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Photo byfukkuraborisat

つけっぱなしのエアコン

    動物の死について書いています。ご留意の上、お読みください。

    このタイトルだけを書いた下書きは9月上旬の日付だった。いつの間にか9月を通り過ぎて、秋になっていた。

    10月のとある金曜日、いつもよりも遅く仕事から帰宅すると、食事を終えた家族がリビングでテレビを観ていた。「おや?」と思った。いつもと違った風景だったからだ。いつもなら、家族全員がおなじ画面に見入っているということは少ない。

    いつもは、子どもたちはそれぞれ好きなことをして、妻もキッチンに入って作業していることが多い時間帯だ。晩御飯が遅くなったのか、みんなが少しずつ疲れているのか。

    ひとしきり会話をしたのち、妻がふだんの口調で話し始めた。

    「今日さ、ハム子が動かなくなってて。夕方に、みんなで動物病院行ってきたんだけど、亡くなってた。水が飲めなかったのかなって。」

    ハム子、とは我が家で飼っているハムスターのあだ名である。本来の名前は子が付けていたのだけれど、妻が呼んでいた”ハム子”が呼びやすく、いつの間にか定着していた。

    ハム子の家(ケージ)は、リビングの真ん中、テレビの隣の低いチェストの上が定位置だった。確かに、物音がしなかった。子どもたちを連れて動物病院に行って、きちんと獣医師さんに診てもらったらしいので間違いないのだろう。

    ハム子を我が家に迎えたとき、いつか別れの時が来ることは覚悟していたものの、こんなに早く、しかも呆気なく訪れてしまうとは家族の誰も予想していなかった。

    ハムスターを飼うにあたって、事前にハムスターの種類や性格、食べるものや寿命などを調べていた。検討していた品種の寿命は1.5年とあった。

    店では、どんなところに注意して飼うのかを店員さんに細かく聞いた。大きな音に注意したり、室温が暑くならないようにするなど、家族みんなで小さな命を迎えるための心づもりをして、おそるおそる我が家に連れて帰ってきた。

    ずっとおそるおそるで、ケージから逃げないように餌をやり、ケージを清潔に保つために毎週洗い、ストレスを与えないようにハム子には触らないなど、徹底していた。きっと、子どもたちは”手を噛まれるかも”と店員さんが言ったのが、怖かったのだろう。

    6月から10月のわずか5ヶ月たらず。

    丁寧に、しかし距離感を保って可愛がっていた子どもたちには、ハム子に触れる機会は、ついぞ訪れることはなかった。

    9月にタイトルだけ書いていたのは、エアコンをつけっぱなしにする季節が終わろうとしている、という話を書こうとしたのだ。これから涼しくなって、ハム子のためにエアコンを稼働させなくても心地いい季節がやってくるはずだった。

    夜中や早朝、リビングで過ごしていると、ケージからカサカサと物音がすることがあった。ときにはカチカチッと水を飲んでいる音がした。カツカツとケージの部品を齧っている音がした。

    中でも僕が好きだったのは、ガラガラっと回し車を回転させる音だ。ハム子の体が少しずつ大きくなって、その音も変化していった。

    亡くなる前夜、ひまわりの種やケージに敷く木屑、トイレ用の砂などが届いていた。ひまわりの種に喜ぶ様子を想像して購入したのに、ハム子にあげられたのは一粒だけだったらしい。


    飼いたい、と強く要望していた上の子は、最後の最後でハム子を手に乗せた。きっと、本来の温かさはなかっただろう。爪を立てられることも、歯で齧られることもない。逃げ出しもしなければ、見つめ返してもくれないハム子の姿に、何を思っていたのだろうか。

    こんなことなら…と後悔することはいくつもあるかもしれない。僕も、かつて実家で飼っていた犬が亡くなった時、とても寂しくて辛くて悲しい時間を引きずっていた。

    生き物を飼うことは、こういう時の辛さも引き受けることかもしれない。思いがけず、早くにその機会は訪れてしまったけれど、説明するよりも鮮明にその体験が記憶に残るだろうし、その後の人生にも少なからず影響が出ることだってあるだろう。

    何をしてあげればよかったのか、何をしなければよかったのか、分からないままだけれど、その難しさが子どもたちに伝わっていたらいいなと思う。




     
     
    いつでも”平熱”のエッセイスト。穏やかな日常を素直に書いていきたい。妻と子(11歳・7歳・3歳)と、モンブランが好き。地方公務員・転職組。

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