
取協「出版流通合理化案」9項目を読み解く—それぞれの背景と、変わること
日本出版取次協会(取協)は7月16日、9項目からなる「出版流通合理化案」を発表しました。
トラック新法により、遅くとも2028年までに、トラック運送事業者には運賃・料金が国の定める「適正原価」を下回らないようにする義務が課されます。この状況に対応するため、想定される物流コスト増の影響を最小化することが狙いです。
待ったなしの状況下で、すでに各方面との協議が始まっています。
発表された9項目は以下の通り
1.積載効率の改善を目的に稼働日を減少した「発売日カレンダー」の作成
2.地区別の休配日は、首都圏の休配日と一致させる
3.地区別発売日の設定を、輸送会社の要望も踏まえて変更
(輸送日数現行+1 日となる地区の増加)
4.一部のエリアで店舗配達時間を、発売当日の日中帯に変更
5.店舗ごとの指定時間を撤廃し、配達時間帯の目安提示へ変更
6.書籍・雑誌新刊の取次搬入の平準化
7.週刊誌は、発売日前々日までの取次搬入
8.雑誌の本誌と付録を一体品化して取次納品
9.付録返品などに伴う、産業廃棄費用は出版社・メーカー側にて負担
トーハン、日販GHDが揃って連結最終赤字となり苦境が報じられている中、その対策とも読めるものですが、各項目ともこれまでも何度も報じられて来た課題を受けたものでもあります。各項目について、「課題として指摘されてきた過去の経緯」と「実現すると何がどう変わるか」を整理してみます。
(1) 積載効率の改善を目的に稼働日を減少した「発売日カレンダー」の作成
出版輸送の構造問題の根本は、雑誌の物量減少による積載率の低下にあります。かつては”毎日”発売がある雑誌を満載したトラックに書籍をあわせて積むことで低コストの配送が成立していたと言われてきました。
ところが雑誌市場の縮小により積載率の低い状態のトラックを毎日走らせざるを得なくなっています。ただし、物量が減っても、出版物は毎日何かしら刊行されるため、配送の便数・ルートはほとんど減らせない——「運べば運ぶほど赤字」という指摘は繰り返し報じられてきました。
この対策として取協・雑協は2022年度に「週5日以内稼働」を実現し、土曜休配日を段階的に拡大してきています(2026年度は年間稼働日246日、休配日43日)。
実現すると何が変わるか
稼働日を減らせば、1日あたりに運ぶ物量が束ねられ、1台あたりの積載率が上がることになります。便数・車両数を減らせるため、運賃単価が上がっても総コストの増加を抑えられる。環境負荷(走行距離あたりCO2)の面でも効果があると言われています。
一方で書店側には、入荷が特定日に集中することで品出し作業のピークが高くなるといった課題。運送会社の総収入の減少といった課題も残ります。
(2) 地区別の休配日を、首都圏の休配日と一致させる
休配日はこれまで地区ごとに差異があり、首都圏が休配でも一部地区向けの配送・仕分けが動くという(またはその逆の)状態が生じていました。休配日がずれていると、取次の物流拠点や幹線輸送のダイヤを完全には止められず、「休配日を増やしても拠点は動き続ける」という非効率が残ります。
実現すると何が変わるか
全国の休配日が首都圏基準で揃えば、全国向けの仕分けや幹線輸送をまとめて休止しやすくなり、休配日の効果(人員の休日確保、車両稼働の削減)が最大化されると考えられています。
輸送会社にとってはドライバーの休日を計画的に組めるようになり、採用・定着面でもプラスに働くという効果が。一方で 地方の書店にとっては、これまでと入荷パターンが変わる地区が出てきます。
(3) 地区別発売日の設定を、輸送会社の要望も踏まえて変更(輸送日数が現行の1日増となる地区の増加)
地区別発売日の「後ろ倒し」はこれまでも何度も話題になってきました。2019年4月、幹線輸送を担う運送会社からの要請を受けて中国・九州地方への輸送が1日繰り下げられ、「発売日の意味」が大きく報じられました。また、2024年4月にも、ドライバーの時間外労働上限規制(2024年問題)への対応として、京都・兵庫の共配エリア、和歌山、愛媛で雑誌発売日が1日遅くなり、同地域では書籍の配送にも現行より1日多くかかるようになりました。また秋田・岩手でも書籍の配送日数が1日延びています。
背景には、同一地区同時発売の協定を守るために深夜の幹線輸送・深夜配送が必至となる構造があり、出版物流のドライバー集めが厳しい要因とも言われてきました。
実現すると何が変わるか
法令が厳しくなる中、法令遵守可能な無理のないダイヤで組むためにはスケジュールの見直しが必至と言われています。こうすることで、中継輸送や他貨物との混載といった効率化の選択肢を広げる可能性も。「適正運賃」によるコスト跳ね上がりが最も大きくなりそうな幹線輸送での効率化を見込むものと考えられています。
反面、東京と地方の発売日格差はさらに拡大することになります。ECや電子版との「同時性の格差」の拡大は否めず。「同一地区同時発売」という原則や、首都圏を起点に地区ごとの発売日を設定する仕組みそのものの再定義——発売日とは何か、誰のための協定か——が問われることにもなります。
(4) 一部のエリアで店舗配達時間を、発売当日の日中帯に変更
「雑誌発売日協定」を守るため、出版物の店舗配達は深夜〜早朝が前提でした。しかし深夜帯のドライバーは採用が特に難しく、深夜割増もコスト要因になります。
これまでも輸送会社側から「日中は夜間ほどの配送効率は望めないが、日中配送の店と夜間の店を切り分けた柔軟な運用を検討すべき」という問題提起がなされていた経緯があります。