
【掌編小説】待つ時間《シロクマ文芸部》
待つ時間が好きだった。
彼はいつ来るかな。
可愛いって言ってくれるかな。
待ち合わせ時間まで、あと10分、5分…。
そのドキドキが好きだった。
けれど、今は違う。
「ねえ、今日30分も待ったんだけど」
「わるいわるい、ちょっと電車に乗り遅れちゃってさ」
「全然悪いと思ってないじゃん」
「ごめんて。でさ、今日どこ行くんだっけ?」
この会話も、もう何度目か分からない。
「髪切った?可愛い」
「今日の服、初めて見る。似合っている」
「ネイル変えた?いいじゃん」
全部、あなたからもらった言葉だったのに。
今のあなたは、もう前のあなたみたいには私を見てくれない。
遅れてやってきても、見るのはスマホばかり。
「ねえ、もう別れよう」
私は彼の返事も待たずに、改札を通り抜け、帰路に着いた。
電車に乗ると、彼からの着信が鳴った。
応答せずに、そのまま連絡先を削除して、ブロックする。
私はもう、あなたに関しては、何も待ちたくないの。
私は、私を待っててくれる人の所へ帰るんだもの。
シロクマ文芸部の今週のお題「待つ時間」に参加しました。