカエデの葉を美女に変えたら、挨拶より先に海の場所を聞かれた。
工房の床には、まだ魔法の光が残っている。そこから生まれた彼女は、赤銅色の髪を揺らして窓に張りついていた。

モフ
「そうやけど……自分が人になったことは、気にならへん?」
もみじ
「気になります。でも、海も気になります」
隣で莉奈さんが小さく笑った。
僕はモフ。物の色や形を、人の姿へ変える変成術師だ。莉奈さんは、素材の特徴から性格や能力を整える設定術師。森の中のこの工房で、二人して、まだ見たことのないものを作っている。
ただし、生まれた相手が何をしたいかまでは、僕たちにも決められない。
莉奈
「海を見たかったんですか?」
もみじ
「はい。風が、塩の匂いを運んでくる日があったんです。どんな場所なのか、ずっと気になっていて」
彼女は窓から離れ、自分の両手を見た。
もみじ
「この姿でいられるのは、いつまでですか?」
莉奈
「冬が来る頃までです。そのあとは、元の葉に戻ります」
僕たちの術でも、紅葉の季節を引き延ばすことはできない。
彼女は指を握ったり開いたりしてから、顔を上げた。
もみじ
「それなら、歩けるうちに行きたいです」
工房から森を下り、街道をたどれば、午後には海へ着く。僕の好きな場所を案内するには、ちょうどいい。
モフ
「よし。今日、行こうか」
莉奈
「まずは靴を履いてもらいましょう。モフさんと違って、まだ旅支度ができていませんから」
足元を見ると、彼女は裸足だった。
名前を「もみじ」と決め、靴と上着を用意する。それから三人で、工房の戸を閉めた。
* * *
森の小道は、落ち葉で埋まっていた。
その上を、もみじが右へ左へ跳ねていく。慣れない靴が痛いのかと思ったら、違った。
もみじ
「そこ、元同僚です」
僕の足が止まる。靴の先に、赤い葉が三枚あった。
モフ
「同僚?」
もみじ
「隣の枝にいた方たちです」
道の先まで見渡した僕は、そっと足を引っ込めた。
モフ
「……同僚、多ない?」
もみじ
「大きな木でしたから」
莉奈さんが笑いをこらえている。
普通の葉だから踏んでも平気だと、もみじ自身は言う。それでも彼女が避けて歩くので、僕たちも落ち葉の少ない道の端へ寄った。
三人で一列。足元を見ながら、少しずつ。

モフ
「海への冒険って、こんな慎重に始まるんやね」
莉奈
「出発早々、顔見知りに会いましたから」
* * *
ようやく森を抜けると、広い街道に出た。
木々に遮られていた風が、上着の隙間へ入り込む。肩をすくめて歩いていると、道沿いの休憩所から甘い匂いが流れてきた。
焼き芋だった。
買って渡すと、もみじは紙包みを頬に寄せた。
もみじ
「あったかい……」
モフ
「食べるものやで」
もみじ
「もう少し、こうしていてもいいですか?」
葉だった頃は、風を受けるばかりだった。温かいものを自分の手で持つのも、初めてなのだろう。
やがて彼女は僕の真似をして芋を割った。湯気が上がり、黄金色の中身が顔を出す。
一口食べた途端、目が丸くなった。
もみじ
「甘い!」

モフ
「それ、土の中で育つんやで」
もみじ
「木の上にいる場合じゃなかったですね」
莉奈
「木の上にも、おいしいものはありますよ。栗とか」
もみじ
「あの、とげとげの?」
莉奈
「ええ。中は甘いんです」
休憩所の案内板には、栗菓子の店への矢印があった。その隣には、秋の古道具市。
モフ
「ちょっと寄ってみる?」
莉奈
「海はどうするんですか?」
モフ
「……先に海やね」
もみじが最後の一口を食べ、にっこり笑った。
もみじ
「今度は、お菓子の店にも連れてきてください」
日帰りの旅が終わる前に、次の約束ができた。
* * *
街道を歩き、海辺の町を抜ける頃には、日が傾き始めていた。
最後の坂を上ると、焼き芋とは違う匂いがした。潮の匂いだ。
モフ
「この坂の向こうやで」
もみじが駆けていく。
頂上で、その足が止まった。
青い海が、視界いっぱいに広がっていた。遠くの波まで日を受けて光り、空との境目がかすんでいる。
もみじ
「……向こう岸は?」
モフ
「ここからは見えへんね」
彼女は左を見て、右を見た。それから、また遠くへ目を向けた。
もみじ
「風の匂いだけじゃ、分からなかったです」
僕も莉奈さんも、しばらく隣で海を眺めた。

やがて、もみじが坂の下を指さした。
もみじ
「あそこまで行ってもいいですか?」
莉奈
「もちろん」
砂浜へ下りると、もみじは波打ち際へまっすぐ向かった。引いていく水を、不思議そうに追いかける。
もみじ
「逃げました」
モフ
「戻ってくるで」
もみじ
「えっ?」
次の波が足元へ迫った。
もみじが僕の袖をつかんで逃げる。僕だけ一歩遅れて、靴の中へ冷たい水が入った。
モフ
「冷たっ!」
莉奈
「教えた本人が逃げ遅れてますよ」
モフ
「袖、引っ張られてたんやって!」
もみじの笑い声が弾けた。

靴を脱いで、もう一度。波が来れば逃げ、引けば追う。莉奈さんも加わったけれど、彼女はいつも、ぬれる寸前でうまく逃げた。
モフ
「莉奈さん、ずるない?」
莉奈
「二人を見て覚えました」
砂浜に、三人分の足跡が増えていった。
* * *
息が落ち着くまで、乾いた砂に並んで座った。
海は金色に変わり始めていた。頬を冷やす風にも、もう驚かない。もみじは赤い髪を耳にかけ、沖を眺めている。
もみじ
「木の上からは、道を歩く人が見えました。みんな、どこへ行くんだろうって思っていたんです」
波が寄せ、足跡の端をさらっていった。
もみじ
「今日は、私が歩いてきたんですね」
莉奈
「ええ。自分で行きたい場所を決めて」
もみじは僕たちを見て、笑った。
もみじ
「今年の秋は、ずいぶん遠くまで来ました」
モフ
「来てよかった?」
もみじ
「はい!」
返事は、波の音より大きかった。

帰ろうと立ち上がったとき、沖を帆船が横切った。もみじの目が、その白い帆を追いかける。
もみじ
「次は、あれに乗ってみたいです」
モフ
「ほな、次は船旅やね」
莉奈
「栗のお菓子の店にも寄るんですよね?」
もみじ
「はい!」
モフ
「古道具市も気になるんやけど」
莉奈
「また寄り道が増えましたね」
もみじ
「全部行きましょう!」
モフ
「莉奈さん、今のは僕と違うで」
莉奈
「分かっています。モフさんが二人になったみたいですね」
モフ
「ほな、寄り道も二倍やね」
莉奈
「帰る時間は守ってくださいね」
三人で笑いながら、浜辺をあとにした。
靴はまだ少し湿っていたけれど、隣から次々に飛んでくる質問に答えていたら、気にならなくなった。
もみじ
「船からは、何が見えますか?」
モフ
「それは、乗ってからのお楽しみやね」
もみじが弾むように一歩先へ出る。
帰ったら、さっそく莉奈さんと次の旅を考えよう。船に乗って、栗を食べて、面白いものを見つけたら三人で立ち止まる。
きっとまた、予定どおりには進まない。
僕は莉奈さんと顔を見合わせ、もみじのあとを追いかけた。

書いているうちに、もみじにもう少し、この世界で楽しいことをさせてあげたくなりました。
初めて焼き芋を食べて、海を見て。
次は船に乗って、栗のお菓子も食べてほしい。
そんな僕の気持ちが、モフと莉奈さんの「次の旅の予定」になりました。
妙に明るい子が生まれたので、僕もすっかり、一緒に寄り道したくなっています。笑