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押入れ【noteでBL:不可思議ショートショート】

    なみさん主催の企画に参加させて頂きました。
    いつもありがとうございます。

    いつもはBL小説のこちらの企画、今回はBLでなくてもOKだったのですが、BLになりました。そんなつもりはなかった。
    怖いとは何ぞや。
    を考え続けていたらゲシュタルト崩壊したので、もうよくわかりません。
    これはヒトコワ話なのかしら。嫌な話なのは間違いない。

    以下本文(1807字)


    押入れから笑い声が聴こえた。

    「お友達同士の行き違いですよ。お子様は、繊細で感受性が豊かですから、ちょっとしたお友達の言葉を大きく捉えたみたいで」

    些細な事で、小学四年生の息子は学校に通えなくなった。リモートワークをする夫の仕事部屋に入りびたり、日中のほとんどを押入れで過ごしていた。

    押入れから聴こえるのは誰かと話をしている息子の声だ。一方的に息子の声だけが聴こえた。小さく話す声笑い声話す声笑い声。

    「イマジナリーフレンドって奴だろ。あの年頃の子にはよくあるよ」

    夫はのんびり言った。
    リビングの鳩時計が七時を告げると、息子は押入れから出て食卓についた。
    息子と夫は随分親密になっていた。食事中にこそこそ耳打ちする息子を、夫が軽くたしなめた。

    「こら、夕ご飯に集中しなさい。母さんに怒られるよ」

    鳩時計は、息子が小学校に入学した際、お祝いに芹沢さんがくれた物だ。
    去年の誕生日プレゼントは鳥の図鑑だった。息子が両手でようやく抱えられるくらいの大判で、ところどころ、鳥が立体的に浮き上がる特殊な印刷がしてあった。息子は押入れにランタンを持ちこみ、図鑑をずっと眺めているらしい。
    芹沢さんは夫の高校の同級生だ。私でも知っているIT企業でシステムエンジニアをしていた。冴えない夫の友人とは思えない、高身長で顔立ちの整ったハイスペックな人だ。

    「ごちそうさま」

    食事が終わると息子はすぐに席を立った。お風呂に入ってすぐ就寝した。いつもの事だ。私と顔を合わせるのは夕食の時だけだ。
    下げ終わった食器を洗う前に、キッチンで鎮痛剤を二錠飲んだ。片頭痛が収まらなかった。

    繁忙期の会社は毎日のように残業があった。
    帰宅するとちょうど鳩時計の扉が閉まる音がした。
    食卓には夫が用意した料理が並んだ。すでに食事をはじめていた息子は、テーブルの上に一眼レフのカメラを置いていた。

    「芹沢が今度の休みにバードウォッチングに行こうって、貸してくれたんだ。アカショウビンが見れるところがあるって。ちょうど木曜日なら僕も休めるし、行ってくるね」

    洗い物は私がした。キッチンで鎮痛剤を二錠。病院から処方されたのもは効き目が悪い。ドラッグストアで購入してきたロキソプロフェンを追加した。

    連日の残業は続いていた。頭痛がひどくて仕事に集中できなかった。
    鎮痛剤が効かないからだ。薄暗い給湯室に座りこんで、ミネラルウォーターで再度飲んだ。胃が痛い。再度飲んだ。脈打つように頭痛が強まった。再度飲んだ。耳鳴りがした。

    「ひどい顔色ですよ。早退して下さい」

    隣席の後輩の言葉に頷いたかわからないが、いつの間にか電車に揺られていた。再度飲んだ。頭痛はどんどんひどくなった。頭の中で何かがドアをガンガン叩いていた。

    階段を登った。鍵を回した。ドアを開いた。

    「お帰り。早かったね」

    慌てた様子の夫が出迎えた。
    夫は赤い顔をして、濡れた髪から水滴が垂れていた。シャツに点々と灰色のシミができていた。フローリングの床にも、夫の髪から雫が音をたてて散らばっていた。ぴちょんぴちょん。
    夫は首元を抑えていた。シャツのボタンがひとつずつずれていた。

    「朝早くからのバードウォッチングで疲れたから、あの子は自分の部屋で寝てるよ。ぼくは汗をかいたからシャワーを浴びていて。急に帰ってきてびっくりしたよ」

    夫の仕事部屋から忍び笑いが聴こえた。押入れだ。
    笑っていた嗤っていた哂っていたわらっていた。

    「何言ってるの? 笑い声なんて聴こえないよ」

    私は靴を履いたまま夫の脇をすり抜けて、仕事部屋に入った。

    「ちょっと、駄目だよ!」

    肩を掴む夫の手を振り払った。
    押入れの戸は一センチばかり開いていた。
    また笑い声がした。
    隙間に指をかけた。何か固いものの抵抗があったが、一気に開いた。押入れの戸が外れた。

    「……おじゃましています」

    押入れには芹沢さんがいた。
    ランタンと鳥の図鑑。壁には大きく引き伸ばした赤い鳥の写真が貼ってあった。
    芹沢さんは右手を抑えた姿勢のまま膝立ちで、Tシャツとボクサーショーツしか身に着けていなかった。抑えた右手から足元のスマホへ血が滴っていた。通話終了の画面。ぴちょんぴちょん。

    「いつから?」

    私はキッチンへむかった。
    鳩時計が五回鳴いた。夕食の準備をしなくてはいけなかった。
    頭痛は収まっていた。思考はクリアだ。
    メニューは決まっていた。手順はわかっていた。
    手早く済ませなければならなかった。
    私はシンクの下から肉切り包丁を取り出した。

    了


     
     

    藤間

     
     
    狂ったマンガ読みです。小説も書きます。 好きなマンガや日々のあれこれ、BLやら創作活動について。 (別名義:ふとうめい)

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