
屋根の太陽光に「発電を止めて」と頼む島 ~スリランカではなぜ燃料が要るのか~
2025年4月、インド洋の島国スリランカの電力会社は、屋根に太陽光パネルを載せた約10万人の利用者に、昼の発電を止めてほしいと呼びかけました。シンハラ・タミル正月の休みで電気の使用が落ち込み、晴れた昼には太陽光の電気が島全体の需要に対して多すぎる状態になったためです。
その国が今、原油高を受けて太陽光や風力への転換を急ごうとしています。昼に電気が余るほど設備があるのに、なぜ輸入燃料への依存をすぐには解消できないのでしょうか。
Sri Lanka is determined to accelerate its transition to renewable energy spurred by soaring oil prices, but faces major constraints, its energy minister told AFP.https://t.co/pzcPHxhXY1
— AFP News Agency (@AFP) October 25, 2026
スリランカで今、何が起きているのか
2026年10月25日に配信されたインタビューで、アヌラ・カルナティラカ・エネルギー相は、再生可能エネルギー(再エネ)への転換を速める考えを示しました。
同年4月に就任した大臣が直面しているのは、燃料価格の上昇です。
そもそもスリランカは石油とガスを全て輸入に頼っています。
中東での戦争でホルムズ海峡の航行が妨げられ、燃料やガス、電気の価格が上昇し、燃料の配給制も敷かれました。石油・ガスの輸入に、一か月で外貨準備の最大3割に当たる金額を支出したこともあるとされています。
政府は2030年に発電量の70%を再エネで賄う目標を掲げ、大臣はそれを超える必要があるとコメントしました。一方、昼には太陽光の出力が需要を上回り、一部の発電所の出力を抑えているとも述べています。
ちなみに2025年の発電量のうち、再エネは約61%。大規模な水力が約35%、屋根置きの太陽光が約11%、風力が約4%などで、残りの約4割を石炭と石油の火力が担いました。

しかし、年間では再エネが過半を占めても、再エネの特性上、発電量が足りない時間には他の電源で補う必要があります。
なぜ、太陽光が余っても燃料が要るのか
① 外貨で買い続ける燃料
2022年、スリランカの外貨準備は危機的な水準まで落ち込み、燃料を含む必需品の輸入が滞りました。
燃料は消費する分を輸入する必要がありますが、太陽光や風力発電は、その分の燃料代を外貨で払わずに済み、国際価格の高騰や海上輸送の混乱にも影響されにくくなります。
② 水力の島に広がった屋根置き太陽光
山がちで降水量の多い島国であるスリランカの電気は、かつてほぼ全てを水力で賄っていました。しかし、電力需要が伸びた1990年代以降は石炭や石油の火力の比重が高まりました。
そこへ急速に広がったのが屋根置きの太陽光です。余った電気を送電網へ送り、夜に受け取った電気の使用量と差し引く制度が設置を後押ししました。また、2022〜24年に小規模設備向けに設けられた買い取り条件では、1kWh当たり37ルピー(2024年当時で約65円)で20年間買い取る契約を結ぶことができました。
その結果、2025年末の設備容量は屋根置きだけで約2,470MW、太陽光全体では約2,730MWに達しました。
ちなみに設備容量は最大出力の目安なので、これだけの電気が常に供給されるわけではありませんが、日中の需要が2,000〜2,500MWほどの島で、晴れた昼に発電が集中する設備がこの規模まで増加したのです。
③ 発電機を止めると弱まる「安定させる力」
2025年の正月休みには、朝の需要が1,550MWまで落ち込みました。しかし、電力会社は家庭の屋根の発電を直接操作できないため、大型の水力や火力の発電機を止めて供給を需要に合わせました。
ところが、これらの発電機には、電気をつくるほかに大切な働きがあります。電気の供給と消費が急に釣り合わなくなると、交流の波が繰り返す速さを表す「周波数」が変動します。重いタービンなどの回転部分は急には速度を変えないため、この変動を緩やかにします。この「慣性」によって、発電量を調整するまでの時間を稼ぐことができます。
しかし、大型の発電機を止めるほど、この働きも弱まります。
当時の屋根置き太陽光ではその働きを十分に補えず、電力会社は利用者に午前9時から午後3時まで発電を止めるよう求めました。つまり、電気の需給量を合わせるだけでなく、急な乱れに耐えられる状態も保たなければならなかったのです。

料金にも昼夜の違いが表れています。昼に送電した1kWhと夜に受電した1kWhを差し引けば、使用量の計算上はゼロです。しかし、電力会社は夜の電気を別の発電所で用意しなければなりません。大臣は同じインタビューの中で、その費用を国が負っているとして料金制度を見直す考えを示しました。
地理・地政学的な視点
風の産地と、電気を使う場所・時刻
① 風の吹く場所から街へ送る電気
風力開発の中心は島の北西端のマンナール島です。平坦で開けた海岸には4〜9月に強い季節風が吹き、南岸では3.45MWの風車30基、計103.5MWの発電所が稼働しています。
その大型資材は、島の反対側にある東岸のトリンコマリー港などで陸揚げされて道路で運ばれたため、発電所の建設では道路の整備も必要でした。
風の強い土地に風車を建てるには、まず資材を運び込む道を確保しなければなりませんし、発電開始後は、電気を消費地へ送る送電網が必要です。

2024年11月に承認されたアジア開発銀行(ADB)の2億ドルの融資も、送電線や変電所の増強、国内初の送電網向け大型蓄電池、再エネの発電予測などに充てられます。
② 「年間6割」でも月と時刻で異なる供給
2025年の再エネの割合は、3月の43%に対し、6月には73%でした。
6月は南西モンスーンの季節に当たり、マンナールでは風が強まり、南西部や山地では水力発電を支える雨が多く降ります。

1日の中では、太陽光の発電が正午前後に集中し、日没後はゼロになります。石油はタンクに貯蔵して必要な時刻に燃やせますが、晴れる時刻や風が吹く時刻を選ぶことはできません。昼の余った電気を夜に回すには、蓄電する設備が必要です。
2025年5月に承認された長期の電源開発計画は、2044年までに合計約900MWの蓄電池と、2034年に600MWの揚水発電所の導入を見込んでいます。揚水発電は、余った電気で水を高い池へくみ上げ、必要な時刻に落として発電する方式で、再エネでありながら発電の自由度が高くなる特徴があります。
蓄電池と同様、揚水発電は発電する時刻と使う時刻のずれを埋めているのです。
③ 全国の燃料代を減らす風車と地元の負担
マンナール島は、中央アジアから南へ渡る鳥の重要な中継地です。周辺のヴァンカライ湿地はラムサール条約に登録され、既存の風車30基には、近づく鳥をレーダーで検知して一時停止する装置が付いています。
それでも住民は、洪水や漁獲の落ち込み、渡り鳥への影響を風車のせいだと訴えてきました。国全体では輸入燃料の節減につながる風力でも、風車や道路が建設される土地では、暮らしや生態系への影響が問われています。
インドのアダニ・グループもマンナールと北部のプーネリンで計484MWの風力発電を計画していましたが、買い取り価格の再交渉が進む中で、環境面の承認や最高裁での係争など困難な課題を抱え、2025年2月に撤退しました。
政府は、承認済みや建設中の事業を除き、今後の風力はマンナール以外で進める方針です。しかし候補地を移せば、風の観測から、送電線への接続、土地利用の調整まで新たな場所で取り組むことになります。
今回のニュースが問いかけること
2025年6月、世界銀行グループは、スリランカの電力転換に1億5,000万ドルの支援を承認しましたが、このうち4,000万ドルは電力会社による電気の買い取り代金の支払いを保証する枠です。
これには事業者が長期にわたり代金を受け取れるよう支え、8億ドルを超える民間投資を呼び込む狙いがあります。
太陽光や風力は燃料代がかからない代わりに、発電を始める前にパネルや風車を建設し、送電線や蓄電池も整備する必要があります。
投資した費用は、稼働後の電気の売上から長い年月をかけて回収します。毎月の燃料輸入で失う外貨を減らすには、その前に莫大な設備投資の資金を用意しなければならないのです。

燃料の代金を外貨で払ってきた島は、太陽と風の電気を必要な時刻と場所へ届ける設備に、誰の資金で、いつ投資するのでしょうか。
政府や援助機関には、パネルや風車を増やす計画と共に、送電線や蓄電設備の完成時期、その資金をどう確保するかまで一体で検討することが求められます。
今日の地理ワード
「モンスーン(monsoon)」
季節によって風向きがほぼ反対に入れ替わる、広い範囲の風のこと。
語源は「季節」を意味するアラビア語です。
陸は海より暖まりやすく冷めやすいため、夏は大陸側の気圧が下がり、海から湿った風が吹き込みます。冬は反対に、冷えた大陸から海へ風が吹き出します。南アジアでは、夏の南西モンスーンと冬の北東モンスーンが入れ替わります。

例えばインドでは、6〜9月の南西モンスーンの時期の雨が、年間降水量の約75%を占めます(1971〜2020年の平年値)。
この季節風を手がかりにすると、南アジアの稲作の暦だけでなく、水力や風力の発電量に季節差がある理由も読み解けます。
気軽に深く知るためのヒント
地図帳でスリランカを開き、北西端のマンナール島と最大都市コロンボの位置を確認してみる
電力会社が公表している時間帯ごとの電力需要のグラフを見てみる
太陽光発電の出力が1日の中でどう推移するか、晴れの日と雨の日で調べてみる
日本の揚水発電所がどこにあるか調べ、山の地形との関係を考えてみる
季節によって風向きが入れ替わる地域を、世界地図で探してみる
執筆者について
瀧波 一誠
地理戦略アドバイザー/一般社団法人日本地域地理研究所 代表理事
帝国書院研究室 共同研究者、防災士
ニュースと地域の「なぜそこなのか」に、地理で答えます。
様々な自然現象・社会的事象がそこにある理由を、地形や気候、交通・物流、歴史・制度のつながりなどから読み解き、記事・番組・教材・図版・講演で伝えています。
ご依頼いただける内容
地理×メディア:
・時事や地域の背景を解説する記事・連載
・番組や出版物の地理に関する内容の監修
・報道機関からの取材対応
専門誌(CISTEC journal)でホルムズ海峡と代替輸送路を解説、テレビ朝日・NHK Eテレの番組内容、週刊誌及び新聞の記事監修
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群馬県沼田市での講演、オルタナ編集部向けの研修
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・教材の事実確認と構成の提案
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帝国書院研究室との教材共同研究
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地理×観光:
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著書
単著『世界の「なぜ?」がまるわかり! 面白すぎる地理の話』(産業編集センター、2026年3月)第4刷
共著『ゼロから学びなおす 知らないことだらけの日本地理』(地理おた部 著、WAVE出版、2023年7月)
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